八話「少女、迷宮へ。」
今回は長い、です。(でも解説的なのが多い)
あと、タイトル変えたからか、前回はちょっとだけ伸びてブックマークもちょっとだけ増えました。
読んで頂き誠にありがとうございます(_ _)
よろしければ、これからも読んでやってください。
というわけで、私は迷宮に来ている。
もちろんあの海賊風ゴスロリドレスはいつもの黒いコートに着替えた。
確かに着てみた感じ使えなくはないけれど、やっぱりいつもの服がしっくりくる。
ただ、組合で着替えようとすると、組合長がこの世の終わりのような顔をするので、迷宮の中に入るまでは着てきた。
こんな服を着ていたら、荒くれ者が多い冒険者や傭兵があふれるような迷宮都市の大通りを通れば、ものすごく目立つ。
終いには、組合本部の一階にある始まりの迷宮の受付に来たものだから、受付の男性の職員さんがものすごく戸惑っていた。
隣の女性の職員さんはまるで恋する乙女のように目を輝かせて、私をその場に留まらせると、暫くして、写真機?というらしい魔道具を持ってきて、それを私に向けてなにかしていた。何でもその魔道具を向けた方向に見えるものの一瞬を絵にできるとか。
便利な魔道具があるものだけど、それって組合本部の備品だったりするんじゃないだろうか。勝手に使って良いのかな。
ていうかそのせいでちょっと遅くなったけど、本来は、冒険者達が列を作っているのだから、今は待た無くていいぶん普通より早い。
私は、組合本部の一階のゴンドラに乗って、ゴツゴツとした岩肌を眺めながら、始まりの迷宮の上層へとやって来た。
流石に時間帯的にも、入り口からすぐの所にいる冒険者は居ない。
私はその辺の適当な岩陰で無駄にひらひらした服を脱ぎ捨て下着姿になると、白いブラウスとショートパンツを着て、三角帽子と右目を隠す眼帯の代わりに黒いターバンをつけ、金色のチェーンが付いたベストとその上に黒いコートを着て、最後に黒いレースの手袋を取って、もっとちゃんとした指先まで覆う黒い革製の手袋をはめると、同じく黒革のベルトが沢山ついたロングブーツはそのままなので、これでお着替え完了だ。
ここに生息するのはスライムだとか、コウモリだとか、あとは変な虫だったりとか、せいぜいそんなのしか居ない。まぁ、始まりの迷宮から少しだけ漏れる魔力で全部魔物化してるけど。
何故ならここは始まりの迷宮、上層と銘打っているが、実際はただの洞窟だから。
私は、目の前をぽよぽよと動く半透明な粘体の生き物を、その内包する核ごとブーツで踏み砕きながら歩く。
彼らは生き物を体内に取り込んで溶かして吸収する魔物。そして個体によって、酸性の強度が違う。
でも、私の装備は非常に頑丈な上、空気中の微量な魔力を吸収して少しずつ再生するように出来ている。
この程度なら汚れが取れて綺麗になるので、寧ろありがたい。
スライムが捕食した虫とかが偶に未消化で体内に残ってたりするけど。
そうやってしばらく歩いた辺りで、私は数メートル先に気配を感じて立ち止まる。
恐らく魔物化したコウモリだろう。
流石にそろそろ武器が必要みたい。
「短剣」
私は呟きながら手を前に差し出す。
すると、ベルトから垂れる銀色のチェーンの先が入っているショートパンツの右ポケットがほのかに光り、やがて右手の近くに空気中の塵のようなものが集まるかのようにして、本のページから切り取られたかのような一枚の羊皮紙がふわりと現れると、私はそこから飛び出してきた剣の柄を逆手で掴み、引き抜いた。
バサバサと羽音を立てながら牙を向いて黒い何かが数匹飛んでくる。
私は、引き抜いた勢いのまま、その物体を切り裂いた。
返り血が掛かるのは嫌なので、血を吹き出しながら慣性に従って墜落するそれらを素早く避けると、後方でべチャリと音が聞こえた。
