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4つめ:柚子印超強力ゼリーほいほい

小説を閲覧いただきありがとうございます。

感想、評価、ブクマ等いただけましたら、作者は大変喜びます。

どうぞよろしくお願いします。

 朝からドアさんを乱暴に開け閉めする音が聞こえる。

 時刻は9:00。迷宮の滞在日数は1日目を経過していた。

 夜通し続けられた騒音は一旦止まった。

 扉さんの正面がゼリーたちの遺品で埋まっていたので、

柚子はそれを回収してから眠りについたのである。

 仮眠と食事を済ませた柚子は遺品もとい戦利品を仕分けた。

 大量にある肉片の中で魅力が高いものを選別し、ドアさんへと塗りたくる。

 柚子にとっての音ゲー、ゼリーたちにとっての地獄の宴が今日も始まった。


「Lv10くらいは目指したいよねー。

 今後の学園生活を出来るだけ楽に過ごすためにもっ!」


 もはや片手でこなせるほど上達した柚子は、右手でドアさんをバンバンしながら、左手で生徒手帳を操作して、昨日からの成果を確認していた。


-----------------------------

天意高等専門学校 学生証

学生番号:0333

学年:新入生

氏名:物集柚子もずめ ゆず

LV:5

職業:《学生》《アイテムユーザー》

力 :普通

敏捷:素早い

体力:普通

魔力:高い

知識:狭く深い

精神:ずぶとい

運 :嫉妬するほどある

異能:《引き出す5》《制限解除:道具3》《成長:道具3》

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 ステータスに大きな変動はない。

 敏捷が「そこそこ」から「素早い」に変化していたが、やはりこの

アバウトな説明では、どのくらい強くなったのかさっぱり分からなかった。

 少なくともLvはLv1からLv5にまで上昇している。

自分が得られる経験値が低いことを考えると、頑張った方だと柚子は思う。

 スキルの方は順調に育っていた。このままぐんぐん育ってほしいものである。


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《引き出す5》

 道具に眠る潜在能力を5つまで引き出す。

 ランク:アンコモンまでのアイテムの潜在能力を引き出せる。


《制限解除:道具3》

 レベルによる道具の使用制限を解除する。

 性別による道具の使用制限を解除する。


《成長:道具3》

 道具に経験値が割り振られるようになる。自身の取得経験値が減少する。

 Lvが上がると効果が上昇する。

-----------------------------


 そして忘れてはいけない扉さんのステータスだ。

 あれだけ倒したのだから、順調にLvUPしてるに違いない。

 もしかすると柚子よりも上がっているかも……。


-----------------------------

名前:ダンジョンドア(レジェンド)

LV:50

耐久:攻撃なんて無駄ですよ?

力 :みなぎるドア力

敏捷:おっと、それは残像だ

必殺技:聖扉ドアバーン(条件:フルコンボで敵を攻撃する)

潜在:破壊不可、敵侵入不可、攻撃速度上昇、複数回攻撃、コンボプラス

   フルコンボ達成だばん!、衝撃波、???

-----------------------------


 Lv50である。

 もしかしなくても軽く柚子のレベルを超えているし、

チートスキルでももらったの? と聞きたいほどの成長具合だった。

 経験値のほとんどをアイテムに吸い取られているのでは、と疑いたくなる。

 

「く、分かってはいたけど、まさかここまでとは……」


 そして、なんと潜在能力まで開花させているではないか。

 どうやら、潜在能力はレベルが上がることでも解放されるらしい。


「私の『引き出す』は本来解放されるレベルを無視して、

好きな時に潜在能力を解放するスキルなのか」


 なるほどーと柚子は頷いた。頷きながら右手はドアバン真っ最中。

 武器の熟練度があるなら、ドアが一番使い込んでいると言っても過言ではない

くらいの扉さばきである。


「特定のドアバンのあと、バンバババのタイミングで扉を打ち付けると、

放つことが出来る技……音ゲーの次は格ゲーかい!」


 ……いや、やるけどね。

 衝撃波の説明に突っ込みと文句を入れるが、使えるものは使う。

 さっそく適当にドアバンをして、バンバババのタイミングで

ドアさんを豪快にバーンと開いた。

 開かれたドアさんは迷宮の壁にぶち当たる。

 破壊不可が付いていなかったら、扉も壁も間違いなく粉々になっていただろう。

 荒れ狂うエネルギーが衝撃波となり、迷宮を駆け抜けていく。

 扉の近くにいたゼリーは当然即死。ドアさんから離れていて安全圏内にいたと

思われるゼリーもドアさんからの衝撃波から逃れられず、ぐちゃりと潰され死亡した。


「……」


 あまりの威力、そして攻撃範囲の広さに柚子は言葉を失う。

 たった一度衝撃波を放っただけで、あれだけいたゼリーは全滅。

 さらに遠くのほうにまで被害が広がっている。


「まー、とりあえずあれだ。作戦の変更が必要ってことだね」


 ゆっくりとドアさんを閉めながら柚子はそう結論付けた。

 安全地帯に戻った柚子は、ゼリーからのドロップ品を全て床に広げた。

 ゼリーの核が5個ほど転がり、あとはゼリーの肉片の山が築かれる。

 核はレアアイテムっぽい感じがしたので、使わないでとっておく。

 500匹くらいは討伐しただろうか?

