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(1-5)前提条件:ユニット「輝戦スペクトル」に加入している事

 その後、新入生二人は1階ラウンジのテーブルで加入方法について説明を受けた。その後、美黄がぽんと手を叩いた。

「そうだ二人とも。他のみんなも紹介したいんだけど、もう少し時間、良いかな?」

 既に勧誘時間は終了しているが、それ以降残るか否かは個人個人の判断に任されている。

「私は良いよ、橙流は?」

「……大丈夫、です」

「よし! じゃあ早速呼ぶから、ちょっと待っててね!」

 二人の承諾が取れたところで美黄は携帯電話を取り出して、どこかに掛けた。

「美黄でーす、とっても朗報です! なんと、初日にして二人加入してくれる事になりましたー! しかも念願のレッドとオレンジです!! なので、みんなラウンジに集合して下さい!」

 そう言って電話を切った。会話と言うよりかは、どこかに一方的に話しているような雰囲気だった。

「……他の三人は、どんな方達、なん、ですか?」

「んとねー、セクションパープルで皆のお母さんって感じの3年生と、セクショングリーンでほんわかしたお嬢様な2年生と、セクションブルーでクールビューティーな2年生だよ」

 橙流の問いかけに、美黄は笑顔で答えた。細かいところで突っ込みたい部分はあるが、大体の雰囲気は伝わったので、橙流も美赤もそれ以上は追及しなかった。

「……なるほど」

「まあ、あたし程個性的な奴はいないけどなあ!」

 ただ、藍音の自信たっぷりなその発言は、正直美赤を安心させた。


 暫くすると、入り口を見ていた美黄が手を振って誰かを誘導した。空いた椅子に座ったのは二人。リボンの色からして、“セクショングリーンでほんわかしたお嬢様な2年生”と、“セクションブルーでクールビューティーな2年生”の二名だろう。

「紫緒先輩は不在でしたので私から連絡致しました。後ほど合流すると思います」

「あれっ! そうなの? わかった、ありがとう。

 じゃあ、二人とも、簡単に自己紹介お願い!」

「承知致しました。

 2年3組、水上 青羅と申します。セクションはブルー、輝戦スペクトル内では主に戦略の策定と各種後方支援を行っています」

 聞きとれるギリギリの早口で自己紹介をしたのが、クールビューティーな2年生こと、水上みなかみ 青羅せいら。ストレートの青い髪を肩の上でばっさりと切り揃え、縁無し眼鏡の向こうで紺青の瞳が射抜くようにこちらを見据えている。

「同じく2年3組、南条寺 緑子です。セクションはグリーン、輝戦スペクトルでは皆への回復とー、敵への直接攻撃を行っていますわ~」

 イライラしないギリギリのゆっくりとした口調で自己紹介をしたのが、ほんわかしたお嬢様な2年生こと、南条寺なんじょうじ 緑子みどりこ。緩く巻いた萌黄色の髪が背中まで伸びており、柳色の瞳は友好的に細められている。頭にはリボンの色と同じ緑色のベレー帽が被され……と言うよりかは、今にもずり落ちそうな位置で固定してあり、その一番下には桃色の大きな花があしらったブローチが付けられている。

「ちなみにセクションブルーは第5型、セクショングリーンは第4型なー」

 と、藍音の補足。これでこのテーブルには、特化遺伝子全7種類中、6種類が集合したことになる。

 “第5型”は、<特化配列左脳型>。藍音とは逆に、論理的思考力に優れたセクションで、青羅が言ったように機械言語を操って敵味方問わず後方支援を行う事を得意としている。

 “第4型”は<特化配列術士型Ⅱ種>。美黄とは逆に、空間に存在している“魔力”を自身に取り込み変換する事によって超常現象を起こす事が出来るセクション。所謂僧侶だ。

「みんなありがと。それと、改めて、わたしは3年1組、篠良 美黄。セクションはイエロー。輝戦スペクトルのリーダーです。ちなみに、副リーダーはせいらちゃんだよ」

 これからよろしくね、と美黄が言葉を切ったところで、今度は1年生の番だと美赤は察した。

「1年4組、篠良 美赤です。姉から聞いていたと思いますがセクションはレッドです。姉に負けないよう頑張りますので、どうぞよろしくお願いします!」

「……1年4組、郡 橙流です。セクションはオレンジです、皆さんのご迷惑にならないよう頑張ります、よろしくお願いします……」

 新入生二人の自己紹介に対し、青羅と緑子はそれぞれよろしくと返答したところで、うっとりしたように緑子が手を合わせた。

「それにしても、ものすごーい偶然ですわね~! 一体どれくらいの確率なんでしょうー?」

 聞くところによれば、欲していたセクションの新入生が一日で揃った事は輝戦スペクトル結成至上初のことらしい。そんな輝戦スペクトルは結成5年目、全体からみれば割と新しいユニットだそうだ。

