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第四十一節 一手の誤り

「……『セイクリッドブレイズ』、発動」


 リカルドは聖剣デュランダルを構え、デュランダルから教えられた魔術名を唱えた。

 そうすれば、聖剣デュランダルから溢れるように炎が起こる。

 その炎は意思を持っているかのような動きでヴァンへと飛び火し、さらに、飛び火した最初の個体から別の個体へと、燃え広がっていく。


「な、なんだこの炎は!」「『魔術式崩壊』ができない……!」「いや、崩壊した先から再生されている!」


 燃やされているヴァンたちは炎に魔術をぶつけ、『魔術式崩壊』を狙ったが、それは叶わない。

 魔術の核である聖剣デュランダルが無事である限り、その核から魔術を行使し続ける。

 そういう一種の『魔術式再生』が組み込まれているのだ。

 故にその炎は、敵を焼き尽くし、悪を払うまで燃え盛る。


「ぐ、あっ……。何故、何故だ!」「何故っ、魔術行使者の視界外まで炎が広がっている!」


 ヴァンは拠点の別室に居る個体にまで、燃え移っている事を知覚した。

 魔術は魔術行使者の視界外に行使できないはずだ。

 しかし、リカルドの視界に入っていないはずの個体が燃えていた。

 その事象は魔術の原則を逸脱している、ように見える。

 だが、実際は違う。

 魔術を行使する者の視界に、拠点中に居るヴァンの個体は入っている。

 本当の魔術行使者であるデュランダルの視界には、入っているのだ。


(この炎自体がデュランダルで、炎のある所はデュランダルの視界内。で、合ってるんだよな?)

(そうです、我が担い手。炎が広がれば広がる程に私の視界は広がり、敵を逃す事はありません)


 理論は全く未知であるが、リカルドの目の前ではそうでないと説明が付かない事象が現実になっている。


「貴様、この魔術はいったい……!いったい貴様は何をしたぁ!」

「教えてやる訳ないだろ?お前はこのまま燃え尽きてくれよ」


 訊かれたってリカルドも理解できていないのだ。

 そのため、リカルドは質問に答えず、苦しむヴァンへほくそ笑んだ。

 かいている冷や汗は有り難い事に熱気で蒸発している。


「く、と、取引だ!わ、私と取引しよう!」

「取引?この期に及んでか?」


 現状はヴァンの詰み。

 取引など、苦し紛れでしかないだろう。


「この拠点に居る私を全て殺せばっ、貴様の仲間たちに仕掛けた爆破魔道具が作動する!」

「な!?……くそっ」


 ここに来てまさかの人質。

 リカルドはデュランダルに指示を出し、炎を消させる。

 燃え残っているのはリカルドたちと相対する1体。

 ある意味、寸でのところで間に合った事になる。


「はは……。形成、逆転ですね……」


 息も絶え絶えでありながら、ヴァンは不敵に歯を覗かせていた。

 対し、リカルドもテノールも歯噛みしている。


「俺たちの仲間はどこだ」

「教える訳が、ないでしょう……?」


 仕返しとばかりに答えを教えず、ヴァンは懐から短剣を取り出した。

 その短剣を焼きただれた体で弱々しく握りながら、ヴァンはリカルドとテノールににじり寄る。


「分かっていますね。もし抵抗すれば、私は自害して、貴方たちのお仲間を道連れにしましょう」


 ヴァンはその満身創痍でなお、リカルドとテノールを殺そうとしていた。

 最上は捕縛であったが、『リトルスター』対策をしている2人に得意の手は使えない。

 また、もはやその魔術を行使する余裕もない。

 そんなヴァンが相手なのに、取られた人質によってリカルドとテノールは攻撃を封じられているのだ。


「抵抗するもしないも、どっちでも私は構いませんよ?なんにせよ、君たちのお仲間は死に、私は生きるのですから」


 各地に己のクローンホムンクルスが居るヴァン。

 彼にとって、この満身創痍の個体が死んだとしても、ヴァンという存在は残り続ける。

 そういう事で、ヴァンは本気でどっちでも良かった。

 強いて言うなら、崇拝する師を釣る餌、レオナルドが手元からなくなってしまうが、今後いくらでも釣り餌を得る機会はある。

 ヴァンには余裕があった。

 ただし残念ながら、その余裕は過信であり、この満身創痍のヴァンは死ぬだろう。

 何故なら――


「道連れって、なんの事かしら?」

「……は?」


――人質という前提は、すでに覆っているからだ。

 その事実を示すように、ヴァンの後方、通路の暗がりからマリーとブレンダ、レオナルドが現れた。

 マリーの手には首輪型の魔道具があり、指で回して遊んでいる。


「爆破魔道具を、ど、どうやって……」

「人の手によって組み立てられた魔道具なんでしょ?なら、あたしには解体できるわ。あ、道具とかは魔術で代用したから。ついでに組み立て直してみたけど。生命活動の停止を起動の合図にしている点は、悪趣味だけど興味深かったわね」


 マリー・エームリッス。その肩書は王立近衛兵3番隊隊長。

 ラビリンシア王国有数の魔術研究家であり、魔道具の研究者でもある。

 そんな彼女にとって、魔道具の解体など造作もないのだ。


「見張り、外すべきじゃなかったわね。何かあたしたちを見張るより、優先しなくちゃいけない事ができてたみたいだけど」

「そんな、馬鹿な……」


 マリーたちの見張りより、テノールたちの対処を優先したのが、ヴァンの命とりだった。

 打つ手がなくなったヴァンは呆然とし、その隙だらけな首をテノールが切り落とす。

 魔王軍幹部のヴァンは、呆気なく撃退されたのだった。

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