 それでドロップした核はたったの5個。

 勿体なくて、潜在能力を引き出すのさえ躊躇してしまう。


「うわー、ゼリーの肉片だけで、ゼリーが5匹分になるんじゃないか、これ」


 どうしたものかと使い道を考える。


「とりあえず、引き出せるだけ引き出しとこうかな。

 スキルのLv上げにもなるし」


 ただ考えているだけというのももったいないので、平行してスキルLvも

上げておくことにした。地道な努力も惜しまない柚子である。

 数時間後、ゼリーの肉片がたんまり詰まったバケツが8個も出来上がった。

 その全てが柚子の手によって、才能を開花させられている。

 

 光り輝くゼリーの肉片。


 王者の貫録を持つゼリーの肉片。


 深窓の令嬢のような儚さをもったゼリーの肉片。


 純粋無垢な天使のようなゼリーの肉片。


 なんかもうゼリーの肉片ってなんだっけ? と混乱しそうだった。

 そんなゼリーの肉片の山を見て、柚子はどうしようかなーと考える。

 

「やっぱり多く引き寄せるためには、多くの餌が必要だと思う」


 そこから柚子はある作戦を考案した。

 大量のゼリーの肉片を使って、迷宮全体から敵を誘い出す。

 名付けて『ほいほいバーン作戦』。


「そうと決まれば、さっそく倉庫から塗装に使う道具を取って来ようっと!」


 倉庫から、塗装に使うこてを引っ張り出してきた柚子は、

いくつかの潜在能力を引き出して、使い勝手を向上させたあと、

ゼリーの肉片がたんまり入っているバケツを抱えて、迷宮の奥を目指した。


***


「ぺたぺたぺったーぺったらほい」


 なんとも楽しげで意味不明な歌声が響く。もちろん声の主は柚子である。

 片手にぷるぷるした液体が入ったバケツを持ち、もう片方の手には

こてが握られていた。

 セメントなんかを壁に塗る時に使うこて、である。

 柚子はこてでたっぷりと液体をすくうと、迷宮の壁にべっとりと塗りたくる。

 パンにジャムを塗るようにぺたぺたと容赦なく迷宮の壁を汚していく。


 ドアさんの範囲攻撃「衝撃波」が強すぎて、おびき寄せるゼリーの数が足りない

というアクシデントに見舞われた柚子。

 しかし、よくよく考えて見れば、ゼリーが足りないなら

さらに引き寄せればいい話だった。

 幸い、おびき寄せるための肉片は大量にドロップしている。

 これを掻き集めて魅力が高い肉片を厳選し、集めた肉片を混ぜ合わせれば、

「柚子印超強力ゼリーほいほい」の完成である。


 現在、柚子印超強力ゼリーほいほいを迷宮の1階部分の壁

全てに塗っている最中だ。

 柚子印超強力ゼリーほいほいの力は凄まじく、

既に多くのゼリーを引き寄せていた。

 現に今も、柚子の背後へふらふらとゼリーが近づいている。


「ぷるぷるるん!」

「はいはい、まだ開店準備中です。お帰り下さいねー」


 べしっ。


「ぷきゅうぅぅ……」


 適当にこてを振って、ゼリーをあしらう。

 Lvが上がったので、ゼリーくらい一撃で倒せるのである。

 もう自分で狩りに行ったほうが早いのではと思う方もいるかもしれない

 実際に早いだろう。

 しかし、今の柚子の頭の中は柚子印超強力ゼリーほいほいを

迷宮の壁全てに塗りたくるという使命でいっぱいだった。

 そう、いつの間にやら手段が目的になっていたのだ。


「ぺったらぺったぺたぺたぺー♪」


 その事に本人は気づくことなく、のんきに鼻歌を歌いながら

順調に作業をこなしている。

 いつの間にか、安全地帯から遠く離れた場所まで来ていた。

 本人は知らないことだが、実は2階へ続く階段付近まで来ている。

 もうお前そのまま2階に進めよと言いたい。


「ぐげげげげぇええ」

「けけけけっ!」

「ぎ、ぎぎぎぎ」


 安全なエリアから離れるに従い、徐々に強いモンスターが現れ始める。

 無防備な柚子にゴブリンが3体迫っていた。

 3体から放たれる殺気に、柚子は億劫そうにモンスターの方を振り向く。


「……はぁ、新しいお客さんですか?」

「「「ぐげぎぎぎぎぎーー!!!」」」


