三話「駆け出しパーティ、組合へ行く。」
「あーっやっと着いたー。腰いてー。」
腰に片手半剣を下げた茶髪の少年は腰をさすりながら呟いた。
三人の少年少女は迷宮都市の西門に来ていた。
茶髪の少年の後ろにはもう一人の眼鏡を掛けた黒髪の少年が、ここまで連れてきてくれた御者のおじさんにお金を払っている。
その様子を横目で見ながら剣を帯びた茶髪の少年の隣、自身の腕と同じほどの長さがある杖を持った赤髪の少女が言った。
「今回の依頼、やっぱりちょっと厳しかったわね。他のパーティと合同で助かったわ。」
「でも討伐依頼を俺たちに勧めてくれたって事は、もうそろそろ黒鉄級になるのも、時間の問題ってことだろ?」
茶髪の少年が赤髪の少女の言葉に対して自信満々にそう言うと――
「いいや、今回のは先輩のパーティと組ませて、勉強させようっていう意図だろう。現に俺達だけじゃ駄目だっただろう?カーラの言う通りだ。」
先程まで後ろで御者のおじさんと話をしていた眼鏡の少年が、いつの間にか茶髪の少年を挟むようにカーラと呼ばれた赤髪の少女の向かい側に来ていて、言った。
三人は全員揃ったのを確認して誰が出発の意を告げること無く、話を続けながら歩きだした。
「なんだよ。じゃあ、どうしろっていうんだよ。俺達は――」
「ああ、俺達は同じ村出身だからこうしてパーティを組んでる。……けど、これから先はもっと難易度の高い依頼を、俺達のパーティだけでこなして行かなくちゃならなくなる。そうしたら三人だけじゃ厳しくなってくるだろう。」
茶髪の少年が眉根を寄せて文句を言おうとするが、眼鏡の少年はそれに被せるように言う。
「つまりオリーが言いたいのは、新しいパーティメンバーを増やそうって事?」
「そうだ。」
カーラがそれを補足するように言うと、オリーと呼ばれた眼鏡の少年が頷きながら肯定した。だが、茶髪の少年はまだ納得がいってないような顔をしている。
「新メンバーかぁ。でもなぁ、俺達のパーティって前衛も後衛も、斥候も揃ってるだろ?指揮も斥候のお前が執ってくれるし、他に誰が要るんだよ。回復魔術の使い手とかか?」
「回復魔術の使い手なんてそうそう見つかるわけ無いだろう。もし居たとしても、例え駆け出しの新人だろうが、大手のクランやパーティがとっくに勧誘してるだろうな。」
大通りを歩いていくと、いくつかの飯屋から料理を作る美味そうな匂いを乗せた煙が、辺りを充満していた。
時刻は昼前、飯時にはまだ少し早いが、この時間帯から料理を作って、匂いで客引きをするのだろう。
ここ、迷宮都市の西区は、飯屋と宿屋が多く存在し、その多くを他の街からやってきた冒険者や傭兵達が利用する。
詰まる所、この少年少女もまた冒険者であり、昨夜は依頼を受けた村に泊まり込み、そうして今朝その村を出発して、先程漸くこの迷宮都市に戻ってきたのだ。
「つまり?」
カーラは、そんな匂いにつられて若干話に集中していない茶髪の少年を放って、オリーの話の先を即した。
「俺が言ってるのは壁役の事だ。俺達のパーティでは壁役と前衛の攻撃役を両方アルンがやってるだろう?でもいくらお前が憧れてるからと言って、彼の英雄様とは違うんだ。両方やってのけるのは無理がある。今回は合同で、相手方のパーティが上手く引きつけてくれたからアルンは何も考えずに突っ込めたんだ。」
アルンと呼ばれた茶髪の少年は匂いにつられながらも、一応ちゃんと話を聞いていたようで、オリーの言葉に答える。
「む。確かに。よくよく考えたら、あの人達が居なかったら上手く切り込めなかったかもしんねぇな。でも――」
「はっ!あんたが何も考えずに突っ込むもんだから、私もオリーも、後ろで呆れてたわよ?おまけに先輩方も苦笑いだったわね。ほんと、これだから脳筋は……。」
