第十九節 かつての英雄が堕ちた先
「特別じゃ、儂に拝謁する名誉を与えよう。奥へ参れ」
何者かの招きによって開かれた、ダンジョンのさらに奥。
エクスカリバーが勘で言っていたダンジョンの主、その実在に答え合わせをしていた。
この異常なダンジョンを作ったであろう主。
作ったダンジョンをずっと観察し続け、操作し続け、適宜に遠隔から魔術を使って冒険者を圧殺していただろう、その者。
まず間違いなく、そこら辺の魔物ではない。
野放しにできる相手ではない。
強敵の予感に身を震わせるが、勇者である俺は威厳のため、近衛兵である他は国のため、退く事が許されない。
「お招きを受けるしかないのでしょうが、ちょっとお待ちを」
パースは来た道の方へ、紙が括りつけられた矢を射る。
「これで良し。我々が得た情報を、矢文で留守番しているニオたちに伝えました。リカルドさんの救助も彼らに任せましたのでご心配なく。これで何かあっても、最悪ランテ総長たちがどうにかしてくれるでしょう」
パースは最悪を想定し、保険をかけていたようだ。
準備が良く、実に仕事をしているが、縁起でもない。
「ご安心を。死力を尽くしてでも、オレは悪を倒し、皆と共に生還してみせますよ」
これから戦いだろうとエクスカリバーに体の主導権を渡していれば、エクスカリバーはそんな勇者らしい言葉を吐きやがった。
お前、勇者として振る舞うのに余念がないな。
(お前に嫌がらせするためだからな)
クソが。
「では、行きましょうか」
諸々の準備を終えたパースが、珍しくも先陣を切った。
皆は彼の後に付いて行く。
通路を5分程歩けば、また開けた空間に出る。
その空間の真ん中で、少女が玉座に腰を下ろしていた。
「ようこそ、憎き勇者御一行様」
蝙蝠の羽根と捻じれた角、そして人型。
この少女が高位のデビルである事を物語っていた。
だが、少女と形容したように、その外見はとても幼い。
「レヴィ・ガーン。まさか、魔物に身をやつす程堕ちていましたか」
「は?『レヴィ・ガーン』だって?」
パースはそのデビルを見納めるや、唐突にそう零した。
しかし、その名前がどうしてこの場で出てくるのか。
『レヴィ・ガーン』は勇者アルト伝説で語られる裏切り者、1000年近く前の人物だ。
このような場所にそんな人物が出てくるとは、全く予想できない。
だと言うのに、パースはそのデビルを『レヴィ・ガーン』と断定していた。
「ほう、儂の名を知っておるとは。良い心がけ……、ではなさそうじゃな。貴様の顔、覚えておるぞ。パース・ヴ―――」
レヴィと呼ばれるデビルが喋っている途中、彼女の足元が爆発する。
爆発を起こす魔術が仕込まれていたのか、パースの矢がデビルの足元を爆発させたのだ。
「軽々しくその名前を口にしないでくださいよ」
いつも軽い雰囲気で不真面目そうなパースが、この時だけ殺気を滲み出していた。
彼は明確に、あのデビルへ敵意を抱いている。
「やれやれ、淑女の言葉を遮るとはのぉ。無礼な輩じゃ」
「貴様に尽くす礼儀など、持ち合わせておりませんので」
デビルとパースの視線が一切の親しさなく、火花を散らしそうなくらいぶつかり合っていた。
この2人の間には何やら因縁があるようだが、俺たちにそれを知る由はない。
「『レヴィ・ガーン』と呼ばれていたが、本人なのか」
「いかにも、憎き勇者様よ。儂が勇者アルトに死をくれてやった、『レヴィ・ガーン』その人じゃ。今は魔王軍幹部なんぞやっておるよ」
このデビルの言葉が嘘でなければ、このデビルこそ伝説にその名を記す『レヴィ・ガーン』のようだ。
一応、種族がデビルであるならば、1000年前から生きている事に説明はつく。
デビルは特に寿命が長い魔物だ。1000年は余裕で生きるとされている。
「我らが建国王、勇者アルト様を裏切った者が今更なんの用ですか!」
「決まっておろう、勇者を絶やすためじゃ」
ベアウが睨みつつ問えば、デビル改めレヴィはベアウに睨み返すのではなく、俺を睨んだ。
まぁ、そうだろうとは思っていた。
魔王軍にとって、勇者なんてのは怨敵だ。
「儂という者がありながら、ラビツ姫なんぞと結婚しおった、あの憎きアルトの剣を継ぐ者。そんな輩、生かしておけるものか!」
……はい?
「はぁ……。そんなだから、貴女が裏切った経緯は伝説に残されなかったんですよ……」
パースが落胆しているが……。
え?あの、俺はそんな理由で狙われてんの?
「そんなくだらない理由で貴方は我らが建国王を殺し、我らの新たなる勇者も殺そうと言うのか」
「くだらないとは何じゃ、若造が!儂がどれ程あの男に尽くしたと思うておる!旅の始まりより傍で助力してやったのに、あやつは人の気持ちも知らなんだ!」
「そんなだから、貴女はアルト王に振り向いてもらえなかったんですよ」
「黙れぇ!」
ウィンにもパースにも逆上しているし、レヴィの理由はマジらしい。
それって、俺が狙われるのは逆恨みどころじゃないんだけど……。
「もう良い!魔王様からも『殺せるなら殺してこい』と仰せつかっておる!貴様らはここで死ね!!」
そんなこんなで、魔王軍幹部レヴィとの戦いが、物凄くやる気が削がれた上で始まるのだった。




