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ランプに光が戻った。誰かが何かをしたわけじゃない。突然だ。たいした明かりじゃないのに、最初は眩しく感じた。僕は床に座り、アンナとブースカットの手を強く握り締めていた。アンナの右手は、ブースカットの左手と握られていた。僕の背後にはヒッチが立っている。
「お兄ちゃん」アンナが心配そうに僕の顔を覗き込む。「すごい顔色だよ。よっぽど暗いのが恐かったんだね」
「ち、違うよ」僕は首を振った。
「あたしは恐かったよ」
「ふん」ブースカットは鼻を鳴らした。
「とにかく、この部屋はよくないな。ベストポイントではあるけれど、ちょっと刺激が強すぎる」ヒッチは片手をポケットに入れ、お決まりのポーズをとった。「憶測だけど、ここがアンバスカルの王子の部屋なのだろう。ベッドやクローゼットは確かにあるが、どれも子供用だ。俺たちくらいの歳だったんだろう」
それでは、今僕が見たのは、王子の霊だったとでもいうのだろうか。そもそも霊なんて。
「それよりも、これからどうすべきか、だ」ヒッチは続ける。「下の階に誰かがいたことは確かだし、俺たちがここにいるのだってもうばれているだろう。すぐにでもここに来てよさそうなものだが、その気配はない」
「あたし、思うのだけど」まだ僕の右手を握ったまま、アンナがその手を挙げた。「あたしたち、とってもまずいものを見てしまったんだと。昨日、ママとアンバスカルの話をしたんだけど、その時ママが言ったわ。霊よりも恐ろしいものに連れて行かれる、霊よりも人間の方が恐ろしいって。アンバスカルの城の近づいてはいけない理由って、それだと思うのよ」
「さっきの文字も、連れて行かないでってあった」ブースカットが呟いた。
「人身売買?」
「たぶん、そう……」
「それじゃあ、下の階で?」
「ただ気になるのは、誰もここへ来る気配がないってことかな」
僕は頷いた。
「あたしたちがこれからとる行動は」アンナが僕の背後を見上げながら言う。「出口を探すことか、下で囚われてる子を助けに行くか」
「お、俺たちが?」ブースカットが驚いた声を出した。「人身売買かもしれないってのに、俺たちが下に行くのか?」
「だって、このまま無視して帰れないじゃない」
「そうだな。いざとなれば、窓を割って外に出ればいいけど、下の子が気になる」ヒッチは頬に当てていた指を、ピンと鳴らした。「よし、下に行こう」
ブースカットを見ると、神妙な顔をして、とりあえず頷く。僕は、ブースカット以上に顔を強張らせて、頷いた。アンナは元気よく立ち上がると、真ん中に置かれていたランプを持った。ブースカットも続き、ヒッチもランプを持った。
僕は、中央にまだ一つランプが残されて置かれているのに気がつき、そのランプを左手に持った。そしてアンナの右手を握る。
上を見た。
角度が変わってしまったのか、天窓からは何も見えない、暗い、夜空の闇だけだ。
部屋を出るとき、僕は背後から、声をかけられたような錯覚を受けたが、僕は決して振り返らなかった。




