表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/26

第十七話「再落下」

 リーネは、どうにかロープの端を握り締めた。

 しかし、落下は止められない。振り子が返るように、リーネは弧を描きながら、崖の向こう岸に到った。

 目の前に見えるロープの切れ端。そこは刃物で切ったかのような、綺麗な切り口だった。しかし、吊り橋が分断を始めた瞬間、刃物がロープを貫通した様子は見られなかったはず。これは、一体なぜ――

 ――そうか!

 リーネは刹那で考え到る。これもまた、如月ジェックの能力によるものであることに。つまり、ロープをナイフか何かで切っておいて、そこに『時間停止』をかけておく。そして標的がその部分を通りかかった瞬間、その能力を解く。すると、タイミングよく吊り橋の崩壊が始まるのだ。

 ――ようは、ワタシが如月ジェックの罠にまんまとはめられたということ。

 無念を噛みしめ、ぎりぎりと歯軋りをするリーネ。握り締めたロープで全体重を支えながら視線を上へと向けると、数十メートル先、如月ジェックが崖の端から身を乗り出して、こちらをのぞきこんでいた。

「くくっ、やはり生きていたか。東の者」

 如月ジェックは薄ら笑みのまま、水の音よりわずかに大きい程度の声で言ってくる。

「やっぱりしつこいなぁ、お前らは。ほとほと呆れるよ、まったく……。あの状況で、あんたが一体どんな手段でもって生きながらえたのか、少しばかり興味はあるけどね。……それに、どうやってこの場所を突き止めたのかも、ね。この根城は、結構気を使って隠蔽してたはずなんだけど。相当キレる情報屋でもバックにいるのか?」

「……き、如月、ジェック」

 如月ジェックの声を耳に通しながら、しかしリーネはそう呟くだけで精一杯だった。右手の握力だけで体全体を支えている現在の状況。手の平が摩擦で熱く、痛くなってきている。おまけに腕も痺れ、ふるふると震えている。

「まあいいや。とにかく結果は変わらない。それに、今の俺はお前なんかに構ってる場合じゃないしね。結構ヤバいんだ」

「……ヤバい? って、それは、どういう……」

「とにかく、話はお終いだ。さあ、さっさと召されてくれ、哀れな小娘」

 吐き散らすように言うと、如月ジェックは腰元からナイフを取り出し、足元の吊り橋の縄の端を一刀両断にする。

 ――がくりっ

 急に手ごたえがなくなる、縄を握っているリーネの右手。リーネが真上を見上げる中、如月ジェックの顔がどんどん、どんどん遠ざかっていく。

 ここは、完全なる敵の本拠地。

 味方などいるはずもない。

 あの部屋からここまで、それなりの距離があった。

 小林雑音が間に合って助けてくれる可能性なんてありえない。

 これは、完全に敗北の確定。

 そして、死の確定。

 下の水は冷たいだろうか?

 川の中で溺れ死ぬというのは、苦しいだろうか?

 それとも、水に到る前に気を失えば、あるいは楽に……。

 ……ああ、ああ。

 何がいけなかったんだろう?

 何が悪かったんだろう?

 ワタシは何を間違えたんだろう?

 何でこんな惨めな結末なんだろう?

 ワタシが弱かっただけなんだろうか?

 恐らく、そうなんだろう。

 それだけのことなんだろう。

 後悔する気にもならない。

 そんな資格すらない。

 惨め過ぎて。

 弱すぎて。


 ――と、突然、


 ――ガクンッ


 リーネの右肩に激痛が走る。骨が外れたのかとさえ思った。

 そして、周囲を見、気付き、驚く――――なぜか、自身の落下が止まっていることに。

 リーネは茫然自失しながら、自分の右腕が何かに握られている感覚に気付いた。

 見上げると、自分の手首をしっかりと握り締めている、色白の手。

 その手は、眼前の岩肌にぽっかりと開いた空洞から、するりと伸びていた。

 リーネはその手をたどり、その腕の所有者たる人物を目の当たりにする。

 リーネの高校の男子制服。耳が隠れる茶髪に、色白のハーフ顔。雑誌の表紙を彩っても何ら違和感のない、爽やかな微笑を浮かべた先輩。


「――やれやれ、君は落ちるのが趣味なのかい、お嬢さん(シニョリーナ)?」


 ESP部現部長――――藤沢亮介。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