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100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者  作者: 霖霧 露
第一章~勇者(?)の受難、それと女難~
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第二十節 聖剣は切り開く

「もう良い!魔王様からも『殺せるなら殺してこい』と仰せつかっておる!貴様らはここで死ね!!」


 物凄くやる気が削がれた戦いの火蓋が、敵の八つ当たり的な怒号によって切られる。


「気を付けてください!人柄は御覧の通りかわいそうなものですが、陣地防衛にて最強を誇ると言われた魔術師です!」

「相変わらず口の減らん奴っ、まずはその口を2度と開けぬようにしてくれるわ!」


 パースの忠告が正しい事を示すように、レヴィは当然の如く詠唱破棄で魔術を放った。

 床や天井から対象を刺し貫かんと、尖った岩が隆起する。


「読めていますよ、レヴィ。貴女が得意とするのは土魔術でしたから、ね!」


 パースは岩を難なく躱したすぐ、レヴィへと反撃の矢を射った。

 だが、それは隆起した岩壁で阻まれ、矢の爆発もその熱すら無力となる。


「弱い弱い。そんな攻撃なんぞ、儂には届かんよ」

「ええ、届かないでしょうね。届かせるつもりはありませんでしたので」


 レヴィの嘲笑に、パースは不敵な笑みを返した。

 その瞬間、レヴィの背後、爆発で巻き上がった土煙の中からウィンがその身を現す。

 爆発はただの目くらましだったのだ。

 ウィンの剛腕が、レヴィの首を狩ろうと振るわれる。


「無駄じゃ、無駄無駄」


 まるで見えていたかのように、その背後にも岩壁が隆起した。

 そこに、琴の音が響く。


The() sound(サウンド),confuse(コンフューズ) the() magic(マジック).」


 トリスの魔術が、岩壁を生み出す魔術を『魔術式崩壊』によって打ち消しにかかった。

 狙い通りに岩壁は崩れ出す。かと思いきや、瞬時に再生されてしまった。

 ウィンの追撃も間に合わず、その頑丈さは保持される。


「……」

「『何故?』と言いたげじゃがな。1度壊されてしまうのなら、何度でも作り直せば良いだけの事。陣地防衛だけとはいえ、儂は最強を誇っておったのじゃ。そんな初歩的な弱点、克服していて当然じゃろう」