ちょっとブーツに散ったからスライムで洗おう。
そんな感じで偶にやって来るこうした魔物を切り裂きながら適当に歩いているけど、壁に標識とかがあるので、迷わない。
確か、迷宮は道が定期的に変化するので、標識など置いた所で意味がないらしい。でもここは本当の迷宮じゃない上層だから、標識を置いても問題はないのだと思う。
やがて、中層への入り口。本来の迷宮への入り口が見えてきた。
岩肌であるのは変わらない。しかし、今まで周囲につららのように生えていた鍾乳石が無くなって、坑道のような人の手で掘った人口の洞窟のようになっている。
さて、ここからは先程のように標識が無いようなので、自力での探索になる。
おまけに、ゴブリンらしき魔物の声が聞こえる。
やがて、人間の子供が走り回る時のような軽い足音とその人を不快にさせるようなギーギーとした声が大きくなると、目の前にボロボロな布切れを纏い、サビつき刃こぼれした粗末なナイフを持った数匹のゴブリンが現れた。
短剣だとちょっと面倒くさいなぁ。
私は一番先頭に居る一匹の心臓があるであろう辺りに狙いを定めて、左手に持ち替えたダガーを投げつけると同時呟いた。
「片手剣」
再び腰の右ポケットがほのかに光るとダガーを投げた時に、反対側の腰の位置に持っていった右手の先に、先程と同じように紙が現れ、そこから飛び出た剣の柄を引き抜く。
そしてそのまま、目の前の仲間が血を滲ませながら倒れ、動揺する残りのゴブリンの頭を切り飛ばす。
それから剣を引き抜いた紙は、ふわりと舞いながら塵となって消えた。
片手剣はこうした狭い場所でも取り回しが良い。
ちょっとその辺の魔物を適当に狩るにはお手頃な武器だ。
さて要らなくなった武器は収めないとね。
私はショートパンツの右ポケットに無造作に左手を突っ込みその中のものを掴むと、取り出した銀色のチェーンの先に付けられた、小さな銀色の本を摘んで、先頭のゴブリンの胸に突き刺さったままの短剣へと向けた。
すると、短剣や片手剣が現れた時と同じように羊皮紙が現れて、刺さった短剣を隠すように横切ると、短剣は消えて、羊皮紙も塵となって消えた。
それから、小さな銀色の本を再びショートパンツの右ポケットに収めると、私は相棒の名前を呼んだ。
「グレイ、お願い。」
『よーやくわれのでばんか、あるじ。まちくたびれたぞー!』
頭の中で声が響く。
再びショートパンツの右ポケットがほのかに光り輝くと、先程と同様に一枚の紙が現れ、そして、そこから一匹の子龍が頭を出した。
暫く中に居たので退屈だったのだろう。
グレイは勢いよく飛び出す。
でも……
「グレイ、そっちは壁が――」
『なんだある――、ゴフッ。』
子龍の姿をした小さな相棒は私の声に反応してこっちを振り返りながら、飛び出した勢いで体を岩肌にぶつけると、目を回しながらその場にぽてりと落っこちた。
そっちは壁があるから止まってって言おうとしたけど遅かった。
まぁ彼は頑丈だから大丈夫。
子龍の姿はあくまで見た目だけで、実態は肉体が多少欠けた所ですぐに再生できる擬似体に過ぎない、ただの器だから。
取り敢えず私は、剣の平らな方でこのダメな相棒の顔面をペシペシしながら言った。
「早く起きて、探知と案内して。」
『……、うーん……。』
ペシペシ。はやくおきて。ペシ……、ブンブン。
『!?ッ、あぶっ、ちょ、あるじ!おきないからってはのむきかえるのやめて!!われのきれいなかおにきずがついたらどうするん――、うわっいまのちょっとかすったぞ!?』
グレイは慌てて起き上がると、私から若干距離を取りながら、その短い足で私の前を歩き、案内を始めた。
ちらりと角度を変えて横顔を見ると、頬を膨らませてすねているみたいだ。
トカゲの顔面なのに感情表現が豊かでとても滑稽な顔をしている。
ちょっと手が滑っただけだから、ごめんね?
