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2つめ:日光紳士と皮のトランク

小説を閲覧いただきありがとうございます。

感想、評価、ブクマ等いただけましたら、作者は大変喜びます。

どうぞよろしくお願いします。

「あー……私ここで永住してもいいかもしれない。

 うふふ、うふふふふふふふ」


 倉庫に入った柚子だったが、今は倉庫の床に大の字になって寝転がっていた。

 不審なことこの上ない。あと床汚いから早く起きなさいね。

 柚子は、極上のスイーツを堪能する女子高生のような笑みを称えている。


「初期の仮面ランナーのラッキーカード、傷はないし色あせもしてないし、

こんな最高の状態でお目にかかれるなんて。

 日光紳士の特大ビニールフィギュアは未開封の状態だー。

 グリケのレトロポスターにホーロー看板もある!!

 アンティーク家具や食器がごろごろと出てくるとか信じられない」


 知らない人から見れば、倉庫の中はゴミだらけだった。

 よくもまぁこんなに集めたな、とか、なんでとってあるの!?

と呆れかえるに違いない。

 古臭い家具に食器、古めかしいポスターにカードの山、山、山脈。

 昔の看板に旧式の電話機、牛乳の空き瓶などなど。

 けれど、育ての親である祖母が営む骨董店で暮らしていた柚子にとっては

どれもこれもが宝の山、金銀財宝に見えるのだ。

 コレクターとして収集している品を眺めたり、

そうじゃない品も売ったらいくらになるだろうかと頭の中で計算すると、

その金額に笑いが止まらない。


「うーん、でもこんなお宝を使うだなんて罰当たりだよねー。

 あーどうしよう。困ったなー。宝はあるけど迷宮攻略に使えそうな物が無いわー」


 でれでれと緩み切った顔はちっとも困ってるようには見えないが、

一応柚子なりに困っていた。一応。

 それからさらに2時間(体感時間で)ほど大の字でぐへへへとにやけたあと、

流石に落ち着いたのか、身体を起こす。ついでに倉庫の中をぐるっと見渡す。


「冗談はこの辺にしといて。

 とりあえず……使えそうな道具を入れるカバンが欲しい」


 などと言いつつ、物をかき分けて物色してみると、手ごろな大きさの革製トランクを発見した。

 年季が入っていて、使い古された感じがたまらない。

 探索に支障にならない程度の大きさの(出来るだけ物が詰めれそうなの)を選んで手に取ってみる。

 すると、どこからか音声が聞こえてきた。


『革のトランクを入手しました。データを表示させます。

 またこちらの情報は生徒手帳のアーカイブでいつでも確認が出来ます』


 どうやら生徒手帳から聞こえてきたようだ。

 柚子は胸ポケットから生徒手帳を取り出し、モニターを呼び出した。


-----------------------------

名前:皮のトランク(コモン)

LV:1

容量:見た目より多く入りそう?

耐久:100

重さ:普通

潜在:???

-----------------------------


「ま、またしてもアバウト説明文……勘弁してよ」


 柚子はまたもがっくりと項垂れるが、「見た目より多く入るならいいかな」と軽くスルーした。柔軟な思考、とても素晴らしい適応力である。


「うん? この潜在の???って何だろ? あ、もしかして」


 首を傾げつつ、ふと何かを思いついたのか、皮のトランクに触れる。


「皮のトランクを……『引き出す』」


 スキル発動と共に柚子の手からオレンジ色の光――魔力の波動が放出される。

 光は皮のトランクに纏わりついて、しばらくすると消失した。

 特に外見上は変化はなく、柚子は首を傾げる。

 あれ失敗したかなーと思いつつ、生徒手帳で改めて皮のトランクのステータスを確認して見た。


-----------------------------

名前:皮のトランク(コモン)

LV:1

容量:見た目より多く入る

耐久:100

重さ:普通

潜在:拡張、???

-----------------------------


 成功だ! 皮のトランクに秘められていた能力を解放することが出来た。

 柚子はきゃっほーと雄叫びを上げる。


「なるほど、潜在能力の「拡張」が隠れていたから「見た目より多く入る?」

って疑問形になってたんだ。へぇー。

 んん? また???ってのが出てるなぁ。

 ということは、だ。潜在能力は1つのアイテムに1つって訳じゃないのね。

 流石にあと何個あるかまでは分からないか」


 調子に乗った柚子は2つ目の潜在能力も解放しようと、スキルを行使する。

 しかし、魔力を纏った手を近づけたところで、

ばちんと大きな音がして、柚子のスキルが弾かれてしまった。


「うきゃあ!?」


 柚子は悲鳴を上げると、手を引っ込める。


『警告! 2つ目の潜在能力を解放するには、「引き出す2」が必要です』


「あいたたー。……そっか、何回もぽんぽん引き出せるわけじゃないのか。

 よーし、じゃあ使えそうなアイテムに片っ端から『引き出す』を使おう。

 何回も使えば、スキルLvが上がるはず。んで、Lvが上がったら、

2つめの潜在能力を引き出そう。これを繰り返せばかなり戦力が整うと見たぞ。

 感だけど! 間違いじゃないよね!」


 流石は狭く深い程度の知識を持つ柚子。

 スキルの仕様をすんなり理解すると、すぐさま次の作業に着手することにした。

 そこからは黙々と単調な作業が続く。

 使えそうなアイテムを選別し、潜在能力を引き出す。

 中にはマイナスの効果を持つ潜在能力もあったので、

それが発現したアイテムは除外した。

 潜在能力を消す手段があるかもしれない。

 もしかしたら、今後そのようなスキルを覚えるのかもしれないが、今はない。


「うう、さらば……日光紳士のフィギュア2体目……。

 一番保存状態のいい奴は絶対に無くさないから、ごめんね。」


 そう言って柚子は泣く泣く貴重な骨董品を手放した。

 容量スペースを無駄にしないためにも仕方ない処置だった。


 『引き出す』のレベルが5まであがった。

 柚子の狙い通り、使い続けるとスキルLvは上がるようである。

 この調子でどんどん引き出していきたいところだが、

マイナス効果が発現することも考え、闇雲に引き出すのは控えることにする。

 どんな潜在能力が出てくるか、完全にランダムだ。

 4つ目まで使える潜在能力が出たからと言って、5つめで不要な潜在能力が

出たら、今までの苦労が水の泡になってしまう。


「無欲……無欲……。あ、あと1つだけなら……。

 っ!! ダメダメ、日光紳士の死を無駄にするな! 私!!」 


 ダメにしてしまった紳士の名を口に出して、欲求を封じ込めながら、

柚子は淡々と作業をこなしていった。

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