「げぇっ、緑子、その単語はマズイ……」

 藍音がいかにもマズそうな顔でそう零した直後、青羅がくいっと眼鏡を押し上げた。

「――単純に計算すれば、一人目がレッドである確率7分の1に二人目がオレンジである確率6分の1で42分の1です。ただ、篠良さんが郡さんをピンポイントで連れてきたと言う視点で見ると……そうですね、篠良さんは“最初に話しかけた人と仲良くなり、その人を見学に誘う”と言う前提条件を設けさせて頂きます。その上で計算しますと、篠良さんが最初に郡さんに話しかける確率が35分の1、かつ郡さんがオレンジである確率は7分の1となりますので245分の1になります。ただし、篠良さんが郡さんを連れてくるかどうかはまた別の確率が生じます。……ユニットの話題は必ず行われる筈ですので1、この後に篠良さんが郡さんを誘うかどうかについては、もし篠良さんが郡さんに対してある程度の好意……そうですね、100%中70%以上で誘うと仮定すると、篠良さんが郡さんを誘う確率は10分の3、それに対し郡さんが同じように100%中70%以上の篠良さんへの好意でイエスと回答すると仮定した場合、イエスと答えるのも10分の3、合わせると100分の9、よって篠良さんが郡さんに話しかけてから輝戦スペクトルまで連れてくる確率は24500分の9、大体2450分の1です。更に言えばそもそも篠良さん・郡さんが同じクラスに配属されている事が前提なのでその辺りも考慮すると」

「あーあーあーあーわあかったわあかったもういいわ、頭痛くなるから! やめろい!!」

 延々と続きそうだった青羅の確率論を藍音が頭を抱えながら遮った。美赤は藍音同様頭が痛くなりそうだったが、よく聞いてみると何だかそれっぽい理論だったので最後はその数字をきちんと追う事が出来ていた。青羅の言葉には殆ど途切れが無く、頭には電卓があるのかと本気で疑いたくなるほどの計算速度だった。

「そーなんですね~、でも、意外と現実的と言えば現実的な数字ですわー」

「もし天文学的な数字をご希望でしたら虹霞学園に入学するまでの確率を合わせれば簡単ですよ、ただ私はお二人の過去を存じておりませんので、少々お二人にも協力して頂く形となりますが」

 ちらりと美赤と橙流を見る青羅。そんな彼女の本気の視線を遮る様に藍音が身を乗り出した。

「ぃやらんでいーから! マジで!!」

 その必死の抵抗に、青羅は呆れたように溜息をついた。

「藍音は数字に弱すぎます。せめて42分の1位までは理解出来て頂かないと」

「良いんだよ、数字なんて! 運命の出会いってことで良いーだろうがあ!」

「確かに、その方がロマンチックですわねえ~。でも藍音さん、42分の1くらいはわたくしにもわかりますわよー?」

「だから数学が追試かつ補講になるのですよ。私が徹底的に教えたのをもう忘れたのですか?」

「あーうるさいうるさーい!」

 忌避するように手を振る藍音。その様子に青羅は眉を顰め、緑子は笑った。

 ……何と言うか、2年生三人組は、それぞれが別の方向に極端だ。それでいて、三人とも……個性的だ。


「お姉ちゃん、先輩達って……いつも、こんな感じなの?」

「うん、割といつもこんな感じ」

「……そっか……何と言うか……賑やか、だね……」

 総合的に見れば藍音には負けるかもしれないが、それでも十分過ぎるほど強い個性を青羅と緑子から感じる。三人揃うとそのやり取りが更に彼女達の個性を際立たせる。

「でしょでしょー?」

 嬉しそうに頷く美黄。この反応から考えて、客観的に見れば美黄もまた変わり者なのではないだろうか。確かに美黄はやや天然でそそっかしい部分もあるが、もしかしてそれも“個性的”なのだろうか。

