恋する!トイレの花子さん。
短いです。
私は運命なんて信じない。
彼も運命なんて信じない人。だから、きっと私と彼が出会ったのも運命ではなく偶然だ。
そう。私達は『偶然』学校のトイレの前で会った。そして、『偶然』ぶつかり、私が『偶然』足をひねり、彼が『偶然』保健室まで運んでくれて、『偶然』知り合った。
ところで、皆さんはあだ名はあるだろうか?「あだ名」とは何かわからない人のために書いておこう。「あだ名」とは、人の愛称でありニックネームである。自分のあだ名が大好きな人もいれば、大嫌いな人もいるだろう。
私はどちらかと言うと後者だ。
私に最初のあだ名がついたのは小学校一年生の時。その時のあだ名は中学二年生の今になっても変わらない。本名よりもあだ名の方が定着してしまっている状態だ。
ここで、私のあだ名が気になった人は少なくないはず…ならば教えよう。
私のあだ名は、『トイレの花子さん』だ。
確かに黒髪のおかっぱ頭 (できればボブカットといってほしい) だし、好きな色は赤系と青系だし、牛乳が嫌いで白系の色も嫌いだし、卓球部に所属してるし、花粉症だし、名前も『長谷川 花子』だ。
(インターネットで検索してみてください。「トイレの花子さん」のプロフィールと全く一緒です)
いや、認めた方がいいのかもしれない……私のあだ名は私にぴったりだと思う…
しかし、私は自分のあだ名が好きじゃない。せっかく『花子』という名前なのに、親友の美琴以外『はなちゃん』と呼んでくれない。
つくづく、自分の両親を恨む。
小学校一年生 = 初めてのあだ名が『トイレの花子さん』
小学校二年生 = クラスメイトにからかわれたり、怖がられたりする。
小学校三年生 = 嫌になって両親に相談するが笑われた。(怒)
小学校四年生 = 少しいじめられる。
小学校五年生 = 転校してきた美琴と友達になる。いじめがストップ。
小学校六年生 = 自分の名前をこんなのにした両親を恨み始める。小学校卒業。
中学一年生 = 新しい環境にドキドキするが、あだ名は変わらない。うっかり卓球部に入部してしまい、トイレの花子さんとしてグレードアップ。
中学二年生 (現在)
自分の学校生活を簡単に振り返ってみた。ちなみに、小学校の卒業文集には、「名前を変える」と書いた。
そんな私は、トイレが大の苦手だった。しかし人間はトイレと切っても切れない関係にある。生きていく上でトイレは必要不可欠な存在だ。
できるだけ学校でトイレにいかないようにしていても、私は人間。
ある平和な昼休み。私は中庭から一番近い男子トイレと向き合っている女子トイレに向かう。ここなら人も少ないし、もし入るところを見られたとしても、トイレの花子さんではないような満面の笑みを浮かべとけば怖がられることはない。と思う。
私は美琴にお手洗いに行ってきますと、一声をかけてから満面の笑みでトイレに入る。
しかし満面の笑みで女子トイレに入っていくおかっぱ頭の女の子……十分怖い。
今度からやめよう。
用を足し終わり、手を洗ってからハンカチをくわえたまま女子トイレを出た時、私は急に男子トイレから出てきた誰かにぶつかりバランスを崩す。
お尻が強く床に叩きつけられ、ジンジンと痛み始める。
バランスを崩した時にひねってしまった右足も痛い!
「ううっ〜」思わずうめき声をあげながら見上げると、坊ちゃん刈りの学ランの男の子が立っていた。
「ああっ!ごめんなさい!大丈夫ですか?」手を差し出してくれるので、その手を握って立ち上がろうとするが、右足が痛すぎてうまく立ち上がれない。ヨロヨロとしてしまう。
私はとっても不機嫌だった。誰にも見つからないようにそっとトイレに行ったつもりが男子生徒とぶつかり、足をひねってしまったからだ。ふと、小学生の時の陰湿ないじめを思い出して涙目になる。
そんな私を見て勘違いしたのか、男の子はオロオロして、保健室まで連れていってくれた。
「はい。もう大丈夫なはずですよ。湿布貼ったし……クラスとお名前は?」養護教諭の藤中先生が聞いてくる。
「二年四組の……長谷川花子です……」名前のところだけ声が少し小さくなってしまう。
男の子を見ると少し驚いたような顔をしていた。そりゃあ、そうだろう。『長谷川花子』なんて、トイレの花子さんだ。
私と男の子は藤中先生に挨拶をすると、保健室を出る。湿布のおかげか、痛みが大分引いてきた。
「あの……大丈夫?…」
「うん、大丈夫。飛び出した私も悪かったし。ごめんなさい」
「ううん!僕がトイレに行ってたの誰にも見られたくなくて、飛び出したからだよ。……僕、二年一組。……長谷川太郎。」
男の子が恥ずかしそうにうつむきながら言う。
「……!」私が声にならない奇声をあげてしまったのも無理はない。長谷川太郎…トイレの太郎さんじゃないか!
