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100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者  作者: 霖霧 露
第一章~勇者(?)の受難、それと女難~
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第十六節 神曰く、皆で作ったカレーは美味い

 ダンジョンへの道中2日目。

 昨晩の魔物対峙に特筆すべき事はない。隊長格が2人も居れば、魔物が他所より強いホッタン領の魔物とはいえ、苦戦を強いられる事などないだろう。

 強いて語るのであれば、魔術師のトリスと弓使いのパースが後衛で、剣士の俺が前衛だった事か。

 事の発端が後衛なのは、個人的に釈然としなかった。


「いやはや、昨晩は酷い目に遭いましたね」

「パースさんがあんなに笑うからでしょう」


 2台編成、その前に配された馬車の御者台で、馬を操っている隣のパースを俺は肘で小突く。

 本当に、この男が笑いさえしなければ、こんな男2人で仲良く並ぶ事はなかったのだ。

 客車に居るとトリスに睨まれて、俺の気が全然休まらない。


(そもそも、お前があの女の秘密を暴かなければ良かったんじゃねぇか?)


 逆に考えるんだ、トリスの秘密を握れたと。

 これで彼女を強請(ゆす)って好き勝手にできる。


(勇者のやる事じゃねぇな)

(そうなんだよ。お前が演じた勇者然とした勇者像を守らなきゃいけないから、それができないんだよ)

(いや、その理屈はおかしくねぇか)


 何もおかしくないので、エクスカリバーの抗議は受け付けなかった。


「でもあれはねぇ。私が笑ってなければ、きっとテノールさんが笑っていたでしょう?」

「女性を笑うなんて、そんな不躾な事はしませんよ」


 むしろ、きつめの顔の女性が赤面していたのだ。美味しいと微笑みこそすれ、面白いと笑いはしない。


「なるほど、テノールさんは紳士ですね。私はもう、腹がよじれる程面白かったので。まさかトリスさんが―――」

「それ以上はいけない」


 馬車の中から琴の音色が聞こえてきたので、パースの口を俺は咄嗟に塞いだ。

 続けさせていれば、トリスの魔術が飛んできたかもしれない。

 しかし、塞ぐのが遅かったのか、客車の窓が開けられる。


「昼食の時間です!」


 違った。窓を開けたのは怒ったトリスではなく、食事休憩の時間になった事を伝えようとしたベアウだった。


 という事で、昼食をとるべく馬車は一旦停まり、料理の支度が始まる。




「うーん!カレーがとっても美味しいです!」

「主神スタッカートも言っていました、『皆で作ったカレーは美味い』と。あの言葉に偽りはなかった」


 出来上がったカレーを食べて各々感想を述べるベアウとウィン。

 ちなみに、主神スタッカートが遺したとされる書物、『コジ記』には本当にそんな言葉が記されている。


「その言葉もですが、なんで主神スタッカートはカレーの調理方法なんて書き残したのでしょうか」

「じゃが芋や人参、果ては香辛料の原料も、その栽培方法まで書き残してますからね。いやーほんと、かの神は謎が多い」


 俺が疑問を漏らし、パースも釣られたように、とかくあの神は変なモノばかり書き残している。

 いや、書き残した物のほとんどは有用で、一部の変なモノが際立っているだけかもしれないが。


「カレーに限らず、我々が日々食すパンも、そして小麦についてもかの神は知識を残していますからね。その他の料理も数知れず」

「未だ再現に至っていない料理も多くあるそうです!例えば『赤飯』は、『糯米(もちごめ)』と呼ばれる原材料が見つかっていないため、再現できていないんです!」


 ウィンとベアウがかの神の残した知識をいくつか上げるが、料理ばかりだ。


「かの神の最も謎な部分は、我々が使っているこの言葉ですよ」

「『ニホンゴ』、でしたか」

「そうです、テノールさん。今や全国家で使われているため、『ニホンゴ』なんて名称は呼ばれておりませんがね」


 最早区別する意味がなくなった、全国家に広まった統一言語『ニホンゴ』。

 これ以外の言語は魔術言語たる『エイゴ』しかなく、それも日常会話には使われていない。


「この『ニホンゴ』、数万年前に生み出された言語のはずなのに、新しく作られた単語がほぼないんですよね」


 そう。驚くべき事に、万物に対しほぼ全てに名前が数万年も前から付けられていたのだ。

 当時の技術では作れなかった『硝子(がらす)』から、今の技術でも作れていない『拳銃』まで、ありとあらゆるモノにもう名前が付けられている。


「『かの神は未来を見る事ができた』と、実しやかに語られている所以ですね」

「『人類を救うために遣わされた者』とも語られてますね、こっちは『始まりの六柱』全員を差した語りですが」


 本当に、主神スタッカートを含め『始まりの六柱』は謎に包まれている。

 かの神々がどこから来たのかさえ、まるで分かっていない。

 かの神々は急に現れて、その当時の人類にはあり得ない技術力と知識量で以って、人類史を拓いた。


 なんと言うか、出来過ぎた話だ。

 俺はあまりあの神々の実在を信じていない。

 どうせ作り話で、その作り話は語り継いだ奴らがさらに話を盛っていっただけである。

 発見される『コジ記』も写本で、その原本は行方知れずだし。


 そんな内心冷めている俺を他所に、主神スタッカートに関する考察談義は休憩時間が終わるまで続くのだった。

〈用語解説〉

『コジ記』

…万物についての知識が記されているとされる、主神スタッカートが書き残した書物。現在発見されているのはどれも写本にして原本の断片。その原本は何処かに隠されているとも、まだ存命の主神スタッカートが保持しているとも言われている。ちなみに、『コジ記』の『コジ』が何を意味する言葉であるかは、未だ解明されていない。

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