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 雨季が終わり、今年も本格的な夏が始まろうとしている。一日の中で最も気温が高くなる二時ごろ、僕たちはいつものように広場にいた。騎兵の像が中央にあり、その台座に僕は座っていた。北側だ。南側にある太陽の光を防いでくれている。それでも暑い。

 僕の右に、アンナが座っている。僕の一つ下の妹だ。彼女は群れからはぐれた狼のように口を開け、舌を出していた。よほど暑いのだろうと思うと、なぜか僕は涼しく感じた。少し僕の体温が上がったようだ。

 正面にはブースカットが立っている。腕を組み、僕を見下ろしている。首から上が日光に晒されているが、それを遮ろうとはしていない。彼の肌はよく焼けている。ようやく雨季が終わったところだというのに、早いものだ。僕たちの中で一番活発で、腕っ節も強い。頼れるリーダーとも言えなくないけど、残念だけどリーダーて柄じゃない。リーダーらしいといえば、ブースカットの隣りに、やはり同じように立っているヒッチの方が向いている。ブースカットより頭一つ背の低い彼は、頭を少し下げるだけで太陽の光を避けることができたし、実際そうしている。この暑いのに何故か右手をポケットにつっこみ、もう一方を頬に当てていた。おなじみのポーズだ。

 さて、今回リーダーが提案したのは、

「肝試し」

 夏の鎮魂祭で、同じ年代の子たちを集めて肝試しをやろうというのだ。で、驚かす役側を僕たちでやろうというわけだ。

「いや、実際驚かす役なんて必要ないさ。何もしなくたって、肝をつぶす奴ばかりに違いない。俺が考えるに、絶対成功する。けどさ、大人を呼んじゃいけない。どうせ理由をつけて止めさせようとするだけだからな、あいつらは」

「でもさ、どこでやるの?」

「そんなの決まってるじゃないか」ヒッチは頬に当てていた指を一本まっすぐ立て、背後を指した。「アンバスカルの城さ」

「えええ!?」

「あそこは昼間から薄暗い、最高の場所だろ?」

「だけどアンバスカルの城に入るとさ、あれだろ?」

「あのなあ、あんなの間に受けてるの? どう考えたってさ、あれ、大人たちが子供をあの場所に近づけないようにするための作戦じゃないか」

「けどさ」

「それを大人たちも忘れてるんだよ」

 アンナは僕の手を握った。ひんやりと冷たい。少し震えているようだ。だから僕はもう少し抵抗してみた。

「だけど、あそこに行ったら最期、戻ってこられないんだろ?」

「お前、誰か戻ってこなかった知り合い知ってる?」

「……ヒューイさん」

「俺に言わせれば、だ。この町から人がいなくなったらすべてアンバスカルの城のせいにされている、その方が危険だ。ヒューイさんは前々からこんな田舎出て行きたいって言っていたからね。さっさと見切りをつけただけさ」ヒッチは再び左手を頬に当てた。「他にもたくさん都に行った人たちがいる。それだけじゃない。夜盗や獣に襲われた人もいるだろう。けど、アンバスカルの城に行って、戻ってこなかった人を俺は知らない。そんなの迷信さ」

 僕は黙った。確かにその通りだ。けれどアンナはまだ僕の手を握っている。

「だったら、俺たちが一応安全だということを証明すればいい」言って、ヒッチは右を向きブースカットを見た。そしてお互いににやりと笑う。「軽く下見をしてこようじゃないかってな」

「えええ!?」再び僕は素っ頓狂な声をあげた。

「今夜決行しようってブースと話してたんだ。もちろんお前も来るだろ?」

 僕は隣りのアンナを見た。僕を見上げるように見ている。その目は不安そうに震えていたが、僕を握っていた手は少しだけ温かくなっている。怖がっているようだが、興味もあるようだ。ここで僕が首を横に振ったら、後で臆病と言われるだろうか。

「今夜って、何時ごろ?」

「日が沈んでからで充分だろうけど、その時間だと抜け出せないだろ、お前。だから、日が変わる頃に抜け出してきて出発しよう。今から昼寝をたっぷりとっておけば目もさえてるだろうし。どうする?」

「そんなの、行かないわけにいかないじゃないか」

「大丈夫だよな?」

「うん!」

 僕の隣りでアンナは元気よく答えた。


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