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第四十節 聖剣デュランダルの担い手

 聖剣デュランダルはムラマサが修理した後、リカルドが所持していた。

 有事の際に的確な手渡しができるのはリカルドだろう、というムラマサとリカルドの判断である。

 そうしてリカルドは、収まりの良さから腰に聖剣デュランダルを下げた。得物を下げるのとほぼ同じ場所に。

 聖剣の修理できる鍛冶師を探す旅において、同様に下げていたから、それで問題ないはずだったのだ。

 しかし、問題が起こった。

 魔術詠唱が聞こえた瞬間、ヴァンが『リトルスター』を行使しようとしたあの時だ。

 リカルドは構えようとして得物に手を伸ばしたのだが、咄嗟であった故か、彼は聖剣デュランダルを手に取ってしまったのだ。

 そのため、リカルドは『リトルスター』で眠りに落ちた最中、聖剣デュランダルを握っていた。

 その誤りが、奇跡を起こす。


(……て…おき………さい。起きなさい)

(……んあ?)


 リカルドは何かに呼ばれ、意識を覚醒させた。

 その目に少しずつ光が取り込まれ、現状を認識していく。

 そんなゆっくりと広がる認識で、リカルドは、自身が倒れているのを傍目で見たのである。

 しかも、パース、ニオ、ユウダチ、ムラマサも倒れており、そんな彼らを唯一倒れていないテノールが守っていた。


(は、え!?な、なんだこれ!?)


 テノールだけが倒れていないのも訳が分からないし、いつの間にか敵に囲まれているのも訳が分からない。

 こうなった過程をすっ飛ばされてしまった故に、リカルドが混乱せざるを得ない。


(落ち着いてください)

(そ、そうだよな。混乱してる場合じゃない。すぐに起きて、加勢しないと……。って誰だアンタ!?)


 幽体離脱しているような状態にあるリカルドの目の前には、見覚えのない女性が立っていた。

 赤い長髪を携えた女性が浮遊しながら相対し、リカルドに語りかけていたのだ。


(私は聖剣デュランダルに宿る魂、一応デュランダルと名乗りましょう)

(武器に宿る、魂……?)


 リカルドは聖剣デュランダルに宿る魂、デュランダルの話が信じられなかった。

 武器に魂が宿るなど、リカルドは聞いた事がないのだ。


(信じ難い事は承知しています。しかし、どうか信じてください)

(あ、ああ……。まぁ、アンタが嘘を吐いてる様子はないからな……)


 悲しむような顔で真摯に願われる者だから、リカルドは信じきらないまでも、疑わないようにはした。

 これでもリカルドは3級冒険者にまでなった男だ。

 怪しい怪しくないは態度である程度判別できる。


(えーっと、とりあえずだ。どうするんだ?聖剣デュランダルに宿る魂って事だし、力を貸してくれたりするのか?)

(ええ、お貸しします。そのために、貴方を起こしました)

(そ、そうだな、そうでなきゃ起こさないよな)


 死んで構わないなら放置で良かったのだ。

 だが、デュランダルはそうしなかった。

 乗っ取りに特化していない聖剣であり、憑依の相性が良くない相手であった。

 それでも、相手の魂を押し退けるようにして、眠っている体からリカルドを離脱させたのである。

 エクスカリバーだったらそのまま体を乗っ取れるだろうが、デュランダルはできないので、こうやって対面している。


(ありがとうな。それと、すまなかった)


 リカルドはデュランダルのその行為に善性と誠実さを感じ取った。

 だから、助けてくれた事への感謝と、信じなかった事への謝罪をしたのだ。


(それでこそ、私の担い手です)


 それらを受け取ったデュランダルは、どこか誇らしげだった。

 自身の担い手が、自身と似たように善性と誠実さを持ち合わせている事に、デュランダルは喜んでいる。


(……担い手?)

