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 アンバスカルの城は美しい。よく手入れがされ、いつでも白く輝いている。おとぎ話に出てくるアンバスカルの城のことだ。もう、ずっと昔の、まだここに人が住んでいた頃の。

 なのに。

 月の光に浮かび上がったアンバスカルの城は、白く輝いていた。

「きれい」アンナが純粋な感嘆をあげる。「幻想的、夢の中みたい」

 僕も同じ感想を抱いた。これまで木々の間に作られた道を歩いてきたのだが、突然それが開けると、白い城が浮かび上がった。白いもやのようにそこに忽然と現れた。

「アンバスカルに城壁はない。もうかなり昔に取り壊されてしまったからな。多くが痛んでしまっているが」テドオアは指を城の正面二階に向けた。「あそこだけは別だ。扉が壊れてしまっていて中に入ることができる」

 ここからははっきりと見えないが、二階正面に扉があるようだ。その前面はテラスになっていて、テラスから階段が、中央の庭を取り囲むように左右から手前に伸びていた。

「俺が案内をするのはここまでにしておこうかな」

「ありがとう、テドさん」ヒッチがお礼をする。「よし、これからがそれじゃあ本番だ。恐いってんならここでテドさんと待っていてもいいが、そんな奴はいないよな」

 僕の右手をアンナが強く握った。僕は大きく頷く。

「あったりめーだ」ブースカットも鼻を鳴らす。「早く行こうぜ」

「あせるなって」ヒッチはバックパックからランプを取り出した。それを、手際よく点ける。今までテドオアだけが少し大きなランプを持っていたのだが、ヒッチのランプによって明かりが分散する。「さあ、行こう」

「気を付けてな」テドオアはランプに照らされて赤くなった顔を不気味に歪めた。

 ヒッチの横にブースカットが並び、僕はアンナとその後ろをついて歩いた。階段に囲まれた円形の空間は、かつては美しい庭だったのだろう。長方形の堀が並んでいる。その間に割れた石畳があり、草が生い茂っていた。その先には大きな扉があるのだが、それは閉まっている。僕は階段を見つめた。向かって左手の階段に僕たちは向かっていた。少しずつカーブを描いていて、二階のテラスへと続いている。ここに人が住んでいたころはさぞ美しかったのだろうが、今、月の光に白く、ヒッチのランプに赤く狭く輝いているその姿は、遠くからは幻想的に見えたが、近くから見ると不気味だ。ところどころがひび割れ、倒れた柱があり、何かの獣の汚物も見える。僕はアンナを見た。けれど、アンナはまっすぐ前を向き、はつらつとして見える。

「さて」二階のテラスにたどり着くと、ヒッチは止まって振り返った。「これからが本番なわけだが」視線を外に向ける。僕もそちらを見ると、遠くにランプの光が一つ見える。テドオアがそこに立っているのだ。「テドさんはあそこに一人で立っている。それがどういう意味が分かるか?」

 僕は首を振った。

「一人でも恐がる必要なんてないのよ」アンナが言った。「あたしはみんなと行くより、一人で残される方が恐いもの」

「つまりそういうことだね。テドさんは知っているんだよ、本当にここが危険なのだとしたら、俺たちが今こんなことをできているはずがない。だから俺たちは、安心してこの城の内部を調べることができるわけだ」

 ヒッチの持っているランプは小刻みに震えている。僕はランプの先にあるヒッチの顔を見た。目は大きく開かれている。さらに僕はヒッチの背後にはる扉を見た。半分壊れてしまっているようで、少しだけ開いている。けれど、その先は真っ黒だ。月の光が届いていないのだろう。

 ヒッチはそちらを向くと、歩きだした。そして、その扉の間から中を覗く。ブースカットがヒッチの上から同じように中を見た。そこで僕とアンナは、ヒッチの下から、しゃがみこむように中を見た。

 やはり暗くてよく見えない。ランプの光がわずかに中を照らしているが、固そうな床が黒く見えているだけだ。

 扉の間が少しずつ大きくなる。どうやらブースカットが扉を広げたようだ。ぎーっという音を発しながら、わずかに広くなった。が、それは途中で止まってしまう。それ以上は押しても引いても動かなくなってしまった。

「これだけの隙間があれば入れる、よな?」なぜかヒッチが疑問系でそう言うと、ランプをかざして、その間に体を滑り込ませた。

 一瞬にして、辺りの光が減る。ヒッチの体に隠れてしまい、ランプの光が届かなくなったからだ。ブースカットも僕もアンナも、慌てて後に続いた。


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