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聖者

場所は変わって、とある聖界の神殿。

その神殿長の部屋が書類作業をしている所に、金髪の少女が扉を開けて入ってくる。その少女は部屋に入るなり言った。

「シャイアさん、ヒカリを知りませんか!?」

問いかけられた当人である神殿長、シャイア・オロルは眉を潜めた。

「ヒカリのこと?今日は体調が優れないから行けないと彼女の兄から連絡があったはずよ?」

その探されている少女、ヒカリ・ノインは少し体が弱く、病にかかると治るのに時間がかかる。雨に濡れて風邪をひいて3日間神殿の仕事を休んだのは記憶に新しい。

しかし少女、クラヴィア・レビアルは首を横に振って言った。

「でもヒカリは、昨日まで何も体調悪そうには見えませんでした。だから私、朝にヒカリに面会をお願いしたんです。」

「あなた、それは神殿の仕事をサボったと見なしてもいいのかしら?」

「そ、それは後でいくらでも聞きます!それより、面会をお願いしたら、衛兵の人がヒカリは今出かけているから会えないって行ったんです」

「出かけている?体調が優れないのに?」

「はい。おかしいでしょう?」

「そうね……」

ありえる可能性はいくつかある。

1つは、ヒカリの病気が重く、この国内では治せないと判断された場合。

1つは、ヒカリが何か国内で言えないような用事で出かけている場合。

そして1つは、

「ヒカリが、国ぐるみの抗争に巻き込まれている……?」

シャイアの独り言にクラヴィアが素早く反応する。

「抗争!?国の貴族達がヒカリを消そうとしているってこと!?」

息を荒立てるクラヴィアをシャイアが宥める。

「落ち着いて。まだ可能性よ。……一番有力な……ね。」

「でも、もしそうだとしたら、早くしないとヒカリが……!」

「まずは調査をしましょう。じゃあまずは……」




…………………………………………

………………………………

……………………

…………


俺はその紋章を見て、即座に拳銃を構えた。いきなり銃を構えた俺と少女の間に慌ててエルトが入る。

「落ち着け、カイン!こいつはお前の両親を殺した犯人じゃない!」

「そんなこと分かってる!だけど……」

あの紋章を見るだけで、俺は頭の中にあの忌まわしい光景達を思い出してしまう。

空から降り注ぐ炎が、家という家、人という人を次々と焼いていく光景を。

目の前で俺を庇って炭になった母を。

「処刑」と称して刺し殺された父を。

あんな事をされて、聖者を許せるはずがない。

だが、無闇に殺してしまえば、聖界が攻めてくるきっかけを作ることになる。

殺したいと思う自分の感情と、殺してはいけないと警告する理性がせめぎあい、俺は引き金を引くことも、銃を下ろすことも出来なかった。

自分と葛藤し続けていると、後ろから声を掛けられた。

「カインさん!どうしたんですか!?」

振り返ると、レナとリグスが医者を連れてきていた。俺は声を掛けられたのをきっかけに銃を降ろした。

「……ああ、医者を呼んできてくれたんだな。すまん、後は頼む」

俺はそう姉弟に言って階段を登った。


俺は屋根に座って空を見ていた。

10年前まで、この空は光一つない真っ暗な空だった。

それが、今では太陽が見え、昼夜がある。

何も育たなかった土壌は聖界の太陽の光で潤い、様々な植物が育つようになった。

堕界の者は神の救済だと泣きながら喜んでいた。

……あの日が来るまでは。

あの日、聖界が兵を差し向け、堕界は一瞬で地獄へと変わった。空からは炎が立て続けに降り、地面は隆起し、人々はどんどん殺されていった。

……俺だって死んでいたかもしれない。

「カイン、ここにいたのか。診察はもう終わったぞ」

後ろからエルトが歩いてきて、横に座った。

「容態はどうだって?」

「ただの栄養失調だってさ。栄養剤は投与しといたから、目覚めてから十分な食事を取れば問題ないそうだ」

「……死ぬような事じゃないんだな」

俺が溜息をつくと、エルトも溜息をついた。

「さっきも言っただろう?全ての聖者がお前の両親の仇なわけじゃない。少しは冷静になれ」

「何をどう冷静になれと?聖界が堕界を攻める理由はどこにあった!?あの時、俺達の親が殺される必要はなかっただろう!」

俺は興奮してまくし立てる。その俺を見て、

「俺だってそんなものはわからねえよ!」

エルトは叫んだ。俺は驚いて口を噤んだ。

