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7つめ:初心者の迷宮10F(私物化中)

小説を閲覧いただきありがとうございます。

感想、評価、ブクマ等いただけましたら、作者は大変喜びます。

どうぞよろしくお願いします。

「そ、そんな方法で攻略してきたのかにゃ!?」


 5階で猫又のココノオと契約した柚子はコマンド:リターンにて、

安全地帯へと戻ってきていた。

 ココノオを戦闘不能に追い込んだマタタビ、ではなくマタタビ風味の

ゼリーの肉片をフロア中に塗りたくってきたので、5階も無事私物化に成功。

 そのためコマンドが使用出来たのである。

 もっとも5階以下はすべて私物化していて、1階と同じ構造にしておいたため、

階段を真っ直ぐ下ればすぐに帰れるのだが。


「そうだけど、変かな?」

「うにゃー変とかそういうレベルじゃないにゃん。

 何なのにゃ、その裏技攻略は。迷宮は乗っ取るし、経験値部屋は作るし」


 経験値部屋とは例のモンスタートラップルームのことで、

柚子が各階層に1つずつ作っているものだ。

 あれから改良を加えて、近くにいるだけで経験値がもらえるようになっていた。

 ほとんどはドアさんに取られてしまい、微々たるものではあるが、

このトラップルームのおかげで、柚子のLvはようやく16まで上がっていた。


 安全地帯で、柚子のこれまでの行動を聞かされたココノオは心底驚き、

そして、その常識外れの行動に呆れてしまった。

 ドアが武器ってどういうこと? とか。なんで迷宮を乗っ取ってるんだよとか。


「まさかアイテムユーザーがそこまで規格外のスキルだったとは

思わなかったにゃん。これは、主……うにゃ元主にゃね。

 元主が黙ってなさそうにゃー」

「元主? 誰それ」

「リヒター・マインラートにゃん」


 どこかで聞いたことあるようなお名前ですねと柚子は思った。

 同時にそれ以上思い出してはいけないと頭のどこかが警告を発している。


「えーっと?」

「入学式で会ってるはずにゃよ。

 毎年新入生を迷宮に落っことす性悪先生っていうので有名にゃ」


 あーやっぱりあいつかーと柚子はうなだれた。

 白髪赤目で顔は整っていてイケメンだけど、性格は最悪そうなあの教師である。


「ど、どうしよう。怒られるかな?」


 怒られるだけで済むなら素直に反省する。怒られるだけ、なら。

 ぶるぶると震える柚子にココノオは心配ないにゃーと元気づける。


「怒ったりはしないと思うにゃー。逆に喜ぶと思うにゃよ。

 あの人、想定外の出来事とかハプニングとか大好きだからにゃー。

 むしろ何事もなかったら、自分からハプニングを起こしに行くタイプにゃ」

「うわ。何それ、すごい迷惑」

「……くれぐれも本人の前では言っちゃダメにゃよ? 命は大事ににゃ」


 ココノオの忠告に柚子ははっと口を手で押さえてこくりと頷く。


