はい、私です。兄が気持ち悪いです
「そうしようぜ!」
と、櫻子の案に賛成し、とりあえず家の中に入ったわけだが・・・
「で? どうするんですか?」
コタツで寝っ転がりながらマイシスター櫻子が尋ねてくる。
おいおい、既に我が家って雰囲気がすごいな・・・悪くない
「どうするって? 決まっている! とりあえずお兄ちゃんって呼んで♡」
「そんなことは聞いてません。後、気持ち悪いです」
どうしよう、この妹様はどうやら俺をお兄ちゃんとは呼んでくれないらしい。
だが、諦めんぞ! こうなったら耳元でお兄ちゃんを連呼してやる!
「黙っててください。お願いします」
「はい! 黙ります!」
妹にお願いされたので、とりあえず黙ることにした。
「それでお母さんどうしますか?」
「今日は顔合わせに来たんですよね。もう帰っていいです?」
なんだと! 妹との日常は今日からスタートではなかったのか!
親父のやつ何にも言ってなかったぞ!
「うふふ、そうね~」
「このまま住んじゃおうかしら」
あ・な・た・は神ですかっー!!!
その一言を待っていた!! いや、本音言うと予想すらしてなかったけど
いやー、さっきは悪魔とか言ってごめんなさい。桜さんあんたはやっぱり神だよ!
「ふざけないでくださいお母さん!」
「着替えとかどうするんですか!?」
「う~ん。どうしようかしら」
おーっと、雲行きがあやしくなってきたぞ。
このままでは妹は帰ってしまう。なんとか阻止しなければ・・・
だが、どうやって? 俺の下着を貸すか? それしかない。
「それについては心配ない!!」
「お、親父っ!!」
「いつの間に部屋にいたんだっ!?」
「さっきからいたわっ!!」
「そんなことはどうでもいい。女物の着替えが必要なんだな?」
「まさか・・・親父! 持っているというのか!?」
「デザイナー舐めんな! 女物の着替えの一つや二つぐらい持っている!」
「おぉ! カッコよくないけど、カッコいい!!」
「見直したぜ!」
「へへ、よせよ。照れんぜ」
「いや、なんで持っているんですか、龍平さん最低です」
「資料用! 資料用だって!!」
「うふふ、流石ね」
初めて親父がデザイナーの仕事をしていてよかったと思った日だった。
◇◇◇
結果から言おう。妹は家に泊まってはくれなかった。
「現実的に考えてください。無理に決まってるじゃないですか」
「まあ、そうよね。うふふ」
コタツとか出ている時点でお気づきかもしれないが、現在は2月。
何が言いたいかというと、新生活を始めるには、中途半端な時期なのだ。
「そもそも、私たちは3月の終わりごろに引っ越す予定ですよね?」
「ええ、そうよ~」
「そうだな」
「そうなの!?!?」
「あれ? ちゃんと言っといただろ?」
「おいおい、親父! 何も聞いてないぞ!」
「あれ? 言ってなかったけ?」
「言ってねぇーよ!!」
「そうか? わりぃ、わりぃ」
うん、やっぱり訂正。この親父はやっぱり糞だ。
見直した俺が馬鹿だった・・・。
「私、明日学校がありますし、そろそろお暇したいんですけど」
「そうね、私も引き継ぎを終わらせないといけないわ~」
「えっ? マジで帰ってしまうのか!?」
このまま、帰してしまっていいのだろうか?
今、思い返せば俺、二人のこと名前しか知らなくないか?
「そ、そうだ! 自己紹介! 俺、二人のこと全然知りませんし・・・」
「そういえばお前、二人とは今日が初対面だったな。」
「あんまりにも馴染みすぎてて忘れてたぜ!」
糞親父!本来だったらお前が切り出してくれって話だよ・・・
そんなことを思っていると櫻子が切り出してくれる。
「若草・・・これからは新谷でしたね。」
「新谷 櫻子です。言うまでもないと思いますが・・・」
「4月から一応・・・兄さんと同じ高校に通う予定です」
「・・・よろしくお願いします」
「兄さん・・キターーーー!!!!」
「なんですかっ! 大声を出して気持ち悪いです!」
「もう一回! もう一回言って! 録音するから!」
「キモいです! 調子に乗らないでください、お願いします。」
「お願いされては仕方ない・・・録音はやめよう」
「当たり前です」
我ながら妹にチョロ過ぎな気がするが・・・兄ってこういうもんだろ?