この小さいながらも龍の姿をした相棒は、しかしその見た目に反して、魔力の保有量と一度に放出できる魔力量がそこらの普段生活系の魔術しか扱わないような一般人なんかよりもよっぽど少ない。
グレイは、あくまで擬似体だ。
その一部には確かに龍の一部が含まれているけれど、龍のように魔法は扱えないので、魔力を使って効率良く飛ぶことが出来ない。
けれど、龍の肉体とは違って、周囲の魔力を吸収してしまう肉体では無いので、人が生み出した魔術を扱うことが出来る。
魔術を駆使して空を飛ぶことは出来るのだけれど、魔力の出力量が少ないので、他の魔術を使用している時は同時に別の魔術を使うことは不可能だ。
そして今は探知の魔術を使っている。
私は、拗ねながらテトテトと短い足で前を歩くグレイに余裕で追いつくと、片手で掴んで頭に乗せる。
多分頭の上で不満そうな顔をしているのだろうけれど、ここを出た後に買い食いでもしようかと、食べ物の話をすれば急に機嫌が良くなった。
『あるじー、そこをみぎだぞー♪』
そうして再び、グレイの鼻歌交じりの案内に従って歩き出した。
グレイは、あの本に格納された魔力を引き出せるので、格納された魔力が尽きない限り魔力を永遠に垂れ流し続けることが出来る。
加えて、何より魔術の制御や感知する能力に非常に優れていて、探知の魔術が通常よりもかなりの広範囲で発動出来る。
迷宮の壁や床は魔力を吸収するように出来ているので、こういった直接魔力を放出するような探知の魔術は本来意味をなさないが、グレイの探知の魔術は生物が活動する際に残すとても微小な魔力の残照ですら何となく察知出来るので、おかげで冒険者が多く通る道を当てて、こうした多くの冒険者が訪れるような浅い階層ならば殆ど道を間違えずに探索が出来るわけだ。
偶に間違えるのは、戦闘時に魔術を使って残照が吹き飛ばされてたり、食べ物に釣られたりする時ぐらいだ。迷宮で拾い食いするな。
それからは、何度か先程と同じような戦闘を繰り返し、普段酒場の隅で寝ている私を知っているらしい冒険者に奇異の目で見られたり、――面倒だから聞き込みとかもしない。肩を掴んで止めようと後ろから腕を伸ばされてもするりと避ける。そしてグレイは見られる前にコートのフードをかぶって隠している――、下層に降りて新たに出てきた二足歩行の豚を切り刻み――女性に誰彼構わず発情するオークの、その腰の馬程あるモノを切り飛ばして、一見小柄な少女に見えるエトを助けようとしていた男性冒険者に引き攣った顔で股を抑えながら怖がられた――、私の黒鉄級を示す首元のリング状のタグを見て、黒鉄級は行けない決まりになっているはずの深層に降りようとする私を止めようと声を掛けてくる冒険者に、コートの内ポケットに無造作に突っ込んでおいた特別許可証を無言で取り出して見せると、再びコートに突っ込み、そのまま深層へと続く階段を降りた。
最後ダイジェストなのはダラダラ書いてもきっとつまんないだろうなと思ったからであって、決して面倒くさいから適当に省略したわけじゃないんだからねっ!
……はい、ごめんなさい。面倒くさかったんです。
でも流れを考えたらここでこれ以上ダラダラ引き伸ばしたくなかったのも本音です。
ゆるして。(;^ω^)
ちなみに、あの謎の本のアレはHELLSINGのアンデルセン神父からパクr……発想を得ました。
でも主人公はそこまで人外じゃないので、聖書ワープは使えません。
Amen!!