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「お兄ちゃん!」アンナの声が遠くに響く。「もう、お兄ちゃんってばぁ!」

 僕はうっすらと目を開けた。アンナの顔が目の前にある。僕の目を睨むように見ているようだ。

「早く起きろよ、もう!」

 三度目の声で僕の頭はようやく動き出した。それと同時に僕は上半身を起した。

「もう時間?」

「過ぎてるよぅ。あたしなんて、もうぱっちりなんだから」

 僕は一度伸びをすると、ベッドの横を見た。小さなバックパックが置かれている。眠る前に用意した僕とアンナの荷物だ。といってもたいしたものは入っていない。

「よし、行こうか」僕はベッドから足を下ろすと靴を履いた。それからアンナを見ると、アンナはにっこり笑った。

 立ち上がり、バックパックを背負うと、僕はアンナの手を握った。それから窓に近づき、外を見た。真っ暗だ。窓を開けると、涼しい風が僕とアンナの間を抜けた。まだ雨季を過ぎたところだ。さすがに夜になると気温はぐっと下がる。

 僕は窓の枠によじ登ると、外に降り立った。振り返り、アンナが窓を登るのを手伝うと、そこから抱っこをする要領でアンナを地面に降ろした。そして窓を閉める。

「えへへ」アンナは俯き加減で僕を見上げた。「楽しみだね。こんなにどきどきするの久しぶり。お昼寝も少ししかできなかったのに、全然眠たくないんだもん」

「そうだね」僕は相槌を打った。さっきまで僕はずっと眠っていたのだけど、アンナはいつ頃起きたのだろうか。「アンバスカルの城なんて、いつも遠くから見てただけだったし。中はどうなってるんだろう」

 時折の家から漏れる光で、僕たちは道を確かめながら広場まで急いだ。毎日通っている道だ、きっと真っ暗で何も見えなかったとしても、間違えることはないだろう。それに、僕は空を見上げる、空には円形の月が浮かんでいる。しばらく歩いていれば、目も慣れてきて、建物の輪郭が浮かび上がって見える。

 空けた広場の中央に、馬とそこに乗った人の影がそびえる。騎兵の像だ。その脇に人影が見えている。

「待って、お兄ちゃん」アンナが僕の手を強く握った。「おかしいわ。影が三つ見えるもの」

 アンナの言うとおり、そこには三人の人影が見えていた。ブースカットとヒッチと、それにもう一人、ブースカットより一回り以上大きな人影だ。三人はこちらに気がつくと、一番背の低いヒッチが手を振った。

 僕は一度アンナと目を合わせると、大丈夫なのだろうと判断し、像の側に向かった。

「テドオアさん」僕は驚いた声をあげた。「どうして、ここに?」

 テドオアは、ヒッチの隣りの家の、僕たちより一回り以上歳が上の人だ。

「こんな面白い話が、俺の所に流れないはずがないだろう」テドオアは、右手をヒッチの頭に乗せた。「といってもじゃまする気はないから安心してくれよ。こいつに道案内を頼まれたんだ。アンバスカルの城まで迷うほど道は複雑じゃないけど、まあ、それでもまっすぐじゃあない。この中で、一人でアンバスカルの城まで行ったことのある奴はいるかい?」

 誰も声をあげない。

「つまり、そういうことさ」人差し指を口に当てた。「もちろん、秘密は守るよ」

 僕は頷く。

「テドさんには、俺から頼んだんだ」ヒッチが頭に乗せられた手をどかしながら言った。「俺たちだけで城に行ってもいいけど、そこはメインじゃないから。今日のメインは城内」

「おう、さっさと行こうぜ、ふん」鼻を鳴らすと、ブースカットは力こぶしを握った。「お前が来るのが遅かったから、イライラしてたんだ」

「お兄ちゃんがなかなか起きないから」僕はアンナの口元を抑えた。

 ブースカットはもう一度鼻を鳴らした。

「まあまあ、それでは行こうではないか」ブースカットの背中と僕の背中を軽く叩くと、テドオアは歩き始めた。「月が俺たちを歓迎している。ほら、ここからまっすぐに、アンバスカルの尖塔が見えるだろ」

 遠く、木々の向こうに白い三角が浮かんで見える。月の光に輝いているようだ。僕はアンナの手をぎゅっと握ると、一緒に歩きだした。

 背後からの月の光が、僕たちの影を作り出している。


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