 ……そもそも、個性派ぞろいなのは虹霞学園全体の傾向なのか、それとも輝戦スペクトルの面々が特別なのか。美赤はそれとなく辺りを見渡すも、美赤の目を色々な意味で惹きつける生徒はいなかった。

 逆に、美赤たちのいるテーブルを通り過ぎる1年生がこちらを見て目を見開いたり、思わず歩みを止めたりしている。人によっては二度見していて、その光景に対し何とも複雑な気持ちを抱く。

(つまり私も、個性派の素質がある、ってこと……?)

 ……今はそこまで生徒の数が多くないから、と言う事にしておこうと決めた美赤だった。


 それから暫くの間、美赤は2年生三人組+美黄によるコントのような会話を漠然と聞いていた。ツッコミは青羅、ボケは藍音、美黄は場によって立場が変わり、緑子は傍観者と見せかけてさり気ない合いの手を入れている。決して居心地が悪い訳ではないのだが、それでも上級生を前に緊張しているため流石に疲れてきた。VTを行った影響もあるのかもしれない。橙流の様子を伺い見ると、美赤以上に疲れているようで、やや俯いてしまっている。


『遅くなってごめんなさい』

 

 と、唐突に聞こえてきた声はまるでV-フィールドにログインした時のアナウンスのように頭に直接入ってきたので、美赤は驚いて思わず辺りを見渡すと、空いていた最後の椅子に今まさに誰かが腰かけたところだった。

「しおちゃん、お疲れ様ー! この子が新しい子たち、みあちゃんと、とーるちゃんだよ」

 美黄に促されるようにして、美赤と橙流はそれぞれ立ちあがって自己紹介を済ませる。微笑を携えたまま無言で自己紹介を聞く“皆のお母さんって感じの3年生”は、さり気なく薄葡萄色の髪の毛を手で束ねて膝の上に乗せる仕草を見せた。しかし量が多かったのかぱさりと一房零れ落ちて、その信じられないほどの長さに瞠目した。なんと今にも床に着いてしまいそうなのだ! その長さ、立てばスカートの丈辺りまで伸びているのではないだろうか。前髪も伸ばしているようで、右側に分けて落ちてこないようにピンを何本も差している。相当長い間髪の毛を切っていないのだろう。

『自己紹介ありがとう。……これからよろしくね、美赤さん、橙流さん』

 そう言って柔らかく微笑む菫色の瞳はどこか虚ろで、美赤達を見ている筈なのに、瞳ではなく、その奥――頭の中を見られているような、そんな不気味ささえ感じた。

「よ、よろしくお願いしますっ!」

「……よろしくお願いしま、す……」

 美赤達が座るのと入れ替わるように彼女が立ちあがった。長い長い髪が、意志を持っているかのようにゆっくり波打ち、先ほどの瞳と相まって神秘的な雰囲気を醸し出している。

『私は3年5組、築島 紫緒。セクションパープル……第7型の方がまだ二人には馴染み深いかしら』

 皆のお母さんって感じの3年生こと、築島つきしま 紫緒しお。紫緒の声は空気を震わせる事はせず、耳から入ってくる事も無い不思議な声だ。例えるなら優しい音楽を奏でる様に、もしくは水面を揺らす様に……どこか儚いその声は、少しの余韻を残しながら、直接美赤の心に響き渡る。

「第7型……!!」

 “第7型”は、<特化配列特殊型>。他の6つに該当しない特別な能力を持つ者を差すが、その割合はクラスに一人いるかいないかの低確率で、“奇跡の特化遺伝子”と呼ばれる事もある。その内容は個人個人によって異なる上、他のセクションではその能力を一切使う事が出来ない為、事実上同じ能力を持つ者はいないと言う事になる。

『私の能力は、こうやって皆の心に直接“声”を届けたり、皆の心の声を聞きとる事』

 能力を聞いて先ほど感じた不気味さに説明がついた。が、裏を返せば、紫緒に対して不気味さを感じていた事を紫緒に読み取られていたと言う事になる。それは無礼に値しないか? いくら能力とは言え初対面の、これからお世話になる先輩に対して……。

