表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/16

 部屋の外は、今まで以上に暗く感じる。僕たちが持つランプの力なんて、全然たいしたことがない。僕たちの周囲少しと、足元でさえ、はっきりと見ることができない。

 僕は、自分たちが、どこをどう通ってここに来たのか、よく覚えていないのだけど、ヒッチは違うようだ。的確に躊躇することなく進んでいる。

「ねえ、アンナ」僕は隣りを歩くアンナに、小さく声をかけた。「今の部屋、何か変だったよね。何がと言われると、難しいけど。あそこに入ってから、アンバスカルの城が変わってしまったみたいで」

「お兄ちゃん、何言ってるの?」アンナは眉を寄せて、僕を見た。「あたしはなんだか興ざめって感じなんだけど。もうちょっと濃くてもいいと思わない?」

「だってさ、あの部屋に入る前、僕はランプを持ってなかったんだよ」僕は左手を前に挙げた。

 アンナはすぐに答えなかった。けれど、ややして小さく呟く。「そうかしら?」

 僕はアンナの疑問が理解できず、前を見た。階下に向かう階段が、前に迫っている。ヒッチとブースカットは、そこから下を覗いているようだが、僕の位置からは何も見えない。

「こっちに来てくれ」ヒッチが屈みこんだまま、僕を手招きした。

 僕はヒッチの近くに行き、屈みこんだ。そこから下の階を覗くが、ほとんど暗くて見えない。が、しばらく見ていると、真っ暗ではないことに気が付く。

「分かるか?」ヒッチの質問に、僕は頷いて答えた。

「誰か、いる?」

「光に変化がない。止まっているのか、あるいは」

「自然の光なんじゃないかしら」アンナが続けた。「あたしたちが入ってきた扉が、開いてるんじゃない? 角度的に、ちょうどこの階段の正面だったし」

「そうだな、俺もそれを考えてた」

「相手はあたしたちのこと知らなかったわけだし」アンナはヒッチを見据えて言う。「きっと、あたしたちを子供だと思わなかったのよ。だから、あの扉をこじ開けて急いで帰ったんだわ」

「ああ」ヒッチは立ち上がると、頬を掻いた。「おそらくそうだろう。よし、早くさっきの部屋の下に行こう」

 早く、とは言ったものの、ヒッチは慎重に歩を進めた。階段は廊下よりも傷みがひどいようで、歩くたびにぎしぎしと音が響く。僕は、なるべく力をかけないように階段を降りた。

 アンナが言ったとおり、僕たちの正面から光が見えた。光と言っても弱々しい月の光だ。正面から、わずかに城内を照らしている。けれど、充分なほどの明るさだ。目は暗闇にかなり慣れてきているようだ。

 僕はアンナの左手を強く握った。

 正面に見えていた月の光を避けるように、僕たちは横へと進んだ。ヒッチが、さきほどの部屋の下にたどり着けるであろう廊下を選んだからだ。三階と二階とでは構造が違うのかもしれないが、僕には分からないことだ。だから僕は、アンナの手をもっと強く握り締めると、何も発せず、ヒッチの後ろに続いた。

「あの部屋だ」

 ヒッチは立ち止まると、前方を指した。離れているが、かすかに扉を見ることができる。その扉はほんの少し開いているようだ。中からはやはり光がない。

「誰もいないようだな、ふん」小さな声で、ブースカットが鼻を鳴らす。

 僕たちは慎重にその扉に近づいた。そしてヒッチが、誰よりも先に扉にたどり着くと、部屋の中を覗いた。

「ああ、確かに誰もいないな」中をランプで照らしながらヒッチは言った。「何もない。あそこの、中央に置かれている椅子以外は」

「おかしいわ」アンナも中を覗く。「上から見た限りでは、あそこに人が座っていたもの。もう逃げちゃったのかしら」

 僕も部屋を覗いた。四角い部屋で、本当に何もない。ただ中央にぽつんと椅子が置かれているだけだ。その椅子の足元に、何かが置かれている。けれど、暗くてそれが何か分からない。もう一度部屋を全体見渡す。部屋の一面を厚手のカーテンが覆っている。その向こうにはもしかしたら窓があるのかもしれないが、月の光はカーテンを通ることはない。

 僕は、そのカーテンが一瞬揺れたのを見逃さなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