 トリスのきつい視線に対して、レヴィは己を守る岩壁から余裕の表情を覗かせた。

 『魔術式崩壊』に対し、『魔術式再生』とも呼ぶべき技術で対処していたのだ。

 そんな頑丈な壁に前も後ろも守られ、そうして出来上がった安全圏でレヴィは悠々と玉座に腰を落ち着けている。


「上が!空いていますよ!」


 前後で駄目なら上からだと、ベアウが岩壁を飛び越え、レヴィに襲い掛かろうとした。


「空いておらんよ」


 そんな明らかな急所を残している訳もなく、むしろそれが誘いであったかのように、天井から石柱が突き出される。

 地から足を放した空中では避けようがない一撃であるが、みすみす直撃させてやる程、エクスカリバーは愚鈍でない。

 罠から助けた時と同様、エクスカリバーは跳んだ。

 突き飛ばすしかなかった前回とは違い、充分に力を込めた跳躍はベアウを攫い、共に攻撃範囲から飛び出す。


「ご、ごめんなさい、勇者様!」

「謝罪は死んだ後で良い。生きてるなら構わない」

「は、はい!」


 ベアウからの感謝を、エクスカリバーはわざわざ勇者っぽく優し気な眼を向けた上で受け取っていた。

 無駄に勇者の演技が上手い。


「さて、見え透いた急所を残しておくのも面倒じゃ。これで、貴様らも小賢しく急所を探す必要もなくなるじゃろう」


 レヴィの姿が完全に岩壁で隠された。攻撃できそうなわずかな隙間もない。


「自らの視界も捨てるとは。防御に徹するつもりか」

「そんなつもりは微塵もないわ。このダンジョンは儂が作った物。お前らの居場所なぞ、手に取るように分かるわ」


 レヴィの言葉に嘘はなく、隆起する岩は推測を誤ったウィンを的確に狙ってきた。

 ウィンは迫る岩を一旦砕き、再生される前にその矛先から逃げる。


「これは、なかなか攻めあぐねてしまいますね……」

「良い顔になったではないか、パース。もっとその顔をよく見せよ。もっと必死に足掻いてみよ、己の死期を悟りながらな」


 堅い守りに苦しめられるパースをより苦しめるべく、レヴィは次の手に出た。

 なんと、非常に緩慢ながら、天井が迫ってきているのだ。

 帰りの道も閉ざされ、逃げ場はない。


「くっ!徐々に潰れていく様を楽しむと言うのか!」

「趣味が悪いです!」

「言うに事欠いて趣味が悪いとな!?儂はデビル、ひいては魔王軍幹部じゃぞ!?」


 ウィンとベアウがその非人道さに吠えたが、レヴィにもっともな返しをされていた。

 そりゃ、デビルに人道を説くのはお門違いである。人じゃないのだし。


「どうしたものですかね……」

「……」


 パースとトリスがこの現状に頭を悩めているが、妙案が提示される事はない。


「1つ、伺いたいのですが。あの岩壁、一瞬でも良いので壊せませんか?」

「……ウィンさんが『ステラグマイト』を砕いていましたが、どうですか?」

「防御に注力されたあの『ロックウォール』の破砕は、ベアウの手を借りても難しいかと……」

「僕が弱いばかりに……」


 エクスカリバーが問う可不可に、パースはウィンへ希望を託すが、そのウィンとベアウは悔しそうに拳を握り込んだ。

 これは、無理なのか……。


「私が『魔術式崩壊』をし続ける。それなら、多少脆くなるはずだ」

「そうか、それならば!」


 トリスからの補助が得られ、これでウィンはかすかな可能性を見出した。


「賭けましょう。どのみち、オレたちにはその手しかない」

「ええ!」

「はい!」

「……」


 ウィン、ベアウ、トリスは、その微かな可能性に全てを賭けた。


「では。ベアウ、合わせて」

「合わせます、兄さん!」

「3つ数えて、同時に仕掛ける」


 3人が間を計る。


「3、2、1!The() sound(サウンド),confuse(コンフューズ) the() magic(マジック).『マジック・ブレイク』!」

「セイ!!」

「エイ!!」


 トリスの魔術によって少しだけでも脆くなった岩壁に、ウィンとベアウが肉体強化による全力の一撃を重ねた。

 岩壁は見事に砕け散り、レヴィがその姿を(さら)す。

 再生される前にエクスカリバーはレヴィを間合いに捉え、聖剣を首へと振るう。


 聖剣は、見えざる壁に止められた。


「『クォーツウォール』、透明な鉱物である玻璃(はり)の壁じゃ。知らなかったかのう、玻璃は硬いんじゃ。残念じゃったのう」


 岩壁の先にもう1枚、レヴィは防御を固めていたのである。


「ああ、残念だ。魔王軍幹部が、聖剣エクスカリバーの伝説に対して無知なんて」


 エクスカリバーはレヴィの勝ち誇った笑みを見納めた。


「……はえ?」


 そして、その笑みが張り付いた頭を刈り取る。


「知らなかったのか?聖剣エクスカリバーに、切れぬ物はないんだ」


 万物を切り裂く聖剣エクスカリバーが、レヴィの首を()ねたのだ。

〈用語解説〉

『ステラグマイト』

…地面から尖った岩を隆起させる土魔術。魔術行使者の技量により、その頑丈さと大きさが変動し、その形も自由に変更できる。また、極めた者はその岩の発生点を地面だけに縛られない。


『ロックウォール』

…地面から岩壁を隆起させる土魔術。『ステラグマイト』と同様、魔術行使者の技量により頑丈さや大きさが変動し、発生点が地面だけに縛られない。形状については直方体に限定されるが、高い技量を持つ者は岩を水晶などの頑強な鉱物に変更できる。

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