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始まりは唐突に

この世界は3つに分かれていた。

1つは聖界、神に認められた者が行ける世界。

1つは常界、普通の者が暮らす世界。

1つは堕界、神に見捨てられた者が暮らす世界。


ある日、この3つの世界の境目が曖昧になり、それぞれの世界から人々が移動できるようになった。

堕界の者はそれを神の祝福と言い、聖界の者はそれを堕界の侵略とみなした。


こうして、聖界は「聖戦」と称して堕界に兵を向け、聖界と堕界の戦争が始まった。

戦争は3日もかからず終了した。

堕界は聖界になす術もなく支配されたのだ。











「おい、そこのお前!うちの情報を持ってくんじゃねえ!」

後ろから走ってくる怒声を聞きながら、俺は走った。全く、また厄介なのに見つかってしまった。だが相手はただの聖界派の組織だ。聖界の人間よりは質がいい。

ただし、聖界の奴らに目をつけられれば大変だ。顔を見られないように、さっさと大人しくしてもらわないと。

「よしやっと止まったな!さっさと顔見せ」

止まった俺の背にに掴みかかってくる手を取って、壁に叩きつける。ぶつかった途端に直ぐに静かになった。

「ふう、危なかった」

路地裏を出て、少し歩いてからフードを取る。まあ、ここらは聖界否定派の住居だから、別に怪しまれることは無いんだが。

そのまま商店街に行き、もう一度路地裏に入る。

「おう、情報は取れたか?」

既に路地裏にいた男が声をかける。

「ある程度だな。ある程度の証拠が見つかったから、奴らを脅して更に情報は得られるかもな」

「おお、やっぱり否定派トップクラスの情報泥棒は格が違うな!」

「あくまで正面から入って情報を取っていっただけだから泥棒ではないんだがな」

「細かいことはいいさ。よし、やっとあの糞組織を解体出来そうだ。はい、約束のもんだ」

男から袋を受け取る。中身を確認してから、俺は路地裏を出た。


その後、商店街によって野菜などの食材を買い、もう一度路地裏に入る。

そこには、別の男がいた。

「よう、カイン。仕事は終わったか?」

「ああ、エルト。聖界派の一員に見つかったがな」

「顔は見られてないんだろ?なら問題ないさ」

そう言いながら菓子を投げてくる。

「お前が菓子を投げるのにも慣れてきたな……」

「聖界様様だな。そうか、もう10年も経つのか……」


3つの世界の境界が曖昧になった結果、堕界に初めて光が降りた。

今まで光が降りなかった堕界には作物が一切育たなかった。食料として食べれるのは、時たま現れる鼠ぐらいだった。

飢えた人間は争い、堕界は殺伐としていた。

しかし10年前、光が降りたことによって作物が育つようになり、治安は安定し、堕界は急速に発展していった。

その代わりとして、聖界に攻められ、堕界はほとんど聖界に支配されている。

堕界は聖界派と聖界否定派に分かれ、ときどき抗争が起きたりしてはいるが、ある程度平和になったのだ。

そして月日が流れ、堕界の人々の生活は安定し、技術力が進歩した。にも関わらず、まだ聖界の支配からは抜け出せれていない。

なぜなら、聖界の者と堕界の者には決定的な差があるからだ。






菓子を食べ終わって、エルトと共に街を歩いて帰る。

「そろそろ、俺の家を借りるのに家賃を取ってもいい頃だとは思わねえか?」

「やめてくれよ……お前の仕事を優先してるんだからそれくらい許してくれ」

「まあまあ、お前も金稼げるようになってきたし、多少は良いじゃねえか…………っておい、カイン。ありゃなんだ?」

日常的な会話をしている途中に言われ、エルトの指さす方向を見てみると、そこには6人程度の男達が一つの大きな荷物を運んでいた。

俺には、いつも頼まれたものを運搬する運送屋にしか見えないんだが……

「なんだ、ただの運送屋じゃないか」

そう俺が言うと、エルトが首を振って否定する。

「いや、あの一番前にいるのは聖界派の人間だ。あれは運送屋なんかじゃねえ」

「そうすると、何か危ねえ物の運搬か、もしくは否定派の中にスパイやってる奴がいて、そこに何かを運んでいる、って所だな」

「どちらにしても危険なことに変わりはねえ。カイン、奴らを追うぞ」

「分かった、ならお前は奴らの先回りをしてくれ。俺は後ろから後を追う」

「背中に野菜背負ってんだからってバレるんじゃねえぞ!」

「そんなドジは踏まねえ」

そう言うとエルトは走って適当な路地裏に入った。もう大体奴らの行く場所の予想がついているようだ。