 殺意を持ったモンスターとまとも対面するのは初めてのはずだが、

柚子はとまどうことなく、逆にゴブリンを睨み返す。

 彼女は今、冷静ではなかった。

 ご機嫌で壁塗り作業をしていたところに、次から次へと闖入者が現れるのでキレていたのだ。


「ぐげえええええ!!」

「困りますねぇ」


 ――ザシュ!


 素早く振られたこての切っ先がゴブリンの首をとらえ、

まるで刃物のように、肉に深く刺さり込み血管ごと切り裂く。

 血飛沫を上げて、ゴブリンの1体が絶命した。


「ぎぃーーーーっ!!」

「「ぎょけげ!?」」


 仲間があっさりとやられたのを見て、残りの2体の身体が硬直する。

 恐怖からその場で動けなくなってしまったのだ。

 柚子は血の付いたこてを振るい、血を落とすと、

にたりとした恐怖の笑みをゴブリンたちに向ける。


「うちはー、ゼリー専門のアトラクションなんですよー」


 こてを構えながら、じりじりとゴブリンに詰め寄る。

 恐怖が限界に達したのか、1体のゴブリンが奇声を発して柚子に突っ込む。


「ゴブリンは、対象外ですので」


 冷静さを失い、正面に突っ込んでくるだけのゴブリンを避けるのは容易い。

 ひらりと身体を軽く反らしてよければ、ゴブリンはゼリー塗れの壁に衝突。

 それを見て、さらに柚子の機嫌は降下した。


「……おい、そこは塗り立てだ」

「ぎゃいん!!」


 怒りにまかせて、こてを壁に張り付いたゴブリンに向かって投機する。

 こて先がゴブリンの頭部に深く刺さり貫通し、ゴブリンは死亡した。


「ぎ、ぎぎぎぎぎーーーー!!」


 最後の1体は足をもつれさせながら、その場から逃走した。

 無理もない。仲間2体があっさりと殺されたのだから。

 幸いなことに、柚子の追撃はなかった。

 怒りが引いたのか、ゴブリンの死体が消えてドロップアイテムが現れたのを見て、やれやれと肩を竦めた。


「全くもう。ここの部分塗り直しなんだけど……あーあ」


 壁に突き刺さったこてを引っこ抜いて、バケツに突っ込むと

また壁に向かって地味な塗装作業を開始する。


「それにしても……さっきはなんかカッとなっちゃったなぁ。

 うーん、やっぱりこれの潜在能力が原因かなー」


 これというのは、こてのことで、もちろん潜在能力を開花させていた。


-----------------------------

名前:左官こて(コモン)

LV:5

攻撃:殺傷能力抜群

敏捷:仕事が早い

耐久:80

潜在:熟練度上昇、作業効率UP、気分高揚、一撃必殺、???

-----------------------------


 「熟練度上昇」、「作業効率UP」が付いたのを見て喜び、

そこで止めて置けばよかったのだが、欲に駆られて引き出した結果がこれである。

 先ほどのブチ切れ状態は気分高揚が原因だ。

 流石に「一撃必殺」が出た時点でこれ以上の引き出しは断念したが、

すでに手遅れ感が否めない。


「「一撃必殺」が付いた瞬間、攻撃が「武器になるかも」から「殺傷能力抜群」に

変化するんだもんなぁ。私は普通の工具のこてが欲しいのであって、

こんな凶器にならなくても良かったんだよねぇ」


 とはいえ、このこてを使えば作業は非常にはかどる。

 柚子は多少(といえるのか?)のデメリットは目を瞑ることにした。


「よし、全フロア塗装作業完了! いやーやりましたなぁー」


 生徒手帳でMAPを確認しつつ、ついに全部のフロアに足を踏み入れ、

壁に塗装する作業が完了した。

 柚子は嬉しそうに微笑む。1つの作業をやり遂げた達成感で

胸がいっぱいの様子だ。

 そんな彼女へ生徒手帳からありがたいお言葉アナウンスが。


『スキル取得条件を満たしました。スキル:《私物化》を取得します。

 初心者の迷宮1階部分の《私物化》条件を満たしました。

 制限付きで初心者の迷宮1階を自由にカスタマイズできます』


「…………はい?」

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