それにしても俺と同じ高校に通うのか・・・!
つまり、後輩で妹! 属性強すぎないか! ひゃっほーう!
「私も紹介しようかしら? うふふ」
「お願いします! ぐへへ」
「元気ね~。 うふふ」
「私は、新谷 桜よ~。」
「龍平さんとはお仕事で知り合って~」
「歳は~~いくつに見える?」
「24歳!」
「いい子ね~。うふふ」
やったぜ! 頭撫でてもらっちゃった!
それにしても見た目凄い若いよなー。
あれで娘を産んでるんだからなー
櫻子が15歳としてーあれ? 桜さんの実年齢って・・・
「それ以上は考えちゃいけないわ~。ふふふ」
「痛い、痛い! 桜さん! 爪が! 爪が頭に!」
「お母さんって呼んでもいいのよ?」
「お母さんこれからよろしくお願いします!」
「いい子ね~。 うふふ」
この人は怒らせない方が身のためだな。
そんなことを思っていると、親父が寂しそうにこちらを見ている。
「なぁ、この際俺も紹介したほうがいいか?」
「えっ? 別に。親父のことなんて知りたくないし」
「息子が冷たいっ!」
「私も別にいいです」
「櫻子ちゃんも!?」
今更知る必要もないだろう。
新谷 龍平。デザイナー、最近テレビでよく見る。
ほら、別に知りたいことなど別にない。
そんなに言いたきゃテレビで言ってろ!
「そんなことより俺の自己紹介だろ!」
「新谷 良平! 16歳!」
「好きなものは妹で、嫌いなものは親父だ!」
「よろしく!」
「つまり、アホってことですね。わかりました」
「なぜだぁ!!?」
「いえ、気持ち悪いので」
「届けこの愛!」
「届きません」
つれないなー。まあ、そういうとこも含めて可愛いと思うが
「だから、口に出てます。気持ち悪い」
出してないと思うんだけどな・・・顔か? 顔に出てるのか?
そうに違いない! 愛が溢れてとまらない!
「・・・・・知らないです」
「ふふふ、外も大分暗くなってきましたし、そろそろ帰りましょうか?」
「そうですね。お母さん行きましょう」
「それじゃ、また来ますね~。バイバイ良平くん。龍平さん♡」
「お邪魔しました。ほら母さん行きましょ」
・・・・・・帰ってしまった。
「なぁ、親父・・・」
「なんだ良平?」
「二人は次、いつ来るの?」
「そりゃー、3月終わりごろ・・・の引っ越しの時だろ」
「・・・・・・」
「1ヶ月も会えないじゃん!!!」
「今更だな!!」
この日の晩は1ヶ月も妹に会えないことを悲しみながら枕を濡らすのだった
◇◇◇
帰り道
「ふふふ、良平くんに実際に会ってみてどうだった?」
「気持ち悪かったです。あんなのが兄だなんて信じられません」
「ふふふ、そうかしら? きっといい子よ~」
「お母さんは見る目がないです。」
「そう? お母さん、男を見る目には自信あるのよ~。うふふ」
「ないです。節穴もいいところです」
「うふふ、そうかしら?」
「けど、きっと櫻子ちゃんにもわかる日が来るわ~。きっとね」
お母さんが真面目に喋っているのは久しぶりに見ました。
なにが、そんなにいいんだか? ・・・考えるのはやめましょう
どうせ、一緒に住みだしたら、わかるんでしょう・・・多分
「・・・・・・」
「お兄ちゃん・・・か」