「にゃんが5階に配置されたのだって、あの人の悪癖が原因にゃ」

「なるほどー、まぁ結果的に強力なパートナーが出来て良かったけどね」


 おまけに可愛いし! もふもふーと叫びながらココノオを頬ずりする。


「ふわふわー猫ぎゅーー」

「うにゃ! く、くすぐったいやめろにゃ! 聞いてるにゃ!?」

「聞いてる聞いてるー」

「まとめると、リヒターが何かしてくる前にさっさと迷宮を攻略した方が

良いってことだにゃ。うにゃーー! 聞いてるのにゃ!?」

「聞いてる聞いてるーうへへへぇー」


 結局、ココノオは柚子が満足するまでもふもふされる羽目になった。


 ***


 ココノオが加入してから、柚子の迷宮攻略のスピードは格段にあがった。

 戦力的に充実したというのもあるが、柚子が道草を食いそうになるたびに、

ココノオが健気にも軌道修正したのが大きいだろう。

 そして、柚子なりにココノオの忠告をきちんと聞いていたのも要因になる。

 ゼリーを使ってフロアを私物化してる分、遅くなっているが、

当初の予定よりも早く柚子は10階へとたどり着いた。


「ここがボスの間か……ボスって一体何が待ってるんだろう」


 柚子の言葉にココノオはふむと考える。


「例年通りだと機械兵マキナ泥人形ゴーレムじゃないかにゃあ」


 マキナもゴーレムも初心者用のボスではないと思われるかもしれないが、

案外とそうでもない。

 どちらも巨体の割には見かけ倒しで、弱点が露骨に分かるように

設定されているのだ。

 ゴーレムは体のど真ん中に弱点である「真理」という文字がでかでかと書かれている。これを削って「死」としてやれば、あっけなく土塊に帰るだろう。

 マキナにしても、今は製造もされていない旧式で、動力がバッテリー内臓式ではなく、迷宮の壁に設置されたコンセントからの電力供給だ。

 当然、コンセントからプラグを引っこ抜いてやれば動作は停止する。

 弱点が分かっていれば、どうやってもクリアできるように設定されていた。

 下手なモンスターを使うよりも安全でコストも安い。リーズナブル。


「あ、ゴーレムだ。ココノオの言う通りだね」

「ふにゃ!? なんで分かるんだにゃー!!」


 あっさりと肯定する柚子に突っ込むココノオ。

 柚子はこれだよ、これと言って生徒手帳を指し示す。


「ダンジョンマスターの権限一覧でね。

フロアに存在するモンスターを確認出来るのさ」


 ココノオが生徒手帳をのぞきこめば、そこには初心者の迷宮の

機密情報がずらりと載っていた。とんでもないネタバレである。


「ほ、本当にゃ……。む、まさかにゃんの時もこれを見たにゃ?」

「そうそう。じゃなきゃマタタビ(もどきだけど)なんて対抗策用意できるわけないじゃん」


 あっけらかんと告げる柚子にココノオは絶句。

 言われてみればそうなのだが、思考がついていけない。

 