「でもな、それに憤ったって親が帰ってくることはねえ。それに、」

エルトは一旦間を置いて、

「――もう10年経ったんだよ。聖者達の思想も変わってるかもしれねえし、こっちの生活だって豊かになった。もうあの悪夢は忘れさせてくれよ……」

と泣きそうな声で言った。

もしかしたらエルトは泣いていたのかもしれない。俺はエルトの顔を見ることは出来なかった。


レナとリグスが聖界の少女の世話をしている内に、俺は夕食を作った。1度全員を呼んで夕食を取る時はまだ、少女は起きていなかった。

「レナ、あれの調子はどうだい?何かおかしな点はあったか?」

「エルトさん、『あれ』呼ばわりは失礼ですよ。……診察前よりは顔色が良くなったと思います」

「いや、姉さん。栄養失調なんだから、栄養剤打てばそうなるもんだろ?そんな当たり前のことは、言わなくていいだろ」

「ちなみに言っておくとな、お前らが来た時も最初は栄養失調で寝込んでたぞ?レナにおいては栄養剤打っても顔色悪かったからな、当たり前とは限らねえよ。……まあ別に大丈夫そうだな」

俺は一言も喋らずに食事を取った。早く聖者の話から話題が変わってくれることを願っていたが、その食事中に話題が変わることはなかった。

食事を終えて、俺は姉弟と一緒に寝ている少女の様子を見に行った。

まだ少女は目を覚ましていなかったが、だんだん回復していることが顔色からうかがえる。俺はこの少女をどうするか悩んでいた。

聖界の者とあっては、どう扱えばいいか分からない。下手をすれば、この町も一瞬で焼け野原にされる。いったい誰に聞けばいいのか――あ、一人いた。

「なあエルト。この聖者、目覚めたらシエルの所に連れていっていいか?」

「シエル?シエル・セラフィムか?お前の師匠とかいう」

「ああ、堕天したとしても、セラフィム家はいろいろな知識を持ってるだろうし、もしかしたらこの聖者についても知っているかもしれない」

シエル・セラフィムは、堕天――聖者が聖界を追放されて堕界に堕ちる事――して堕界に住んでいる「元」聖者だ。彼女ならば、この聖者をどうすればいいかアドバイスをくれるかも知れない。

その時、



「んっ……んん……」

と少女が動いた。瞬間、場の空気が一気に張り詰める。

彼女が堕界を敵視する聖者だった場合、目覚めてすぐに攻撃してくる可能性がある。俺は腰にかけてある拳銃を掴み、いつでも構えられるようにする。エルトも同様のようだ。レナとリグスは少し下がって俺達の後ろに隠れる様になった。



「うっ……んん……」

彼女は何度もそうやってもじもじしている。こっちが気を張り詰めているというのに呑気な事だ。

もともと起きるのが得意ではないのだろうが、この空気の中でこうものんびりされるとイライラしてくる。

そうして十何度目ぐらいの時、


「さっさと起きろこの聖者!」

ついにエルトの堪忍袋の尾が切れた。

少女は反射的に、

「きゃっ!?すいませんすいません!今起きました!」

と謝る。

……本当にこいつ聖者か?

俺達が知っている聖者というのは、堕界の者をひたすらに見下す奴らばかりだった。だから、俺達が知っている聖者とは全く別物な対応に俺達はしばらく驚いて目を点にしていた。

ある程度時間がたってからエルトがくくくと笑いをこぼし始める。

「なんだよこれ、俺達が気を張り詰めていたのが馬鹿らしいじゃねえか」

そう言いながら拳銃をホルスターに戻すエルトを見て、俺も拳銃を元に戻した。

エルトが立ったまま質問を始める。

「さて、聖者さん。まずあんたの名前を教えてほしい」

「名前……ですか?」

「そう、名前だ。じゃねえと、あんたを聖者と呼ばなければならない」

「名前……私の…………名……前?……あれ?私の…………あれ?」

最初の名前、恐らく大体のものが答えられる質問に答えらない少女の顔色は悪くなっていき、それと同時に声も小さくなって行く。

「おい、どうした?大丈夫か?」

異常を感じたエルトが質問した時、俺はなぜ少女が答えないか分かった。

答えないのではなく、答えられない。

俺がそのことをエルトに言うより一息早く、少女が「あの……」と口を開いた。

少女はこう続けた。



「私…………自分の名前が分かりません」



完成しているのはここまでです。

いろいろと訳がわからないかも知れませんがこの先分かると思います(震え声)

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