第三十七節 敵陣にありて
「ほへぇ……。こいつは凄いなぁ、こんなんが地下に建造されてたんかぁ」
ぶち抜いた穴から建造物に侵入したユウダチは、感嘆としてそんな感想を漏らした。
そうなるのも無理はないだろう。
そこには、地上での建造も難しそうな、神殿の如き通路が伸びていたのだ。
その内装に俺は神聖さを感じ、そして、既視感も覚える。
「パースさん、この建造物ってもしかして」
「レヴィのダンジョンに似てますねぇ」
同じく既視感を覚えているだろうパースに話題を振ってみれば、見事に同意を得られた。
そう。この通路は、魔王軍幹部レヴィが作ったダンジョンの通路と、酷く似ているのだ。
「レヴィって、少し前にドラクルへ仕掛けた魔王軍幹部だったよな。なんだってそんな奴のダンジョンとここが似てるんだ?」
「単純な話でしょう。ここも、レヴィが作ったのです」
リカルドが繋がりを見出せない2点を、パースはさっさと繋いでみせた。
そのパースが述べた繋がりにリカルドは目を剥いているが、その他の者に目立った反応はない。
俺は元よりパースと同じ意見だったからである。
ニオはそういう訓練をうけたのだろうか。努めて冷静に振る舞っていた。
ユウダチとムラマサはおそらく、誰が相手でもレオナルドを救出すると、そう誓っている故か。
「少なくとも、魔王軍幹部が1人居ると、思っておいた方が良いですか」
「最悪2・3人とか居そうですけどねぇ。レヴィは人攫いに向いてなさそうですし」
パースの言う通り、レヴィは前回の戦い方からすれば拠点防衛向き。
逃げ回らねばならない奴隷商に適性はないだろう。
とするならば、人攫いをするもう1人が居ると、想定してしかるべきか。
「よぉし、じゃあ幹部2人居るって事で。まずは床をぶち抜くか」
「待て待て待て待て!敵地なんだからそんな軽率に動くな!」
ユウダチがまた大槌を振り上げたところで、リカルドがその腕に掴みかかった。
今度は間に合ったようで、ユウダチは振り上げた姿勢のままだ。
「えー?なんでー?救出が目的なんだから、さっさと救出対象掻っ攫って帰って良いじゃーん」
「ユウダチ、首飾りが示すに直下ですから、多分振り抜いた大槌がレオナルドに直撃しますよ。死にはしないでしょうが、貴方が死を覚悟する羽目になるんじゃないですか?レオナルドに怒られる方向で」
「おっし、作戦変更だ。で、どうするんだ?」
ムラマサの忠告に、ユウダチは大槌を背中へ収めた。
上級魔術を使える魔術師を怒らせるのは、確かに死を覚悟する程怖い。
ユウダチの態度は健常だ。
「レオナルドさんの他にマリーさんやブレンダさんも捕まっているでしょうから、彼女たちを探さないとですねぇ。なので、まずはこの建造物を探索しましょうか」
この集団の暫定的な取りまとめ役であるパースが、行動の方針を定めた。
その方針について、意見を述べる者は居ない。
「じゃあ手分けして探すか?」
「いえ、一塊になって動きましょう。この建造物がレヴイによる物だとすれば、彼女の陣地も同然です。いつ攻撃が飛んできてもおかしくありません」
ユウダチは探索の効率を考慮し、手分けする事を提案した。
だが、パースは危険性の観点からその提案を蹴ったのである。
レヴィのダンジョンを経験した俺としても、一塊で動く事に賛成だ。
同じく経験者であるリカルドも、一応あのダンジョンをその目にしたニオも、パースの言葉に頷いている。
これで、パースの方が賛成多数で可決された。
「了解。そういう事ならまとまって動くか」
「そっちの方が良いと言うならそっちで。探索やらダンジョン攻略やらは素人ですから、口出ししませんよ」
ユウダチとムラマサも反論はせずに従う。
そうして多少進んだところで、内装の様子が変わる。
「当たりですねぇ」
パースは誇らしげに呟いた。
何故なら、そこには人が捕らえられた牢屋が連なっているからだ。
レオナルドたちの行方不明と奴隷商が関係している事。
パースのその推測は見事当たった訳である。
「こんなに人が……」
俺は牢屋に捕らえられている人を観察した。
そのほとんどが少女または幼女であり、手枷や足枷を嵌められた状態で寝かされている。
(ふむ、好機だな。彼女たちを救い出せれば、一気に若い女性層の支持者が稼げる。あわよくば俺の侍女なんかに……)
(おい、ヌエトラにも読まれるぞ)
しまった。俺の心が読めるのは今に限ってエクスカリバーだけではない。
首飾りに宿っている魂ヌエトラに俺の本心が読まれるのは、非常によろしくない。
(ま、嘘だけどな。あいつは首飾りの仕事に専念してっから、お前の心は読めねぇよ)
……こいつをムラマサに叩き直してもらおうか。性根とか真っすぐに修正してほしい。
(無理だな。死んでも直らなかったんだぜ?)
『馬鹿は死んでも治らない』と、『主神スタッカート』は偉大なる言葉を残している。
エクスカリバーの性根もその類らしい。諦めよう。
「……レオナルドさんたちが居ませんねぇ。もっと奥でしょうか」
パースが牢屋を見回したが、本命の人物は見つからないようだ。
「この人たちはどうするんだ?」
「申し訳ないですが、後回しです。敵を叩かないと、安全に救出できません」
枷を解いていたり、人を運んでいたりの最中は手が塞がる。
そんな時に攻撃されようものなら、対応が遅れ、救出者と共にやられてしまうかもしれない。
そういう事で仕方なく、救出は安全を確保した後に回された。
俺たちはさらに奥へと進む。
そうすると、微かな声が鼓膜を揺らす。
「Twinkle, twinkle, little star, How I wonder what you are. Up above the world so high, Like a diamond in the sky.」
その声が唱えるのは『エイゴ』。
『エイゴ』は何に用いられるかとすれば、必然、魔術である。
(テノール!)
エクスカリバーの警告もあり、俺は敵の魔術に備えるべく聖剣エクスカリバーの柄を握った。
しかし、遅かったのだ。
「Good night.『リトルスター』」
俺にも、パースたちにも強烈な眠気が襲い掛かり、誰も抗えなかった。
俺たちは、眠りに落ちていくのだった。