『大丈夫よ、今は聞き取ってはいないから』

「あ、そうでしたか」

 先回りしたような紫緒の言葉に安堵する美赤。すると紫緒がくすくすと笑った。

『でも、何となく考えてる事はわかるわ。私の目、何だか心を読まれているようで不気味、って思ったでしょう?』

 それと、私の言葉に安心したでしょう? と的確に心情を指摘されればいよいよ謝罪する以外に美赤に出来る事は無い。

「う……すみません」

 素直に頭を下げると、紫緒は静かに首を横に振った。

『気にしていないわ。実際、相手の目を見れば考えている事は伝わるから』

 紫緒は二人にふわりとほほ笑みながら頷き、藍音を見ながら椅子に座った。

『そう――藍音、昨日はツール調整ありがとう。とても調子が良くなったわ』

「おぉーそうでしたか、良かったです」

「ツール調整……?」

 聞きなれない単語に美赤は首をかしげると、美黄が一つ頷いた。

「そう、あいねちゃん達セクションインディゴの仕事は、みんなのツール……武器や防具の事なんだけど、このツールを作ったり、性能を改造したりして調整する事なんだよ」

 美赤は小さく目を見開いた。思わず「えっ」と声が出てしまったものなのだから、藍音が疑うような鋭い目つきで美赤を見た。

「美赤チャンもしかして、あたしをただの戦士だと思ってた?」

「えっ……ええ、と……」

 正直に言えば戦士だと思っていた。確かにセクションは美赤と同じレッドでは無いのだが、先ほどVTで交戦した際、美赤は散々苦戦させられていたのだ。単純に経験の差なのかもしれないが……。

『思ってたみたいね。ただの、ってよりは、純粋に藍音が強かったから、だけれども』

 美赤の動揺を紫緒がさりげなく代弁すると、藍音は豪快に笑った。

「はははー! いやあ嬉しいね! でも純粋な戦士は美赤チャンちゃんだし、直ぐにあたしを追い越してもらわないと困るねえ」

 そう、あくまでもこの学園には特化遺伝子を持ち、かつその能力を十二分に発揮できている女学生たちが集まっている。藍音にも当然、強みとしている分野があるのだ。そしてその分野は、美赤とは違う。

「何しろあたしの本業は技師! こー見えてサポート役なんだからさ」

 いわく、良い武器や防具を作る為には感性が大切になってくるらしく、藍音のこの校則違反すれすれな格好も、その感性に従った結果なのだと言う。

「あいねちゃんの調整はとっても上手だから、VTがよりやりやすくなるよー」

「そうですね。彼女のツール技師としての腕前は認めています。それだけは」

「そうですねえ~、42分の1は算出できないですけど、ツールのミリ単位のズレが実戦でどう影響するかは算出できますからね~」

「なんだよなんだよ青羅に緑子ぉー、その言い方たちはあー!」

 美黄だけでなく先ほど藍音の数学力の無さを非難していた青羅までもがそう言うのなら、腕は確かなのだろう。

「まあーいいや。美赤チャンと橙流チャンの武器も後々あたしが作りなおすから、楽しみにしててねーん」

 一体どんな風に調整されるのだろう? 興味深い反面、感性の爆発によりとんでもない装飾にならないか少々心配になった。それを察されてしまったのか、紫緒がくすくす笑う声が聞こえた。




 ――これで全てのセクション、全7種類の特化遺伝子が一か所に集った。


 第1型、セクションレッドは近接攻撃が得意な戦士。美赤は格闘術を会得している。

 第2型、セクションオレンジは遠隔攻撃が得意な戦士。橙流は銃による狙撃の才能がある。

 第3型、セクションイエローは攻撃をメインとする術士。美黄は様々な属性の攻撃魔法が使える。

 第4型、セクショングリーンは回復をメインとする術士。緑子はメンバーのどんな怪我も治癒できる。

 第5型、セクションブルーは戦闘中に本領を発揮する技師。メンバーへの後方支援は青羅の得意分野だ。

 第6型、セクションインディゴは非戦闘時に本領を発揮する技師。メンバーの武器は藍音にしか調整できない。

 第7型、セクションパープルは奇跡の“奇跡”の持ち主。紫緒の能力は、学園中の誰もが持っていない。


 この七人が、輝戦スペクトルのメンバーだ。

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