だが、それを遮るようにしてカーラがまるで嘲るように言った。
恐らく、先輩の冒険者に身内の恥を見せる結果になったことを根に持っているのだろう。
「はぁ?俺だってそこまで馬鹿じゃないぞ!ちゃんと、しっかり敵の動きを見て致命傷になりそうなところを攻撃してただろ!」
「味方の動きを見てなかったら意味がないだろう。まぁ俺が指示してやってるから、お前が普段から何も考えなくて良いのは分かるが、それでもちゃんと周りも見ろ。今回は相手のパーティが上手くしてくれたが、もし俺達と同じような駆け出しのパーティと組んだなら、確実に依頼は失敗してたぞ。そんなんじゃ、黒鉄級になるのはまだ先の話だな。」
「うっ……。わ、わかったよ、お前がそこまで言うなら……。」
隙かさず反撃するように言ったものの、オリーに厳しいことを言われて、アルンは途端にしおらしくなった。
ちなみに、黒鉄級というのは冒険者および傭兵の階級の事だ。
階級というのはいわば組合からの信用度と実力をしめす指標であり、組合に所属したものは、組合によって依頼の達成度を評価され、それぞれ階級を与えらる。
すると、それによって受けられる依頼の内容が変わってくるのだ。
階級はそれぞれ、
石級
青銅級
黒鉄級
銀級
金級
白金級
聖銀級
金剛鉄級
という順番で上がってゆく。
そして、冒険者と傭兵はそれぞれ、首から下げた革紐にタグという組合に所属することを示す証を付ける。
冒険者は金属製のリングに、小さな魔石がはめ込まれた物を付け、傭兵は角のない小さな長方形の金属の板の上部に魔石がはめ込まれた物を付ける。
そして、そのタグに使用されている金属によって階級を区別するのだが、石級は革製で作られている。
また、青銅級以降は、その階級の名の通りの金属が使われるが、銀級、白金級、聖銀級、金剛鉄級は、色味が似ていて見分けがつきにくいので、白金級以降は特殊な意匠が施されており、それぞれ、
白金級は自由の象徴として翼の意匠、
聖銀級は魔除けの象徴として柊の意匠、
金剛鉄級は力の象徴として龍の意匠が施されている。
その階級のタグを持つ物は、冒険者や傭兵を目指す者にとっては、憧れの対象だ。
そんな高位の冒険者になることを夢見る少年の一人であるが、ちょっと落ち込み気味のアルンの様子を見て、しかしカーラは頬を膨らませて、不服そうに言った。
「なんでオリーの言うことはちゃんと聞くのに私の言うことは聞かないのかしらね。」
「お前は言い方にトゲがあるんだよ!」
どうやらアルンはカーラに対してはあたりが強いらしい。
「でもオリーだってあんたは何も考えてない馬鹿だって言ってるわよ?」
「え、そうなのか?」
カーラに言われて、アルンはオリーの方を見つめた。
「まぁ言ってなくもないな。」
「そっか……俺ってやっぱり馬鹿なのか……。」
オリーが苦笑いしながら首肯すると、やはりアルンは素直にオリーの言うことを認めた。
幼馴染であり、パーティの頭脳であるオリーの事を信頼しているのだろう。
「だからなんでオリーの言うことは素直に聞くのよ!!」
「喧嘩するなよ。二人共。そろそろ組合に着くぞ。」
オリーの向かい側からは納得のいかない声が聞こえたが、また喧嘩が始まってしまっては収拾を付けるのが面倒になってしまう。
オリーは二人を宥めながら、目の前に見える建物に注意を向けさせるために声を掛けた。
取り敢えず三話投稿したので、ちょっとだけ様子見します。
ただ、これは予約投稿なので、進捗によっては明日も投稿するかもしれませんが、治療を挟むので恐らく無理です。
そこんとこヨロシクな!!