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後日談、そこから導かれるアンバスカルの話

「アンナ、起きなさい、もうお昼よ!」

 怒っているようで、それでいて優しい声が聞こえる。

「ううう、まだ眠たいのぉ」

 もう、というため息と同時に、布団が剥ぎ取られる。ママが立っていた。頬を膨らませている。

「いくら夜中に遊んでたからって、いつまで寝てるのよ。さっさと起きなさい!」

「だぁって」目をこすりながらあたしは上半身を起した。「て、あれ? なんでママ知ってるの?」

「丸分かりよ、そんなの」ママの手があたしの頭に乗っかる。「昨日突然アンバスカルの話をしたかと思うと、テドオアさんのところに行くんだもの。すぐにテドオアさんのところに行って問い詰めてやったわよ。まだまだ彼も若いわね。白状するのに大して時間かからなかったわ」

「ええ、でも」

「もちろん許可出してあげたわよ。脅かすんなら徹底的にやりなさいってね」

「だってお兄ちゃんが」

「もう」ママはため息をすると、あたしを引っ張りあげた。「ちょっとこちらにいらっしゃい」そう言うと、まだ目をこすっているあたしを、半ば強引に歩かせる。

 部屋を出て、すぐに隣りの部屋に入る。あたしの部屋と同じくらいの大きさの部屋。一通りの家具は揃っているが、生活感が失われてしまっている。あたしの正面に、観音開きの、それは、ある。

「ほら、座って」

 あたしは言われたとおり、それの前に座った。あたしの前には、肖像画が飾られている。あたしの同じくらいの歳の、あたしとよく似た男の子の絵だ。

「ちゃんと手を合わせなさい。お兄ちゃんはもういないのよ」

 あたしは目を瞑り、祈る。

 やっぱり、そうなのだ。お兄ちゃんは初めから存在しなかった。けれど、存在していたと考えないと、恐ろしくて、あたしには耐えられなかった、それだけだ。

 あたしは、自分の中に作り出したお兄ちゃんと対話をしていた。だから、城から出たとき、あたしと、ヒッチと、ブースカットの三人しかいなかった。あたしは右手にランプを持ち、左手にもやはりランプを持っていた。用意されたランプは四つだ。ヒッチはあらかじめ四つのランプを用意していて、城に入ったとき、すべてが必要だった。

 ああ、

 あたしたちは四人で城に入った。

 そして、

 途中で一人消えてしまったのだ。

 王子の部屋で、

 王子に話しかけられ、

 連れて行かれてしまったのだ。

 もうそれが、誰かも分からない。

 ただそれが事実だということに、ヒッチとブースカットは逃げ出した。

 あたしは、

 ただ、涙を流した。


 こちらのサイトにそっと小説を持ってきました。夏なので、ホラー系のものです。楽しんでいただけたら幸いです。

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