表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/16

 僕たちは壁にあった文字についての討論を終えると、城内の探索を続けた。途中にあった階段を登り、今は城の三階に来ている。目の前にはかつては豪華であったろう扉がある。だが、今では傾いている。ブースカットはその扉に手をかけた。

「……て」

「何?」と言おうとした僕の口を、ヒッチが抑えた。そして口に指を一本当てる。

 静かだ。

 否。

「………………」

 心臓が激しく跳ねる。僕はヒッチを見た。ヒッチも僕を見て頷くと、ブースカットに目で合図を送る。僕たちはゆっくりと後退した。扉から離れ、僕たちは固まる。

「風の音?」僕は小声で言った。だがヒッチは首を振る。

「風の音なら、さっきからずっとしている」アンナは首を傾けた。「今のは人の声よ」

 僕は扉の方に視線をやった。ランプの光は届かず、輪郭でさえ見えない。真っ暗だ。僕たちはそれぞれ手に持っていたランプを中央に置くと、そこに輪になって座った。

「人の声のはずがない。きっと獣の咆哮だ」

「そんなはずないわ。人の声よ」

「こんな場所に人がいるはずがない。それに」ヒッチも扉に視線を送った。「もし人がいるのなら、あそこから光が漏れてないとおかしい」

「暗闇が好きなのかも」アンナは俯きながら言った。「人じゃないって考える方が恐いわ。聞こえてきた声は小さいし、何と言ってるのか分からなかったもの。あの部屋に人がいるとは限らない」

「ふん」ブースカットの鼻息は、またかなり弱い。「人じゃなきゃ何だってんだよ」

「とにかく慎重にことに当たろう。まずはあの部屋を調べてみる。いいな?」

 僕は頷いた。

「分かったわ」

「うん」

「そうだな」

 僕はまた違和感を覚える。ヒッチが提案し、僕は頷く。返事は三回。中央にランプは四つ……

「よし、行こう」ヒッチはランプを持つと立ち上がった。

 僕たちも後に続く。右手にアンナを握り、僕の左手は、やはり何も持っていない。僕の前に四つのランプがゆらゆらと揺れている。

 ブースカットが再び扉に手をかけた。だが、ヒッチはそれを抑えると扉に耳を当てる。

「………………」

 ヒッチは唇に再び人差し指を当てると、扉に力をかけた。

 ぎーーーーーっ。

 小さな音だが、それはよく響いた。僕の心臓が激しく打つ。アンナは、恐くないのだろうか、扉の前に立ち、開いた空間を見つめていた。

「誰もいないわ」アンナが言った。「でも、ちょっと待って、あそこ……」

 バタンッ。

 途端、何かが閉まる音が大きく響いた。

「ふんっ」ブースカットの鼻が大きく開く。

 ヒッチは扉を大きく開け、ランプの光を中にかざした。僕たちも慌ててそれに続く。弱い光が室内を照らす。

 僕は、そこが、アンバスカルの城であることが、とても信じられなかった。ランプの光に照らされた内装は、とても整っている。正面には屋根のついたベッド、隣りにはクローゼットの類、机も椅子もある。床には、カーペットさえ残されていた。

 だが誰もいない。

 ヒッチ、ブースカット、アンナが部屋に入り、僕は最後に扉を抜けた。上を見ると、天窓があった。ちょうどまっすぐ先に、丸い月が見えている。もし、誰もランプを持っていなかったとしても、僕たちは充分に室内を観察できるだろう。

 僕は正面を見た。

 !!

 僕の前に影が、四人の頭が、揺れている。

 僕の心臓が大きく跳ねる。「ア、アンナ!」一番後ろにいたアンナが振り返った。「だ、誰だ?」僕の疑問を理解できなかったのか、アンナは首を傾げた。

「ねえ、お兄ちゃん、これ、見て」逆にアンナに手招きされて、僕はアンナに近づいた。僕たちは、再び輪を作ると、中央の床を見た。「この下、きっと私たちに気が付いたんだわ」

 床には、小さな穴が開いていた。

 ブースカットの息を飲む音が聞こえる。ヒッチはすでにランプを床に置き、穴から下を覗いていた。ヒッチは不思議な表情をして、顔をあげた。眉間に皺を寄せている。それから順に穴から下を覗く。

 僕の番は最後だった。穴の中を見ると、最初は何も見えなかった。暗かったのもあるし、焦点があっていないのもあった。しばらく見ていると、輪郭があらわれてくる。部屋の大きさは同じくらいだろう、四角の形が見える。だが、何も置かれていない。ちょうど、穴の真下から少しずれた所に、椅子があった。そこに、暗くてよく分からないが、人が座っているように見える。それは俯いていて、表情はうかがえない。僕は顔をあげた。皆顔がこわばっている。

「人、だよね?」僕は声に出した。誰もすぐには答えない。

「あたしが部屋を覗いたときね」アンナも眉を寄せながら、しゃべりはじめた。「部屋の真ん中から光が見えたの。まっすぐ伸びてて」

「俺も見た」

「けどそれが突然消えて、扉が閉まるような音が響いたから」

「ふん」ブースカットは腕を組む。「俺たち以外の誰かがいるってことだ」

「人、だよね?」僕はもう一度言った。「下の、椅子に座ってるのって」

「座ってるんじゃないかもしれない」ヒッチは頬に手を当てた。「さっきまでは下の階に光があったけど、今はない。考えてみれば分かると思うけど、今、このランプの光は下にまっすぐ伸びてるはずだ。それに声も届いている」

「けど、少しも動かなかったわ」アンナが続ける。「動けないのか……」そこで言葉を止める。

「わっ」

 僕は悲鳴をあげた。突然ランプの光がすべて消えてしまったからだ。辺りが真っ暗になり、僕は、とっさにアンナを探した。すぐに僕はアンナの手の温もりを見つけた。左手も、ブースカットだろうか、僕よりも大きな手を握る。

「何で?」

 誰も答えない。僕は震える体を我慢しながら、右手に力を入れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