十話「少女と龍と青い獣。」
ようやく体調も落ち着いて、二章のプロットを書いて三章の構想を考えついたので、続きを投稿していきますよ!
連続して次話におまけを投稿する大盤振る舞いじゃー!
「何故だ!貴様なぜッ、何故魔力の吸収が働かない!」
魔術師風の男は、二人の仲間が一人の少女に殺られた事よりも、自身が手にする魔道具が上手く動かないことに狼狽えていた。
そんな単純な疑問に私は答える。
「龍は、仲間同士はお互いに魔力吸収しないし、できない。」
「は?何を言って……、おい、貴様まさか、俺と同じものを……!」
「それが何なのかは知らない。けど、私はそれと同じ。」
「……ハッ、そうか、その小さな龍がなにかしているのか?……、まぁいい。フ、貴様がこれを龍と同じだと宣うならば……」
あれ?なんか勘違いしてる?
話しながら指輪をつけた左手をさり気なく背中側に隠したつもりらしいけれど、ちょっとちらっと見えてるし、私には魔力の流れも見えている。
指輪に膨大な魔力を放出させて、それを無理やり体に通して、たぶん魔術を組み上げているらしい。
無理やり魔力を通している所為で、男の左腕は血管が破裂し、内部出血で腕が青くなり、皮膚もただれたように破れて、地面に血が滴り落ちている。痛そう。
『あるじ!あのおとこ、ひとりだけできょくだいまじゅつをはなとうとしてるぞ!はやくとめないとまずい!』
うーん、わかった。
私は手に持った偃月刀をその辺にポイッと投げ捨てる。
それを見てまた何か勘違いをしたのか、男は笑みを深くして、右手をすっと前に伸ばした。
「……ならば物語の英雄と同じ、それを上回る魔術をぶつければいい!フハッ、フハハハハ!この膨大な魔力の本流に臆したか!」
なんか言ってるけど無視する。
……じゃあグレイ、よろしくね?
私の行動に何かを察したのか、グレイが狼狽える。
『え、ちょ、あるじまさか……、いやっ、いやだッ!あれは、あれはいやだぁあああ!!』
私は、頭の上でイヤイヤと首を振りながらしがみついているグレイを強引につかんで引き剥がす。
「さぁその絶望に染まった眼を見開きとくと見よ!これが偉大なる魔術師達が過去の大戦で編み出した最強の秘術、極大魔――」
「ゆけっ!グレイ!すてみタックル!」
そして、私はそれをおおきく振りかぶって男の顔面に向かって全力でぶん投げた。
『あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!』
グレイは大粒の涙を撒き散らしながら、男の顔面に真っ直ぐに向かっていった。
『「ぶごッ!!」』
グレイのそこそこ硬い角が男の顔面に直撃すると、一人と一匹は白目を剥いて、鼻血を噴きながら倒れる。
完成一歩手前で中断された極大魔術は暴発を起こして、男の右手から天井に向かってかなり濃密に圧縮された魔力の塊がそのまま放たれた。
ズドン!
大きな音を立てて天井に打つかった魔力の塊は、しかし迷宮の特性上、その大部分が吸収されたが、衝撃は吸収しきれなかったようで、石と水晶で出来た迷宮の天井は大きくえぐれ、地面に横たわる男とその顔面の上で伸びているグレイの上に大量の瓦礫が落ちてきた。
もちろん私は巻き込まれないように離れ、ついでに倒れている少年たちと少女に飛んでくる石ころを払ってやった。
私の右目には放たれた魔力塊が天井にぶつかった際に飛び散った一部の魔力やその残照が、瓦礫の中に吸い込まれてゆくさまが見えている。
吸魔?はまだ発動しているらしい。
けれど、この三人の男にはその吸魔が効いていなかった。
私は先程殺した二人の男たちを観察してみる。
そうして暫く観察してみると、二人が手首に同じ金色の腕輪をしているのがわかった。
私はその2つを男たちの死体から奪うと、倒れている少年二人の腕に付け替え、それから少女の分の腕輪を探す為と、ついでに瓦礫に飲まれたグレイを救出する為に眼の前にできた小山の石ころを足で払いのける。
迷宮の壁は所々石の中に水晶が埋まってる所為か、案外脆いようで、あまり大きな瓦礫が降ってくることにはならなかったらしい。
そうして足でゲシゲシと小山を蹴っていると、唐突に鈍い感触が足先に伝わった。
なんだ、グレイか。
今は腕輪を探しているから、グレイがここにいるということは……
私は、グレイの周囲の石ころも足で払いのける。というか蹴ってどける。
『グフッ!』
あっ、間違えてグレイを蹴ってしまった。
『うぅ……、そのようしゃのないけりは……、あるじだ……。』
でも今ので目が冷めたようなので結果オーライ?
それからグレイの横から男の右腕が飛び出ているのを見つけると、私は右手首に着けられている金色の腕輪を取って、少女につけてやった。
よし、みんな息してる。
……もう眠いからこのまま帰りたいなぁ。
うーん、でも組合には組合長(ふらー?)が居るからあんまり帰りたくないかも。
仕方ないから指輪を探そう。
ちょうど今、殆ど見掛け倒しの翼を使って、何とか抜け出してきたらしいグレイに聞いてみる。
「グレイ、指輪どこ?」
『あるじぃ、われをもうちょっといわたって……。』
まるで生まれたての子鹿のようにプルプルしながらグレイが言う。
「大丈夫、傷一つ無いよ。」
どうせ自己再生するし。
『あのなぁ、あるじ、じこさいせいじゃ、こころのきずはいえないんだぞ……。』
こいつ面倒くさい。
仕方ないので、私は少しだけ「こころのきず」とやらを癒やすために思考を巡らせてみる。
「んー?……、あ、すいーと?とかいうの――」
『あたらしくできた"帝都のスイーツ店"か!よし、ゆびわだな!あるじ、ちょうどわれのよこにあるぞ!』
私が「すいーと」という言葉を言うやいなや、しっぽをブンブン振りながらここ掘れワンワンとでも言うかのように先程の腕とは反対側の部分の瓦礫に鼻先を向ける元気な子龍。
うん、グレイはなんか美味しいもの食べたらケロッと忘れるから楽だなぁ。
でもなんで食べ物に関する言葉だけ発音いいんだろう。
私はグレイが示した場所を再び蹴り上げた。
パキッ
「ん?」
『おいあるじ、なんだかいやなおとしたぞ。』
もしかして、……壊れた?
手を使うの面倒くさいからつい……。
えっと、こういう時は舌を出して……、て、てぺへろ?へろてぺ?……うーん、まぁいっか。
『まぁいっかじゃないぞ!それは"てへぺろ"だ、あるじ。……ってちがう!ゆびわのあたりからなにかおおきなけはいがするぞ、あるじ!』
あれ?この気配は何処かで……、いや、ちがう。
『なっなんだこのきもちわるいの!おいあるじ!これは、なんだ!?なんで――、』
ぐちゃぐちゃに。
『――なぜかすかに"龍"のけはいがする!?』
混ざってる。
「GUAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
二章はいきなりTS要素が入ってきます。
しかも、いきなりTSちゃん、アレな方向性でピンチ!
お楽しみに。