「情報は大事」

「そうにゃけど、何だかすさまじくズルをしてる気がするにゃん」

「まぁまぁ、使えるものは積極的に使ってるだけだよ。気にしない気にしない」


 ものすごく不満げなココノオを何とか言いくるめると、

ボス部屋に入る前に、手荷物の最終確認をする。


「トランクOK。こてOK。モップとバケツ問題なし!」


 大事な大事なお宝たちが入っているトランクをロープを使って背中に括り付けて、腰に取り付けたポーチには、小道具と愛用のこてが2本(増やした)。

 手には掃除用のモップとゼリーほいほいがたっぷり入ったバケツ。

 お前はどこの清掃員だよという格好である。


「にゃんもいつでもサポートするにゃよ! 鈴はきちんと装備してるにゃね?」

「うん。ほら、おばあちゃんからもらったお守りに縛っておいたから大丈夫」


 柚子は首から下げているお守り袋を取り出して、ココノオに見せる。

 ココノオとの契約の証である金色の小さな鈴がちりんと揺れた。


「それがあればにゃんの力が働いて、微力ながら柚子を守ってくれるにゃん。

 あと、念話も使えるから無くすにゃよ?」

『ほほう。こういうことだね? 了解!』

「そういうことにゃん」 


 ココノオとの連携体制も問題ない。

 それじゃあ、行きますかと覚悟を決めてボスの間に入っていった。


 ***


「大きいなー」

「大きいにゃねぇ」

「ゴオオオオオオ」


 柚子とココノオは目の前に立ちふさがるゴーレムを見上げる。

 大型トラックほどもある巨大な石の塊。

 それが人の形をしていて動くのだから、普通の人間なら恐怖で足が竦んでしまうに違いない。


「そして、弱点も大きいね」

「でかでかにゃね」


 体の正面全域にでかでかと掘られた「Emeth(真理)」の文字。

 この文字の最初の頭文字「E」を削ってやって「Meth(死んだ)」とすれば、文字通りゴーレムは死ぬ。ゴーレム伝承では有名な話だ。

 本来のゴーレムはわざわざ見つけやすい位置に弱点である文字は書いていない。

 巧妙に隠してあるか、もしくは弱点を別の何かに代用して書かないというケースが一般的だろう。


「何にしても、的が大きくて助かった。あそこを削ればいいんでしょ?」


 攻撃態勢を取るゴーレムを正面に見据え、柚子はこてを構える。


「そういうことにゃ。ゴーレムの攻撃は全部避けるにゃ。

 当たれば一撃でおしまいにゃよ」

「了解!」


 言うや否や柚子はゴーレムに向かって走り出す。

 ゴーレムが腕を振り上げ、柚子に向かって振り下ろした。


「威力が高くても、当たらなければ意味はないっ!」


 ゴーレムの動作は鈍い。柚子はその拳を余裕を持ってかわす。

 ジグザグに動いて撹乱し、的を絞らせない。


「まずは一発!」


 ざくりとこてでEの部分を削る。

 しかし、体が大きいだけに、文字も大きいため一撃では削れない。

 ゴーレムは弱点を攻撃されて激昂し、めちゃくちゃに暴れ始めた。


「グゴオオオオオォォ!」

「……っ! 危なっ!」


 乱雑に地面を殴って地面を揺らす。

 振動に足を取られて転ばないように回避を取りつつ、

柚子は2発目を入れるチャンスをうかがう。

 今度はぐるぐるとゴーレムの周りを走り回り、相手の足を取る作戦に出た。  


「ゴ? ゴォ?」


 頭をぐるぐると動かし、柚子を追いかけようとするゴーレムだが、

体が動きについていけない。


「ゴオオォ!?」


 柚子の狙い通りに、足を縺れさせたゴーレムがどしんと音を立てて

その場で派手に店頭する。またとないチャンスが訪れた。


「もらったあぁぁぁぁ!!!」


 こてを構えて勢いよく跳躍すると、ゴーレムの体へと降り立ち、

その凶刃をEに向かって振り下ろす。

 

 ――行けるっ!


「柚子!! 危ないにゃあ!!」

「え?」


 何やら長い紐のようなものが柚子の体へと巻き付いて、その体を持ち上げる。


「ココノオ!?」


 どうやらココノオの尾だったようだ。

 柚子はゴーレムから引き離され、ココノオの隣に下ろされる。


「ちょっと、なんで止めるの?

 ……というかココノオ、なんか大きくなってない?」

「こっちが本来の姿なんだけど」


 普通の猫サイズだったココノオが柚子を乗せれるほど大きな姿へと変化していた。猫というより、白い虎のようだ。

 赤い神秘的な文様が体に浮かび、9つの尾が揺らめく。

 これがココノオの……神獣ココノオネコマタノカミの真の姿である。


「止めないと、今頃柚子はああなってたんだよ?」


 ココノオがふいと視線を柚子の後ろへ向ける。

 釣られて、柚子も視線の先を追った。


「ゴ、ぉオオ?」


 ゴーレムの体が真ん中からずるりとずれる。

 そのまま右と左に分かれた体はどしゃりと音を立てて地面に転がった。

 柚子とココノオの目の前で、恐ろしく頑丈なはずのゴーレムが、

真っ二つに分かれて活動を停止した。

 ゴーレムは何が起こったのかわからないという顔をしていた。

 柚子にも何が起こったのか理解出来ない。

 唯一理解できたのはココノオだ。


「主……いや元主よ。なぜここに?」


 ココノオの言葉に柚子はまさかと体を強張らせる。

 そんな柚子をあざ笑うかのように、その人物は声を発した。


「あはは。ごめんごめん。ボスの配置をミスしちゃってね」


 緊迫した雰囲気の中、場違いなほど明るい声が響く。

 真っ二つになったゴーレムの残骸を素通りし現れたのは、もっとも会いたくなかった人物。


「リヒター……先生」


 リヒター・マインラート。

 柚子たち新入生を迷宮に陥れた性悪教師の登場だった。

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