いえ、重症です。妹を探して三千里
「現実は厳しいな……鷹志」
「どうしたの? 元気なさそうだけど……」
「櫻子と昼飯を食べれなかった……」
「重症だね……」
櫻子と一緒に昼飯を食べることが出来なかった俺は教室で絶望していた。
だが、それだけでない。突如現れた後輩少女との出来事が絶望を加速させる。
「鷹志……、妹の友達を押し倒して胸を揉む兄ってどう思う……?」
「何それ実話? ちなみに最低だと思うよ」
「違うんだ!! 不慮の事故だったんだーっ!!」
「大変だね……」
「ああ、しかも何人かに普通に見られた……」
「それは……最悪のパターンだね…?」
「教えてくれ! 俺はどうすればよかったんだ…?」
今でも教室で俺の噂がまことしやかに流れているような気がする。
まあ、それは取り敢えずはいい。そんなことより俺が危惧しているのは……
「妹に嫌われるという最悪のパターンだーぁああ!!」
「良平君! みんな見てるよ!!」
「そんなこと言ってる場合か!?」
「ええー!!」
「櫻子に嫌われたら……俺はどうすればいいんだ…?」
やっと理想の妹ライフが始まったばかりだというのに……
終わってしまうのだろうか……。いや、終わらせたくない……!
「ねぇ? 櫻子ちゃんにはちゃんと謝ったの?」
「そういえば……謝ってない……」
「だったら放課後謝りに行こう? 僕も一緒に着いていくから、ね?」
「鷹志ぃ~!お前ホントいい奴だよな~!」
「そんなに褒められると照れるよ~」
「いや、お前はホントに良い奴だ!ありがとう!」
「なんか照れるな~。えへへ」
そうだよな! 必死に謝れば許してくれるよな!
ああ! 放課後が待ち遠しい~!! 放課後よ早く来い!!
◇◇◇
放課後、櫻子の1年の教室。
「櫻子!すまなかったぁ~!!」
扉を開け、開口一番で謝罪を告げる。
「あれ?」
教室を見渡すが櫻子の姿が見当たらない。
まさか…俺を置いて……帰ってしまったのか?
「良平君、櫻子ちゃんは?」
「どうやら帰ってしまったようだ……」
「もしかしたら入れ違いじゃないかな? 昨日も校門で待っていたよね?」
「そういえばそうだった! 俺としたことが先走ったぜ!」
「行ってみよう? きっと待っててくれてるよ!」
「おう!」
結論から言うと妹は待っていてはくれませんでした。
◇◇◇
「いいんですか?お兄さんを待たなくて?」
「いいんです。兄さんは少し反省すべきなんです」
「アハハー」
(言えない。むしろ私の方が原因だったなんて……)
「昼休みは本当にすみませんでした……」
「いえ、もう何度も謝って頂いてますし、気にしてませんよ!」
「そうですか……秋穂が心の広い人で良かったです」
「そんな!私なんて」
「いえ、あんな事をされて許してくれるとか、秋穂は凄いと思いますよ?」
「そ、そうかな~」
誰かの犠牲で成り立った今の関係に胸がわずかにチクリとする。
私は、この言いようのない罪悪感を抱えたままでいいのだろうか?
「…………」
「どうかしましたか?」
「いえ、その……」
このままで良いわけないよね。
だって私は新谷さんとちゃんと友達になりたい!
私は決心しました。
全てを話そう……。たとえ、それで嫌われるとしても
「あのね! 新谷さん!!」
「私、実は……!」
昨日の放課後の事から今日の昼休みのことまで全て話しました。
放課後、後をつけて覗き見したこと。
昼休みにお兄さんに嫌がらせをして困らせたこと。
そのお陰で新谷さんと友達になれたこと。
私は包み隠さず全て告白しました。
「…………」
私の話を全て聞き終わると、新谷さんは考え込むように黙ってしまいます。
きっと嫌いになったよね。ごめんなさい。
「一つだけ聞いていいですか?」
「はい……」
「秋穂は私の為にしてくれたんですよね?」
「はい……」
「なら、別にいいじゃないですか」
「え?」
私は驚きました。まさかこんな私を許してくれるですか?