トイレの太郎さんはトイレの花子さんほどメジャーではないが、トイレのお化けとして扱われている。太郎さんは花子さんの弟という説もあったり、はたまたボーイフレンドという説もある。トイレの花子さんの男の子バージョンみたいなものだと思ってくれればいいと思う。
「苗字、一緒だね……」私は驚きのあまりこんなことしか返せなかった。
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「あの、花子さん…僕と…付き合ってください!」
後日、中庭に呼び出されたと思ったら長谷川太郎くんが顔を真っ赤にしながら急にこんなことを言ってきた。
まさか告白されるとは思ってもいなかった私も顔が真っ赤だったの違いない。
「…えーと、なんで?…」
いくらなんでも急すぎる。それなりに理由があるはずだ。
「え?だって、花子さんは太郎さんのボーイフレンドなんでしょう?一緒にいる必要があるじゃないですか。」
まるで、『え?1たす2は3でしょ?なんでそんなこともわからないの?』と言っているようで私は呆れるのか驚くのか、色々と感情が混ざり込み、とりあえず、自分を落ち着かせるためにため息をついた。
「色々と説はありますが…そんな理由だけでお付き合いしたいなんて、お断りです。」
「いやいやいや!それだけじゃなくて!ちゃんと、好きです…えーと、ぶつかった時とか、顔あげた時に一目惚れしちゃって…それで涙目になった時とか、ドキドキして……」
顔をますます赤くする太郎くんを見ていると、心拍数が上がり、何が何だかわからなくなってしまう。
「……イイデスヨ。フツツカモノデスガ、オネガイシマス……」自分でも聞いたことがないような裏返った声が出る。
「……アリガトウゴザイマス。コチラコソヨロシクオネガイシマス…」太郎くんも裏返った声を出す。
なんだかものすごく恥ずかしくなってしまった私は太郎くんから背を向けて反対方向に駆け出すが、途中で転んでしまい、それでも起き上がって振り返ると、太郎くんがこちらを見ていて、誤魔化すために手を振る。
あ、振り返してくれた。 それがなんだか嬉しくて私は美琴のところにスキップして戻る。
「美琴〜!」
「おお!どうした?はなちゃん。急にいなくなったと思ったら、ご機嫌で帰ってきたな。」
ティーン雑誌を読んでいた美琴が顔をあげる。美琴はふわふわとした見た目によらず男らしく、私のいじめを止めてくれたのも彼女だ。それがきっかけで今は親友の仲。
「私ね!前、トイレの前でぶつかった男の子に告白されちゃったの!勢いでオッケーしちゃった!」
「なんだとぉ?!そいつ、どんな男なんだ?」
「ふふふ、聞いて驚くな〜長谷川太郎くん!トイレの太郎さんだよ!びっくりでしょ!」
「………ああ、あいつか。トイレの太郎さんで有名だな。一組だろ?」
驚くと思ったのに、意外と知ってるらしい。
「美琴?知ってるの?」
「うん。一組と四組でトイレって言ったら、はなちゃんと太郎だな。ってか、はなちゃんが知らなかったのが意外だ。」
「ええ〜そんなに有名だったんだ…」なんで知らなかったんだろ?まあ、小学校も違ったし、他のクラスの人とは仲良くないしな。
「とりあえず、頑張れよ。なんかあったら言ってくれていいからな。はなちゃんを泣かせたら、殴ってあげるから。」頼もしい親友を持てて、私は幸せ者だ。
こうして私、トイレの花子さんはトイレの太郎さんと付き合うことになった。
クラスメイトにトイレの花子さんとトイレの太郎さんがくっついた!と、いじられるのはまた別のお話。
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おまけ
花=花子 太=太郎 美=美琴
花: 「なんでいっつも、学校帰りはトイレの前で待ち合わせなの?」
太:「だって、トイレの花子さんと太郎さんでしょ?トイレの前で待ち合わせしないと。」
花:「理由はそれだけなら、もう太郎くんと一緒に帰らないよ。」
太:「いやいやいや!だって、トイレの前で出会った時のこと思い出して……あの時の花子ちゃん、可愛かったなあって、今はもっと可愛いけどね。」
花:「……いいから、もう行こう…?」
太:「うん。」
二人は手を繋ぐと歩き出す。
美: 「あいかわらずのバカップル……名付けるなら、『トイレカップル』だな…」
その後ろで呟く美琴は成長する我が子を見守っている母の目をしていた。
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