第三十八節 確信への一閃
「……侵入者ですか。随分と野蛮なやり方ですね」
そう呟いたのは、レオナルドの前に居るヴァンではなく、監視のために森を巡回していたヴァンだった。
森を巡回していたヴァンが、遠目でユウダチが地面をぶち抜く現場を目撃したのである。
そうして一個体が目撃したからこそ、レオナルドに対面しているヴァンも侵入者と断定できていた。
「ふむ……。明確な目的を持って私の拠点に来たとするなら、『魔神ダ・カーポ』様の仲間がいらっしゃるでしょう」
偶然で見つけられるような拠点ではない。
それに、地面をぶち抜いたのは意図した行為であると、ヴァンには窺えた。
地面へ大槌を振り下ろすユウダチの所作に、迷いがなさすぎたのだ。
「であるならば、あの6人の誰かが『始まりの六柱』ですか……。魔神以外の神5柱が揃っているとは、考えたくないですね」
人類史を拓いた神々が勢揃いなんて、悪夢以外の何モノでもない。
敗北は必至である。
「とにかく、あの大槌を振るった方は『武神エフエフ』様と思っておきましょう」
弓に半棒、細剣に湾曲剣、斧に大槌と、あんな多種多様の武器を一挙に装備する人間など、間違いなく普通ではない。
様々な武器での戦い方に精通していたとしても、多くて3つが限度だろう。
その装備限度を大幅に越え、しかも種類が一切統一されていない。
魔神の仲間である事も加味すれば、あの異常者が武神本人だろうと察しが付く。
「後は、勇者テノールが居ましたね。あの弓だけ携えている方も、レヴィの報告にあったパースという方と特徴が合致しますか」
ヴァンはしっかりと相手を見定め、戦力を分析していく。
「他3人は……。あの少女は武神様と仲良く話していましたね。うむ、『医神テヌート』様でしょうか?」
実は、『鍛冶神アチューゾ』は伝説においてその性別を言及されていないのだ。
『始まりの六柱』の中、女性であると言及されているは『医神テヌート』だけである。
そして、ヴァンは『鍛冶神アチューゾ』が女性である可能性を考慮できなかった。
そのおかげと言って良いのか、ヴァンはムラマサを『医神テヌート』と誤解する。
「癒さぬ傷、治せぬ病はないとされる医神様。それに、あらゆる武術の祖にして武の極みである武神様。かの2柱が相手でしたら、攻撃は悪手ですね」
ヴァンは誤解したまま、戦力分析をそこで切り上げた。
残りの2人、ニオとリカルドは取るに足らないと判断したのだ。
「やはり、眠らせてしまいましょう」
相手の戦力を鑑み、ヴァンはお得意の手段へ舵を切った。
戦うのが駄目なら眠らせてしまえば良いという、単純な結論である。
世界最高の魔術師である魔神に己の睡眠魔術が効いた事で、その手段に自信を得てもいる。
「では各員、睡眠魔術の詠唱を」
その選択と指示が、巡回していたヴァンより拠点に居る全てのヴァンに共有された。
それによって、『リトルスター』が開始される。
「Twinkle, twinkle, little star, How I wonder what you are.」「Up above the world so high, Like a diamond in the sky.」
複数人で詠唱される魔術は、その詠唱した人数によって効力を高める。
本来なら、人数が多くなればそれだけ詠唱を合わせ、1つの魔術とするのは難しくなる。
しかし、ヴァンはクローンホムンクルスであり、全個体が意識を共有している。
複数人での魔術詠唱など、彼には造作もない。
「When the blazing sun is gone, when he nothing shines upon.」「Then you show your little light, Twinkle, twinkle, all the night.」「Twinkle, twinkle, little star, How I wonder what you are.」
さらには、詠唱を繰り返す事で、より効力を高める。
念には念を入れるヴァン。
神と相対しているがために、油断も慢心もない。
魔神すら嵌めた必勝の策で迎え撃つ。
こうして準備を整え、拠点で待機していた1体のヴァンが、微かに侵入者を視界に入れた時だ。
「Good night.『リトルスター』」
締めの詠唱を告げ、敵を全て眠りに落とす。
6人の倒れ伏す音が、通路に響いた。
音の発生源に最も近いヴァンが、警戒を続けたまま音の方に近づき、6人全員が寝ている事を視認する。
「ふふ。私の勝利です」
侵入者の無力化を見納めて、ヴァンは勝ち誇った。
勝ち誇って、油断して、慢心してしまったのだ。
だからこそ、近づいたヴァンは切り裂かれる。
「……え?」
その近づいたヴァンが最期に見たのは、聖剣エクスカリバーを振るう勇者テノールの姿。
「オレは負けない。勇者は、負けられないんだ」
テノールは『リトルスター』を受けたにも拘らず、ヴァンを1体切り裂いたのだった。
〈用語解説〉
『医神テヌート』
……『始まりの六柱』、その中で治癒を司る1柱。医療技術や医薬品を世界に広めた後、回復魔術の研究に着手し、その知識も医療技術と同様に世に広めた。医師や看護師の心得も説いており、人の傷を癒す事に心血を注いだ人物である。容姿も美しい女性であったと語り継がれ、女神として称えられている。教えは「医師や看護師の忠告は素直に聞きましょう。よろしいですね?」。




