第十七節 異常なダンジョン
俺含めたダンジョン攻略の人員が王都から出立して2日。ようやく目的地であるダンジョンの入口、まるで神殿のような建物の前へと辿り着いた。
「The sound,detect.『ソナー』」
トリスが入り口で魔術を使ったと思えば、紙に何かを記し始める。
筆が止まったところでその紙がパースへと手渡された。
まだ遺恨はあるだろうに、彼女は仕事に私情を挿まない。それも好きな人を倣ってか。
「トリスさんはいったい何を記されていたのです?」
「ダンジョン内の地図ですよ。彼女の『ソナー』は、大まかではありますが、地形を瞬時に把握する魔術なんです」
紙を横から覗き込むと、パースの言葉に嘘はなく、上からの二次元的な地図が描かれていた。
その身でダンジョン内を探索し、地図を起こしている冒険者は泣いて良い。
「ふーむ……。外装から予想できていましたが、随分としっかりした造りのダンジョンですねぇ。地下空洞みたいな自然な凹凸も、廃坑みたいな廃棄された人工物もなさそうな……。失礼、トリスさん。このたくさんある丸って柱ではありませんか?」
パースの質問に、トリスは口を開かないまま絵を描き、その紙を寄越す。
どうやら、その丸を細かく描写したらしい。神殿にありそうな彫刻芸術的柱が描かれていた。
「このダンジョンって、本当にダンジョンなのですか?遺跡ではなく?」
かつて神を祭っていた神殿と言われた方が納得できる建造物だ。
「少なくとも、こんな場所に遺跡はありませんでしたね。地殻変動で現れたとするには、破損も風化をしていませんので」
パースが言う通り、確かに新品の如く綺麗であり、昔に作られた物とは見受けられない。
「パース隊長。私はダンジョンについて浅学なのですが、ダンジョンとはもっと自然的な物ではありませんか?」
「ええ。地下空洞のような自然的な物ばかりで、あっても廃坑などの廃棄された人工物を巻き込む程度です。ここまで人工的なダンジョンは、私も初めてですよ」
ウィンが訝しみ、パースが初めて目の当たりにするくらい、このダンジョンは異常であった。
「話を遮るようで申し訳ありません!トリス隊長、この1つだけある歪な丸はなんでしょうか?」
「おそらくは、人間」
「なんですって!?」
ベアウがトリスから思わぬ事実を引き出し、ベアウが目を見開いた心境を代弁するように、ウィンが驚愕の声を上げた。
「今すぐ助けに行きましょう!」
「未帰還者が出たと報告を受けてから、実に3日は経過しています。入り口で足踏みしている場合ではないかと」
正義感の強いベアウとウィンは、すぐさまに未帰還者らしき者の救助を進言する。
「対象が身動きを取っている兆候はなかった。生存の可能性は低い」
「それでも、我々近衛兵は人命を貴ぶ者!その低い可能性を見捨てる訳に行かないでしょう!」
冷静な思考で現実を叩きつけるトリスと、熱くなった心で理想を説くウィン。
平行線だ、これでは議論が進まない。
「何にせよ、入り口で調査するにも限界がある。ダンジョンに入りましょう。俺が先頭になります」
進まぬ議論なら、付き合う必要はない。
さっさと合理的な行動をとって、物事を進展させるべきだ。
「はいはい。では、テノールさんが責任を背負ってくれるそうなので、入っちゃいましょうか」
おいパース、誰が責任を背負うと言った。そういうのは隊長であるお前の役目だろうが。
(責任押し付ける相手として、体よく使われたな)
クソが。
「ニオ、ユン、ベンの3名は待機。3日経って帰って来なかったら、我々も未帰還者として扱ってくださいね」
「はい!ご武運を」
4番隊の隊員たちを馬車の見張り番とし、そうしてパースと俺たちはダンジョンの入り口を潜る。
ダンジョンの内装は入り口と同様、神殿のような神聖さすら感じさせるそれだった。
装飾として火の灯った蝋燭も並べられているから、明るく照らされていて視界の確保が容易だ。
地図によると、通路がいくつかに分岐し、開けた空間に繋がっている。
未帰還者らしき者が居る場所は、真っすぐ行った突き当りの空間。慎重に進んでも20分はかからないだろう。
このダンジョン、内装が神殿のようで異常だが、他のダンジョンに比べて規模が小さいのも異常だ。
モンスターも出てこないと言うし、これで未帰還者が居るとなると、嫌な予感しかしない。
とりあえず、人命優先という事で突き当たりの空間を目指す。
モンスターや罠も警戒して進むが、肩透かしのようにまるで何も起こらない。
そのまま何事もなくまっすぐ進めば、開けた空間と、そこに倒れ伏した人影が視界に収まった。
「大丈夫ですか!?近衛兵が救助に来ました!」
人影が血を流しているのを確認してか、ベアウは焦って走り出す。
「っ!?来るな!」
(テノール!)
人影がベアウの救助を拒むのと、エクスカリバーが俺へ注意を促すの。そして、ベアウの踏む床がせり上がるのは、ほぼ同時だった。




