第四十五節 皆にとっては余談だが、彼女らにとっては本題
「あったあった。ついでに別の魔道具もあったわね」
森に来た目的である魔道具を探し、ヴァンの拠点を巡っていたマリー。
彼女は円柱状の水槽が真ん中に鎮座する部屋に、その魔道具を見つけた。
そして、鎮座する水槽も魔道具である事をマリーは見抜く。
何故なら、水槽には目的の魔道具に入っていたクローンホムンクルスと、同じ容姿の者が浮かんでいるからだ。
水槽に『エイゴ』が書き連ねられている事からも、この水槽が魔道具だと察せるだろう。
「……」
護衛としてマリーに付いているレオナルド。
彼は水槽の魔道具にやはり良い感情を持たなかった。
ヴァンを本気で殺すべきだったと、そんな考えがレオナルドの中で湧き出している。
「んーー……、自爆させるような魔術式はなさそうね。ちょっとそこの、クローンホムンクルスを退かしといて」
「『そこの』じゃなくてユウダチだが、退かすのは了解だぜ」
マリーはレオナルドの様子など気にせず、目的の魔道具、棺桶の方を調べていく。
レオナルドと同じく護衛であるユウダチが、良いように使われていた。
だが、当の本人は文句も言わずに従っている。
ユウダチが細かい事に頓着しないのだ。
「あの……。これも、そうなんですよね?」
ブレンダはマリーの魔道具調査を手伝う傍ら、レオナルドへ水槽の魔道具について訊ねた。
ブレンダもその魔道具と察しており、レオナルドが嫌っているのは把握している。
それでもあえて、ブレンダはレオナルドに訊ねたのだ。
「……そうだな。この水槽は魔道具であり、このクローンホムンクルスは魔道具の一部だろう」
レオナルドは水槽から目を離さずに答えた。
その言葉には怒り、それと、悔いが滲んでいる。
この類の魔道具を禁忌と称していたから、怒りが滲んでいる事に不自然はない。
だがその悔いは、いったい何に由来する感情だろうか。
「そっちはどういう効果の魔道具なのか、一見しての推測で構わないから教えて頂戴」
意外にも、さらなる質問を放ったのはマリーだった。
レオナルドがかつて魔術研究者である事を買って、意見を求めているのかもしれない。
「……この魔道具は拠点のほぼ中央に位置している。おそらくは、拠点を維持するなんらかの効果があるのだろう」
「拠点の維持、ね……。そういえば、パースが言うには、この拠点とレヴィのダンジョンがそっくりだとか。もしかしたらレヴィが攻撃してくるかもって、注意されてたわね」
レオナルドの推測で、マリーは魔道具探しを始める際にパースから受けた忠告を思い出した。
その忠告が、調査の糧となる。
「『レヴィのダンジョン』?それは自然生成したダンジョンを、レヴィと言う奴が利用したのか?それとも、レヴィが何らかの方法でダンジョンを生成したのか?」
「後者だったかしら。レヴィは地脈穴を疑似的に作れるし、ダンジョン維持の魔術を持っている、だったわよね?」
「あ、合ってるはずです」
自身が駆り出されなかった件の報告を、曖昧にしか覚えていないマリー。
そんな曖昧なマリーの正しさをブレンダが保証した。
自信のなさそうな保証のため、不安が残るが。
とりあえず、レオナルドは正しい事を信じて推測を重ねる。
「とするなら、この魔道具はレヴィの魔術の才を利用した物だ。レヴィを基にしたクローンホムンクルスなら、疑似地脈穴の作成及びダンジョンの維持ができるだろう。この魔道具は、レヴィのクローンホムンクルスにその魔術を強制的に行使させているんだ」
そうして、レオナルドは水槽の魔道具を、魔術式の解読をするまでもなく、ほぼ完全に分析した。
そう。水槽の魔道具は、レヴィの魔術の才を借り受け、拠点の生成と維持をさせる物だったのだ。
「へぇー……。クローンホムンクルスにして魔道具に組み込んじゃえば、基となった者の固有魔術が使えちゃうのね」
「……まさかとは思うが―――」
「利用しないわよ、こんな技術。素晴らしい技術ではあるけど、倫理観の問題で普及が難しいわ」
素晴らしいと評価しつつ、普及の難しさから利用を断念するマリー。
彼女自体に倫理観の欠如が疑われるが、『普及が難しい』という観点から利用を断念している辺り、研究者としての本気度が窺えた。
普及しないのであれば、あらゆる生命のためにならないのも同然。
マリーはそんな技術の研究に時間を割きたくはないのだ。
「ふむふむ。レヴィの固有魔術が使えちゃうなら、こっちのは地脈穴形成魔術を強制行使させてたって事ね」
レオナルドが神妙な表情で固まっているのを無視し、マリーはレオナルドから得た知識によって、棺桶の魔道具の真実を突き止めた。
魔物の増殖を促進する魔道具は、つまりレヴィの固有魔術による効果だったのだ。
地脈穴を疑似的に作り出し、魔力濃度を上げる事で魔物の増殖を促進する。
分かってしまえば、そう複雑な物ではなかった。
と言っても、レオナルドから得た知識がなければ、こんなに早く結論に至れなかっただろう。
クローンホムンクルスを用いる魔道具技術なんて、マリーは知らなかったのだ。
でもそれは少しおかしい話である。
「ところでなんだけど。レオナルド、だったかしら」
「……ああ、私の名前はレオナルドだ」
「レオナルド。貴方はどうやってそんな魔道具技術を知り得たの?」
だって、マリーは他国にも名が通っている魔術研究家だ。
そんな彼女も知り得ていない技術を、元研究者とはいえ、レオナルドはどうやって知り得たと言うのか。
「……」
レオナルドは口を噤んだ。
明らかに何かを隠している。
マリーは棺桶の魔道具に書かれた魔術式の転記を止め、レオナルドを真っ正面から睨む。
「……黙秘を決め込むのね。貴方の黙秘は、貴方が思っている程真実を隠せていないわよ?」
「……好きに考察しろ。私は真実を絶対に語らない」
「そう。まぁあたしは貴方の真実になんて興味ないから、それでも良いわ。ただ、王立近衛兵に所属する者として、国王に報告はさせてもらうわよ」
「……」
レオナルドがまた口を噤んだところで、マリーは転記作業に戻る。
空気が張りつめるような会話は終わったはずなのに、空気が弛緩する気配はない。
その空気に圧迫され、ブレンダもユウダチも喋れないのだった。