同じく他の路地裏に入っていく奴らの後ろに気付かれないように付きながら、俺は奴らの会話に耳を傾けた。

「よし、あとちょっとだぞお前ら。あと少しで目的地だ」

「後少しでこの聖界否定派をぶっ潰せるんすね!」

「声が大きい!さっさとこれ置いて帰るぞ」

「それにしてもこれだけでぶっ潰せるって凄いですよね……」

どうやら、運んでるのはかなり危険なものらしい。街をぶっ壊すのではなく、聖界否定派をぶっ潰すと言っている辺り、爆弾というより毒等かもしれない。

毒を撒かれれば、何の関係もない者にも危険が及ぶだろう。

……絶対に阻止しなければ。

俺は手をぐっと握った。


それから奴らは少し歩き、止まった。

「よし、ここでいい。ここには大規模な不良集団の集合場所がある。ここに置いていくぞ」

「……誰かに盗られたりしませんかね?」

「そんな危険集団のたまり場に物盗りにくる物好きがいてたまるか」

「あ、それもそうですね。じゃあ帰りましょうか」

と言うなり奴らは運んでた物を地面に置いて、足早に去ってしまった。別に何かを設置するわけでもなく、ただその箱を置いていったのだ。

「何だったんだ……?」

と俺は呟いた。


完全に足音が聞こえなくなってから俺は置いてある物に近づく。同じタイミングでエルトも近づいてくる。

「残念、これを取りに来る物好きはいるんですよ。なあ、カイン」

「それはお前だけでいい」

なんだよ、と呟きながら上に被せてある布をエルトが取る。

その中には、人1人が余裕で入りそうな箱が入っていた。

「あの人数でこの箱1つって言うことは、中に毒瓶とかの割れやすいもんが入ってるのかもしれん。少し下がってろ、危険だ」

真面目な声でエルトが言うので俺は二、三歩後ろに下がる。

エルトが勢いよく蓋を開け、中を見る。爆発も起きてないし、中から人が飛び出てくるわけでもなかった。

だが、開けてすぐエルトが

「おい、カイン!こっちに来い!」

と呼ぶ。

「なんだよ、エルト。爆発しないってことは危険じゃ…………え?」

中にいたのは爆発物ではなく……少女だった。

恐らく気を失ってるのだろう。さっきから何も動いてない。

「なんだ、俺らは誘拐の罪でも被せられそうになってんのか?もしくはここの近くのチンピラどもに売ったとかか……?」

エルトがブツブツと言っている間、俺はその少女をもう一度見てみた。

髪は青に近い紫色の長髪で、肌は白い。歳は15程だろうか。顔は整っており、恐らく高価な材料で作られた白い服で体を覆っている。恐らく身分は高いだろう。

服を見た時、俺は1つおかしい所に気がついた。

「でも、この服、聖界否定派でも聖界派でも見たことねえぞ?」

「そうすると……聖界から送られたものか。そうすると……聖者に仕える奴か!?おい、カイン!さっさと家に移動するぞ、ここにいると危ないかもしれない!」

「了解!」

素早くエルトは少女を抱き上げ、走り出す。俺もその背中を追って走った。

一応聖界否定派の中でも有名なエルトだから、目に付くのだろう。途中で警備団に声をかけられる。

「エルトさん、どうしたんですか!?その抱えてる子は!?」

「聖界派が隠れて運んでた奴だ!一旦俺の家に運ぶ!」

エルトが走りながら叫んでるから、大した騒ぎにはなってないが、これはのちのち事情を聞かれるだろうな。

そう考えながら、俺は走った。



エルトの家について、エルトがドアを勢いよく開けて入っていく。俺もその後について家に入る。すると、二人が階段を降りてきた。

「カインさん、どうかしたんですか?エルトさんが走って行きましたけど……」

「ああ、レナ。なんか訳ありの奴を見つけた。エルトが一旦家に運ぶそうだ」

「エルト兄って、よく人を連れてこねえか?大体碌でもない奴だけどさ」

この二人は、レナとリグス。こいつらも、3年前にエルトが連れてきた姉弟だ。今は何故か俺が世話させられているんだが……。

「おい、レナとリグス。お前らは近くの医者を呼んでこい。カインはこっちだ」

奥の部屋からエルトが言う。

「了解です!」「分かった!」

と言って2人は駆けていく。俺は奥の部屋に行った。

俺が部屋に入ると、エルトが声を掛ける。

「来たか、カイン。今の内にお前に見せておく物がある。これを見ろ」

そう言ってエルトは少女の服を捲り、左の腕を見せる。

そこには、俺が一番見たくない、黄色い1つの羽の紋章、


聖界の者であることを示す、聖章があった。


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