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月の明かりのおかげで、少しずつ目が慣れてくる。僕の右にはアンナが、左にはブースカットがいる。僕の正面には、やはり同じように手を繋いで座っているヒッチの影だけが見えた。僕の頭の中を、アンバスカルの物語が過ぎる。
正面のヒッチの口が動いて見える。けれど、何と言っているのか分からない。僕は、目を凝らすが、効果がない。だけど体は動かない。
アンナは俯き、ブースカットも下を向いている。二人とも動けないようだ。
その時、僕の、ああ、僕の肩に手が置かれた。横目で、その手を確認できる。月の明かりに、白く輝く手だ。
僕の心臓は、啄木鳥のおもちゃのように、早く、壊れてしまいそうだ。
その手は、僕の左肩を軽く叩くと、次は力を込めて、僕の肩を握った。
「おかしいな」僕の背後から、声が響いた。「風も吹いていないのに、どうしてランプの光が消えるんだ?」
ああ、でも、僕は、その声の持ち主を知っている。ヒッチの声じゃないか。僕は再びアンナを見た。アンナは顔を上げ、僕の背後を見ている。アンナの右手には、僕の正面の人影があり、そのさらに右には、ブースカットが座っている。
正面の口が動く。
「あ・そ・ぼ?」
違う、ヒッチは背後にいるわけだから、今、正面に座っているのは、一体誰なんだ?
「うん、おかしいよ」僕は言った。「だって、そんなはずないじゃないか。僕は、テドさんと、こんなの、有り得ないよ、だって、だって」混乱していて、言葉が上手くでない。
「あ・そ・ぼ?」
僕の目は大きく開き、閉じてくれない。月の明かりが強くなり、正面の影が少しずつ色を帯びてくる。
赤く、
赤く。
僕は、アンバスカルの物語を思い出す。
だから、答えてはいけない。




