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100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者  作者: 霖霧 露
第一章~勇者(?)の受難、それと女難~
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第十三節 勇者なら行ける行ける

「で、できました……。照明兼録音二重魔道具……」


 例の魔道具、『照明兼録音二重魔道具』なんて名前を付けられた物の複製を頼んだ5日後の朝。

 ブレンダは酷く眠たげの面持ちで俺の自室に現れた。眠たげなんだが、某3番隊隊長と違って、身だしなみはしっかり整えている。


「ありがとう、ブレンダ。君の時間を長く奪ってしまってすまなかった」

「お気になさらず。テノールさんの頼みが最優先ですから」

「本当にありがとう。これはせめてものお礼だ、受け取ってくれ」

「良いんですよ、お礼なんて。むしろ、私のこの行いこそお礼なんです。近衛兵3番隊に推薦していただいた恩、その恩返しなんですから」


 革袋を突き返されてしまうが、ここで引き下がってはならない。


「ブレンダ、俺は君との関係を終わらせたくないんだ」


 せっかくできた3番隊への繋がりを、頼めば割と無理も聞いてくれる人員を、俺が手放す訳はない。


(お前マジで下衆だな)


 せっかくの縁をみすみす逃す奴があるか。俺の考えは正当だ。


「え……、あの……。それって……」

「俺は、君とずっと一緒で居たいんだ」

「て、テノールさん……」


 手を取り合い、見つめ合う。


「ブレンダ、ずっと……。ずっと、俺と親友で居てくれ。……て、ブレンダ?」


 急にブレンダが肩をガクッと落とした。


(あーあ……。こいつぁおかわいそうに……)


 いつもは人を馬鹿にするエクスカリバーが、そのブレンダを憐れんでいる。

 俺、なんかやっちゃった?


(……)


 おい、何か言え。


(バーカ)


 誰が罵倒を言えと言った。


「分かってました……。きっとこういう落ちなんだろうって、何となく分かってたんです……」

「えっと、ブレンダ?あー、なんだ。……ごめん」

「良いんです大丈夫ですテノールさんは何も悪くないです!」


 泣きながら否定されたら自棄にしか見えんのだが。


「とりあえずだな?これは謝罪料って事で受け取ってくれ」

「はい……。……ん?結構重いけど中身は何……。き、金貨ー!?」


 革袋の中身を確認して驚くブレンダ。感情が忙しそうだ。


 ちなみに、革袋の中身はアルト金貨3枚。貴族みたいに贅沢しなければ3年は暮らせる。


「てててててテノールさん!こんな大金もらえません!」

「魔術研究に当ててくれ。研究ってお金がかかるだろう?」

「でも……」


 ブレンダは反論できずに言葉を詰まらせた。

 そんな時、この話を打ち切るように扉が叩かれる。


「テノールさん、ダンジョンについてお話があるんですが」


 扉越しに聞こえるのはパースの声。

 これは、実に都合が良いかもしれない。


「どうぞ。鍵は開いています」

「では、失礼して。……おや、これは。邪魔してしまいましたかね」


 パースはブレンダも居るのに気付き、邪推したように悪い笑顔を浮かべた。


「ぱ、パース隊長!お、お仕事お疲れ様です!」


 パースに揶揄われているのだが、それ以上に隊長との思わぬ遭遇に意識を持っていかれたようだ。ブレンダはパースに向かって頭を下げた。


「そっちもご苦労様。勇者様と大事な話があるから、悪いけど退室してくださいね」

「はい!し、失礼します!」


 揶揄い甲斐がないと判断したのか、パースは仕事を優先し、一般隊員でしかないブレンダは追い出す。

 そして、ブレンダは金貨の入った革袋を持ったまま退室し、俺は見事に対価の支払いを成功させたのであった。


「ダンジョンについてとなると、冒険者の調査が終わりましたか?」

「悲しい事に逆です。全く終わりそうにありません」


 それは予想外の答えだった。

 多くの冒険者がダンジョン調査の依頼受注をしたのを、俺は冒険者組合で確かに見届けた。

 本部の冒険者という質も、多くの受注という数も揃ったというのに、何故調査が進んでいないのか。


「何があったのですか」

「未帰還者が多く出て、それ以外の冒険者が調査を諦めてしまいました。命あっての冒険者稼業ですからね。さすが本部の冒険者、引き際の見極めができています」


 何の事はなかった。依頼達成不可能と冒険者たちが踏んだのだ。


「ダンジョン調査、どうするのですか?」

「もう勇者様出しちゃおうって結論になりました」


 勇者の立場を鑑みろって話はどこ行った!?


「もちろん近衛兵も出ますよ?」

「良かった。俺1人では難しいでしょうから、応援は助かります。未帰還者の救助も考えると、困難を極めます」

「さすがに単騎でダンジョン調査とか、そんな無茶はさせませんって」


 俺1人で各地を駆けずり回るという無茶はさせられたんだがな、目の前の男が足になってはくれたが。


「いつダンジョンへ向かうんですか?」

「こっちの人員選別を始めてますので、早ければ明日ですね」

「了解しました。明日までにこちらも準備を終わらせます」

「正式に王命が降るのも明日という事で、よろしくお願いします」


 伝える事を伝えたパースはさっさとこの場を後にした。


 耳目がなくなった瞬間を見計らって照明兼録音二重魔道具の複製品を設置し、それから俺はダンジョン調査の準備をするのだった。

〈用語解説〉

『アルト金貨』

…ほとんどの国家で使用可能な通貨。『聖剣銀貨』100枚分、『ラビリンシア王宮銅貨』10,000枚分、『稲穂鉄貨』1,000,000枚分の価値がある。余談だが、鉄貨に稲穂が意匠されているのは、勇者アルトの好物が『お米』だったからだとされている。

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