十一話「少女と対価。」
もう一話投稿しますよ!
瓦礫を吹き飛ばし現れたそれが咆哮する。
私は瓦礫と一緒に吹き飛ばされながらも、同じく吹き飛ばされてゆく偃月刀を宙空で掴み、そのまま地面を転がる勢いを利用して起き上がると迎撃体制を取った。ちなみにグレイは私のコートにしがみついている。
その姿は獅子のようで、けれど、四足には硬い鱗が生え、黒く鋭い爪が覗いている。そして、尾はトカゲのような形をしていて、こちらも同様の鱗がびっしりと覆っているらしい。
その瞳は、指輪の宝石と同じ青。但し、白目も黒目もない真っ青。そしてこの世の全てを恨むような憎しみと敵意に満ちていた。
そして、たぶん私が10人居たとしても三分の一にも満たないだろうその巨体は、その質量からは考えられないような速さで動く。
常人にはただかき消えたようにしか見えないだろうそれを、私の右目は鮮明に捉え、しかし回避しようにも体がついて行かない。
そして前足の爪が私の腹を切り裂いた。
「ぐッ!」
魔術によって鉄よりも強化されたコートとベストを容易く切り裂いて、その下のブラウスが裂けると私の腹まで達し、血が滲む。
「あるじっ!」
「グレイ、戻って。」
私は左手に小さな銀色の本を取り出す。
「くそっ、われがいてはじゃまになるか、そいつをたのむぞ!あるじ!」
グレイはばらばらと現れた紙に飲み込まれ、姿を消した。
先程の傷は、一応回避行動を取っていたおかげで浅い。
けれど追撃は避けられない。
仕方ない。
そして私は、また大切なモノを失い、それを対価として生き残る覚悟を決めた。
「拘束制御、解除。」
私は一言そう呟きながら、黒いコートを投げつけるように脱ぎ捨てる。
それから、ジャラリと音を立てて見えない鎖が地に落ちると、ブーツや手袋に隠れて見えないものの、ロングブーツより上の肌が見える部分から、すぅっと刺青のような鱗の模様が螺旋状に浮かび上がり、侵食してゆく。
そして、獣が投げつけられた眼の前の黒いコートを切り裂くと同時に太ももまでが薄く光る赤い鱗模様に覆われた辺りで進行が止まった。
切り裂かれたコートが二つに別れ、獣の視界が開ける。
けれど私はもう、そこには居ない。
身を低くして地面を蹴り懐に潜り込んだ私は、片手を着いて、体を上向きに反転させると、手にした偃月刀で獣の腹を切り裂いて、それから転がるようにして後方へと抜ける。
獣は突然の見えない位置への突然の攻撃に驚き、すぐさま身を反転させて、既に腹の傷が癒えた私を睨む。
「GYAAAAAA!!」
私の言葉に呼応するように、獣は叫び、そして、交差する。
私は、獣の側面と足を切りつけ、獣の爪先が、私の右袖を切り裂いた。
今の私なら、力は拮抗し、速度は僅かに上をゆく。
再びお互いに向き合うと、私は破れてしまったブラウスの右袖を左手で引きちぎる。
そこには、足と同じように螺旋状に鱗模様が浮かび上がっていた。
そして私はそれを見せつけるようにして言った。
「あなたも、龍が混ざってる。私と同じ。」
「GUuuu……。」
「痛くて、苦しくて、憎いなら……、私があなたを楽にしてあげる。」
私は硬い鱗にぶつけてボロボロになった偃月刀を投げ捨てると、丁度足元にあった、既に持ち主の居ない大剣を片手で拾い上げた。
拘束制御が解除状態にある今なら、自重が増加し、バランスを崩さずに持つことが出来る。
私が大剣を構えると同時に、獣がの周囲に赤い炎と青白い炎のようなものが無数に浮かび上がる。
魔術?
でも違う気がする。
たぶん、これは何処かで……、いや今は戦いに集中しよう。
「行くよ。」
「GYAAAUUUUU!」
私が地を踏み砕く程に強く蹴って飛び出すと、その無数に浮かび上がった炎が襲ってきた。
私は巨大な剣の重さを物ともせず振り回し、後ろの少年たちと少女に当たりそうな炎だけを潰して、残りは全て避ける。
その度に青い炎は大剣を凍りつかせ、炎で焼き尽くす。
全て受けきってしまえば、きっと折れてしまうにちがいない。
そうして無数の炎に対処していると、大きな青白い炎の塊が眼前に現れた。
これは受けるしか無い。
私は、手に持った大剣を全快に振り切って、青白い炎を吹き飛ばす。
けれどその先に現れた眼前の光景に、私は両目を見開いた。
そこに現れたのは、炎に隠れて接近していた獣の爪だった。
これは、まずい――
左目を閉じて、見開いた右目に、強く魔力を流す。
小さな銀色の本が光り、記憶が溢れる。
白目の部分は黒く染まり、中心の瞳孔がまるで龍の瞳のように縦に細く金色に輝く。
目尻には、腕や足と同じ様に赤い鱗の模様が浮かび上がった。
同時に振り切った大剣を強引に引き戻す。
「間に合え!」
私の龍の瞳が魔力を込めた威圧を放ち、獣の動きが一瞬停止する。
獣の爪がベストを切り裂いて、その下のブラウスを大きく引き裂き、横腹をかすめる。
そしてそのまま横に抜けた私は、引き戻した大剣を両手で持ち、獣の首を切り飛ばした。
同時に、あの炎による攻撃で悲鳴をあげていた大剣が砕け散った。
「GA……uuu……。」
やがて首を失った獣の巨体が切り飛ばされた勢いで横に倒れる。
さよなら。
強く魔力を込めた所為で、記憶が流れ出し、意識は乱れ、視界が明滅する。
「う……。」
そして視界が青に染まり流れ込んできたそれに、私は意識を失った。
エトの黒い装備は、制御できない魔力の吸収を抑えます。
ただ、手袋をしてても相手に触れるとある程度弱まっているものの、やはり魔力を吸収してしまいます。
なので、夏場だろうがなんだろうが黒いコートを着ていて、酒場でも寝る時は必ず上にコートを羽織って居ます。
脱ぐ時は、黒い霧に変えて素早く脱ぐことも出来ますし、今回のように視界を遮るためにも使えます。
ただ着る時は、いちいち本から取り出して自分で着る必要があります。
フラウから貰った海賊風ゴスロリドレスも同様の効果があったようですね。
着せ替えの時も、わざわざフラウがお金をかけて組合内に魔力の吸収を抑える魔法陣を用意していました。親バカです。
そして「拘束制御、解除」
HELLSINGのアーカードが元ネタ。
「拘束制御術式、解放。」
アーカードさんほどチート主人公ではないです。
……ロリカードみたいな渋い声系ロリ書きたいですね。




