アンバスカルの城の話
アンバスカルの城の話
昔、アンバスカルの城には、凛々しい王と麗しい王女が住んでいた。国中の者が王と王女を愛していた。王と王女の間にはただ一人、まだ小さな息子がいた。二人に愛されていた息子もまた、心の優しい王子であった。
王も王女も王子もみな民から愛されていて、この平和は長く続くものだと誰もが信じていたのだが、平和の終わりは外から突然にもたらされた。
平和的な外交は、隣国の裏切りにより、一夜にして国のほとんどが失われた。大きな兵力を持たなかったその国は、わずかな兵士をアンバスカルの城に集めることしかできなかった。城下の民だけはアンバスカルの城内に招きいれたが、夜が明ける頃には、それも虚しい抵抗としかならなかった。
城の周りはすでに取り囲まれていて、城が落ちるのは時間の問題であった。
「どうか王様、わたしたちが道を開きます。お逃げくださいませ」
「どうして民を犠牲にできようか。これも余の力が足りなかったのだ」
涙を流した国王は、民の願い虚しく、皆の前で自害した。
ああ、なんと悲しいことであろうか、城内は後を追うもので赤く染まった。
嘆きと悲しみと、痛い叫びの中で、王女は涙を流し、走り、王子の部屋に入った。まだ幼い王子は椅子に座り、じっと王女を見つめる。
「ああ」
わたしの愛しい子よ。
音にならなかった言葉を、王女は叫んだ。
その手にはダガーを持ち、王子の胸と、自らの胸とを刺し、赤く染まった。
隣国の兵士が城内に入ったとき、もはや生きているものはいなかった。




