トラックに何度も轢かれよう
「ハーレム主人公養成専門学校名物『トラック転生無用』じゃあ!」
校庭のトラックに、車のトラックが設置されている。
なお、運転席には下級生がスタンバイしている。
私有地なので、無免許でも問題ありません。
「おんしらはこれから、可愛い女子を守りつつトラックに轢かれる。そして、死んではならん! 男なら、トラックぐらい轢かれつつ止めるんじゃあ!」
翌々考えてみれば、矛盾した話である。
トラックに轢かれたぐらいで死ぬような輩が、異世界では如何なる強大な的にも打ち勝つのだから。
もちろん、それだけトラックに轢かれるのが危険ということであり、転生した後に得られる力が強大ということだろう。
しかし普通に考えて、トラックに轢かれてもケガをするだけではないだろうか。
トラックになんど轢かれても、トラックに打ち勝つ力は身につかないのではないだろうか。
「あの、きょうか……」
「じゃかしいわ!」
流石に誰もが教官を止めようとするが、しかし教官も慣れているので怒鳴りつける。
「どうせトラックに轢かれても強うなれんとかこくんじゃろうが!」
「そ、そうですけど……」
「そんじゃあれか?! 序盤の街の周辺で雑魚を狩り続けたら強うなれるんはなぜじゃあ! そっちは納得できるんに、トラックに轢かれるんは納得できんのか!」
確かに考えてみれば、RPGにおける経験値というのも謎である。
なぜ雑魚敵を大量に倒すだけで、とんでもなく強くなれるのか。
その辺りが『世界観』として設定されているのなら、逆になぜ他の誰もがそれをしないのかという話になるわけで。
しかしそれはそれとして、雑魚敵を大量に永遠と倒していくのと、トラックに轢かれるのを同列に扱われても困るのである。
雑魚敵を倒して経験値がたまるの方が、トラックに何度も轢かれて強くなるよりも説得力がある。
というよりも、どんな理由があってもトラックに轢かれたくない。
「とはいえ、じゃ。おんしらも守るべきものがないのにトラックに轢かれたくあるまい」
そう言って、彼は校庭のトラックにいくつかの品を並べた。
「おんしらの大好きな美少女フィギュアじゃあ。嫁と思って、全力で守るんじゃぞ」
果たして、命に代えてまで守る価値があるのだろうか。
仮に死なないとしても、美少女フィギュアなんぞのために体を張れるだろうか。
無理だった。
口ではなんとでも言えるだろうが、流石に非実在の人形に体は張れない。
というか、そもそも実在しない美少女で満足できるなら、ハーレム主人公など目指さない。これはこれで、論理的な矛盾である。
しかし、命が惜しいとか怪我をしたくないのは、決して矛盾ではないだろう。
はっきり言って、論理がどうとか言っている場合ではない。
「とっとやらんかい!」
そう、無理が通れば道理はひっこむのである。
トラックよりも恐ろしい男が恫喝してくるのだ、トラックに轢かれるほうが相対的にマシである。
「おい、運転手! ブレーキを踏んだらあかんぞ! ちゃんと轢かんかったら、トラックごとぶっ潰すからのう!」
「は、はいいいい!」
ある意味幸運で、ある意味不運なトラックの運転手係。
固いきずなで結ばれた同級生を全員トラックで轢くという、絶対に嫌な仕事を押し付けられていた。
一度轢かれれば済む分、他の生徒の方がましかもしれない。
「トラックの運転手になったつもりで、ベタ踏みじゃああ!」
多分、トラックの運転手はブレーキをベタ踏みすると思われる。
おそらく、人類史上ありえない目的での『トラックの運転手になったつもり』であろう。
自分たちは今まで被害者目線でトラックを見てきたが、こうして加害者側になってしまうと交通事故というのは本当に痛ましい。
決して笑い事ではないのだ、トラックで人身事故を起こすというのは。
あっさり簡単に、ぽっくりといけるわけではない。それよりなにより、轢くほうだって人生が台無しになってしまうのだし。
というかなぜ、神様に『ハーレム主人公にしてください』と願った後で、トラックの運転手になるのだろうか。しかも友人を轢くのか。
そんなとりとめのない考えが頭をよぎる。
「う、ううおおおおおお!」
だが、アクセルを踏むしかない。
そうしなければ、自分も友人ももっとひどい目に合うのだから。
美少女フィギュアをかばって立っている級友へ、運転手は奇声を発しながらアクセルを踏む。
「でぃやああああああ!」
トラックに轢かれる側の生徒もまた、奇声を発しながら両手を前にかざす。
力は制限されたままであり、あまりにも脆いであろう両手を盾にする。
それでも、それでも。
美少女フィギュアを守るためではなく、ハーレム主人公になりたいからでもなく。
ただ教官に殴られないために、二人は息を合わせていた。
人間がトラックに轢かれるとどうなるのか。
生徒たちは、自分の目で見ることになった。
そして、その凄惨さを見て、誰もが思う。
安全運転の大切さ、交通ルールを守る意味、そして車の危険さを。
「よし、次!」
「おっす!」
もう絶対、トラックに轢かれたいなんて思わない。
心の中で叫びながら、誰もがトラックの前に立っていく。
なお、美少女フィギュアは、トラックの車高より小さかったため、風で倒れることはあってもつぶされることはなかった。
誰もが吹き飛んでいたが、美少女フィギュアだけは無事だったのである。それだけが、あまりにもささやかな救いだった。
そして、そんな彼らを遠くから眺めている一団がいた。
「なんだ、あのわけのわからない特訓は」
「ふん、ただの無駄なカリキュラムだな。あんなことをしなくても、簡単に強くなれるのに」
「ハーレム主人公になりたい奴なんて、バカばっかりだな」
言われなくてもわかっていることを、得意げに語る。
学ランではなくブレザーを着ている彼ら、その所属は『ハーレム主人公養成専門学校』ではない。
「はあ、やれやれ。皆さん、あそこは我らの姉妹校なのです。その新入生と言えば、貴方達の後輩も同然。決してバカにしてはいけませんよ」
「は~い、先生。そうしま~~す」
そう、ハーレム主人公養成専門学校の姉妹校。
「今日は、貴方達の卒業試験のために、彼らに協力願いに来たのですからね」
ハーレムキャラ養成専門学校の、卒業を控えた上級生たちであった!