(ええ。私は、聖剣デュランダルは、貴方、リカルド・ナンタンを担い手と認めます)


 デュランダルの宣言に、リカルドは目も見開く。

 なんら功績のない己が選ばれるとは、夢にも思っていなかった。

 そんな夢以上の出来事が急に訪れたため、リカルドは実感が湧かなければ喜びも覚えられない。


(も、もっとさ、凄い人がいるからそっちを選ぶべきじゃ?あのユウダチとか言う人の方が強いぞ?)

(あの人は嫌です。絶対嫌です。あの人に使われるくらいなら、私は私の魂すら殺します)

(そんなに!?)


 リカルドの知る由ではないが、デュランダルは『武神エフエフ』に捨てられた事をずっと根に持っている。

 武神とデュランダルは何度も窮地を共にして乗り越えてきたはずなのに、武神は飽きたからと他人に譲り渡した。

 おかげで、当初のデュランダルは人間不信に陥っていた。

 そんな人間不信のデュランダルを、誠心誠意慰めたのが先代の担い手、ヘクト・ナンタンだったのだ。

 故に、デュランダルは担い手に強さではなく、誠実さを求めている。


(貴方は使い物にならない私をずっと傍に置き、私を直せる鍛冶師を探してくれました)

(いや、それは依頼だったから……)

(だとしても、投げ出しかねない事だったでしょう。聖剣を修理できる者なんて、並大抵では見つかりません。実際、貴方は長い間、その者を見つけられなかった)


 デュランダルは休眠しながらも、リカルドの傍にあった。

 一部始終とはいかないが、リカルドが鍛冶師を探しに東奔西走しているのを、デュランダルは知覚していたのだ。


(売り飛ばす事だってできたはずです。折損しているとはいえ、類稀なる技術によって生み出された剣だったのですから、鍛冶師に高値で売れたでしょう。でも、貴方はそうしなかった)

(家宝でもあるんだ、売り飛ばす訳がないだろう。それに、依頼完遂を目指すのは当たり前で、姉の頼みを叶えてやるのは弟として当たり前だ。姉貴には、色々と押し付けてるしな)

(そう。『当たり前』なんです)


 デュランダルに言葉を反復され、朗らかな笑みまで浮かべられていた。

 その笑みが向けられているリカルドは、何が『そう』なのかと首を傾げてしまっている。


(『当たり前』の事、そうした方が良い事、そうすれば良くなる事。それを知っていながら、当たり前のように行える人は多くないのです。そうすべきでないのに、聖剣を譲る人が居るくらいですから)


 デュランダルは生身であった期間も含め、長く世界に存在している。

 その長い間に、色んな人と出会った。

 その内、最後まで誠実にあれた人は多くない。

 かの武神ですら不誠実な人に分類される。少なくとも、デュランダルの中では。


(私は、誠実であれる人を尊重します。誠実であり、善である人を肯定します。貴方を、担い手と定めます)


 デュランダルは、誠実なリカルドを担い手に定める。

 リカルドになら使われても良いと、彼の誠実さに心打たれている。


(さぁ、私の力を使ってください。私の力なら、貴方を勇者にだって、英雄にだってできる)


 誠実なリカルドに対し、デュランダルは誠実さを示す。


(な、なんだか重い感情をぶつけられてる気がするが、とにかくだ。勇者にでも英雄にでもしてくれるって言うなら、まず彼らを、助けさせてくれ)


 リカルドは、パースたちを救う力を求めた。


(お望みとあらば、我が担い手。代わりにお願いがあります。魔力の供給と、魔術詠唱の締めを)

(お安い御用だ)


 デュランダルのお願いを聞き届け、リカルドはまさに安請け合いをした。

 皆が救えるなら安いと、リカルドは快く引き受ける。

 こうして全ての段取りを済ませ、リカルドは立ち上がる。


「っ!?リカルドさん!」

「おや、対策しているのがもう1人居ましたか」


 テノールとヴァンが『リトルスター』の睡眠から脱したのを横目に、リカルドは聖剣デュランダルを鞘から抜く。

 そして――


The() flame(フレイム), exorcise(エクソサイズ) and(アンド) burn(バーン) the() enemy(エネミー).)

「……『セイクリッドブレイズ』、発動」


――剣に、炎を迸らせたのだった。

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