「聞くに大体は兄さんの行動が悪いですし、秋穂が気負う必要はありません」
「新谷さん……」
「それに櫻子で良いって言ったじゃないですか?」
「さっきからずっと新谷さんって呼んでますよ?」
「あっ……」
新谷さんの言う通りです。
私は確かに心のどこかで後めさを感じていました。
だからきっと新谷さんを名前で呼ぶことが出来なかった。
「いいんですか……? こんな私がお名前でお呼びして……?」
「当たり前じゃないですか、だって私たち友達ですよね?」
友達。その一言に涙がでる。
そっか、私は新谷さんの友達になっていいんだ……
さっきまで、私を苦しめた罪悪感が薄れていく。
これで……やっと。
「ごめんなさい……っ…櫻子」
「いいんですよ。秋穂」
櫻子が頭を優しく撫でてくれる。
正直に話してよかった……。
櫻子と友達になりたいと思ってよかった。
「櫻子…これからもよろしくお願いします」
「ええ、こちらこそ。秋穂」
互いに名前を呼びあう。
今日私たちは本当の意味で友達になれた気がしました。
◇◇◇
あの後、俺は、校内中を走り回り櫻子を探した。
「きっと友達と帰ったんじゃないかな?」
「いいや! きっと校内のどこかにいるはずだ!」
鷹志の言う通りだと思った。
だが、妹が兄を置いて先に帰ったことを信じたくなかった。
だから俺は校内のあらゆるところを探し回ったんだ。
「もうだいぶ暗くなってきたよ? そろそろ帰らない?」
外を見ると確かにだいぶ暗くなっている。
これ以上付き合わせても鷹志に悪い。
むしろここまで付き合わせて申し訳ないくらいだ。
「すまない鷹志……、こんなにも付き合わせて……」
「乗りかかった船だもん、気にしてないよ」
「だけど、流石に帰ろう? きっと櫻子ちゃんも家で心配しているよ」
「あぁ……そうだな、そうしよう」
重い足取りで帰宅する。気まずい……。
だが、帰らないと色々な人たちに心配をかけてしまうので入るしかない。
「ただいま……」
玄関に目を向けると櫻子の靴がある。
やっぱり帰っていたか……。
鷹志には悪いことをしてしまった。今度何かお返しをしなければ……
「遅かったですね。兄さん」
リビングからこちらに小走りして櫻子がやって来る。
あれ? 俺嫌われているわけではない?
「あの……秋穂から聞きました。あれは事故だったんですよね?」
「あぁ……」
「だが、結果としてひどいことをしてしまった……」
「どうやら反省しているみたいですね」
「もちろんだ!本当にすまなかった!」
「…………」
「謝罪は今度秋穂にしてあげてください。あの子も気にしていましたから」
「必ずする!ついでに菓子折りも持っていく!」
「そこまではしなくていいですから……」
「…………」
「反省した兄さんにご褒美です」
さっきから後ろ手に隠していた何かを俺に突き出す。
「これは?」
「一応、兄さんのお陰というか…その…秋穂と仲良くなれたので……」
「その……お礼…です」
「貰っていいのか?」
「要らないんですか?」
「ください!お願いします!」
「初めから素直に受け取ればいいんです」
小さな袋にラッピングされた手作りと思われるクッキーを渡される。
「そろそろ夕飯ですし、後で食べてください」
そう言い残し、リビングの方へ戻っていく。
「…………!」
「ひゃっほ~う!! 妹の手作りクッキーきたーぁっ!!!」
「もう夜ですよ!! 静かにしてください!!」
リビングに居る櫻子に怒られる。だけど俺……今とても幸せです!




