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第九話「来客その一」

 最寄り駅から家へと向かう道すがら、リーネは延々と考えを巡らせていた。

 ――如月ジュックの能力について

 あれは明らかに、人間が扱える術の範疇を超えている。人間の限界を超えている。『時間を制御する』なんて、そんなことは人間には無理だ、不可能だ。どう考えても、あれは式神が扱う能力のレベルだ。精霊の域だ。間違いなく――――〈如月ジェックは精霊だ〉

 そう考えれば、色々なことに合点がいく。

 まず、〈奴〉が公的な届出なしに名前を変えたこと。取り付く傀儡さえ変えてしまえば、いくらでも変更は可能だろう。中身はそのままで、人間界での呼び名だけを変えることができる。

 それに、あの年齢。

 この二十年、自分の母親以外で、東本家の人間が式神に殺されたなんて話は聞いていない。そんな報告は一つもなかった。〈奴〉が言っていた『東家の人間』というのは、間違いなく母だろう。〈奴〉こそが母の仇なのだ。今まで六年間追い続けていた宿敵なのだ。外見は思いの外幼かったが、考えるまでもない、〈奴〉が子供に取り付いたというだけだ。中身はやはり、母の仇なのだ。

 しかし――――しかし、一つだけ分からない。

 一つだけ解せない。

〈奴〉と一緒にいた土の精霊。彼は如月ジェックのことを「主」と呼んでいた。そしてジェックの保身のために動いていた。〈奴〉を守るために戦っていた。

つまり、彼は如月ジェックの式神である、ということ?

 精霊が精霊を降ろすことだって、まじないさえ唱えれば、特に不可能ということもないだろうが……。しかし、実際にそんなことを実行した例なんて聞いたことがない。

 それに、如月ジェックが式神だというなら、〈奴〉の『主』は一体どこへ行った? 式神は呼び出した主に仕えるのが通例。〈奴〉は主の側にいなくていいのか? 主のために働かなくていいのか?

 そんな疑問がリーネの中に浮かんでくる。

 せめて土の精霊だけでも確保できていれば、問いただすこともできたかもしれないが――――しかし、彼とやりあったはずのユネアの行方が分からない。〈意思伝達〉で問いかけてみても反応がない。どころか、気配すらまったく感じられない。

 恐らく、ユネアは精霊界に返されてしまったのだろう。

 土の精霊との勝負の末敗れたのか、もしくは如月ジェックが介入してきて二対一で負けたのか。どちらなのかは分からないが――――どちらかなのだろう。これは至極痛い状況だ。

 ユネアだって戦闘に手馴れた精霊だったはずだ。決して弱いわけではない。むしろ強者の精霊の中でも上位に入るはずだ。イギリスでも五、六件の仕事に連れ出したことがあったが、彼はすべてにおいて期待以上の成果をあげてくれた。その生真面目な性格も相まって、完璧に仕事をこなしてくれた。

 彼ほど仕事に有用な式神はいないだろう。

 だからこそ――――困る。

 如月ジェックが生きていて、自分もまた生き延びた以上、〈奴〉に再戦を挑むのは必定だが――――〈奴〉に勝つためには、ユネア以上の能力を持つ式神が必要だ。彼以上の精霊を降ろさなければならない。ユネアを降ろすためにも、リーネは三週間かけた。ユネア以上の者を降ろすのにどれだけかかるか分からない。見当もつかない。降ろせるかも分からない。それどころか、彼以上の精霊が存在するのかも分からない。

 この精霊降ろしが成功するまで、如月ジェックは日本に留まっているだろうか?

 間に合うとはあまり考えられないが、可能性があるならばやらないわけにはいかない。これは六年間待ち望んだ千歳一隅のチャンスだ。次の機会などないかもしれない。黙って待っているわけにはいかない。


 そう考えているうちに、リーネはマンションにたどり着いた。


 エレベーターで五階に達し、扉が横にずらりと並ぶ廊下を歩いていくと――――リーネの部屋の前にぽつんと、人が一人立っていた。

 その人物はインターフォンを押そうと右手を持ち上げ、その動作の途中でぴくりと、リーネに気付いて顔を向けてきた。

「……アナタ、は?」

 振り向いた顔が見え、リーネは呟いた。

 無造作な黒髪で、高校のブレザーを着たその男は――


 ――クラスメイトの、小林雑音だった。

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