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宝華魔術学園  作者: 夜知
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第6話 出会い

お久しぶりです。

 

 珠梨と栞はすっかり打ち解け、肩を並べて朝ご飯を食べていた。

「ご両親が行方不明?」

 栞は皿をかたん、と勢いよく置いた。

 一方珠梨は特にそのことを気にしていないように淡々と答える。

「そう。それで施設に16年間住んでたの。あたしが人間界を出るって言ったとき、施設の人はあんまり悲しんでなかったな。あたしみたいにずっといる子は疎まれるから」

「そう……」

 話を聞いて栞は思った。珠梨は家族というものを知らないせいでこんなにも淡々としているのかもしれないと。長年住んでいた場所を出たというのに、寂しそうな素振りを全くと言っていいほど見せないのだ。たまらなくなって栞は提案した。

「珠梨、今度の休みに私の家に遊びにきて。私の家族にあなたをあわせたいし」

 珠梨に家族の暖かさを教えてあげたい。栞はこんなに積極的な自分に驚いていた。まるで珠梨に不思議な力で惹きつけられているようだった。

 珠梨は一瞬きょとんと黙ったのち、笑顔をみせた。

「本当?ありがとう。あたしも栞を友達にあわせたいな。友達絶対はしゃぐよ」

 もちろん友達というのは実香のことだ。きっと、銀色の髪初めてみた!と騒ぐだろう。

「どんな人?」

「うるさくて甘えん坊で、寂しがりなの。でもあたしは好きだった……」

 自分にない無邪気さが好きだったし、羨ましかった。栞と友達になって嬉しい気持ちになったのに、また実香を思い出して心がちくりと痛んだ。

 そのとき、背後に気配を感じて珠梨が振り向くと、誰であろう柴村先生が二人を見下ろしていた。

「集会は終わったよ。宝生、また途中で抜け出して……高等部に入っても変わらないのか?」

 先生は呆れたように溜め息をつく。栞はいたずらっぽく微笑んだ。

「すいません。私珠梨さんを放っておけなかったので」

 そう笑いながら珠梨を見る。珠梨は髪と同じ銀色の瞳にどきりとした。柴村は驚いて二人を見比べる。

「もう仲良くなったか。宝生が自分から親しくするなんてなあ。明日は雹がふるかもしれないな」

 栞は失礼な、という顔をした。

「酷いですね。魔法で降らせても構いませんけど」

 先生は手を振って笑った。

「遠慮するよ。君の魔法は強力だし」

 栞は目を伏せ首を振る。

「お世辞はやめて下さい」

 

 

 急に食堂の入り口が騒がしくなった。集会から戻ってきた生徒が入ってきたのだ。栞は不機嫌な顔をした。

「珠梨、でましょう。寮の部屋に案内するから」

「う、うん」

 栞は素早くトレイを返し、足早に大勢の生徒達と逆方向に歩きだした。柴村は完全に放置である。慌てて珠梨は後ろをついて行く。まるで栞は何かから逃げようとしているようだった。

「栞?どうし……」

 話しかけようとしたそのとき、急に空気が冷たくなったような気がした。その原因は、一人の少女が登場したためだった。

「あら栞。人間界の人と歩いてるの?」

 二人の目の前には高慢そうな金髪の少女が立っていた。綺麗な顔立ちだが切れ長の目が鷹のように鋭く、珠梨は少女を恐ろしいと思った。

「誰でもいいじゃない。あんたに関係ないでしょう」

 栞は金髪の少女と目もあわせずに言い捨てて、横を通り過ぎようとした。すれ違う瞬間、火花が散る。

 これだけ目をひく二人を周囲の生徒がじろじろ見てこないのも当然だった。この張り詰めている空気には触れたくないのだろう。

 金髪の少女は顔を歪めた。

「待って。黒髪のあなた、人間界から来た人よね?」

 珠梨も急いで通り過ぎようとしたが、遅かった。一目見て、出来れば関わりたくない人だと思ったのに。仕方なく半分だけ振り向いた。

「は、はい。宮野珠梨といいます」

 意外にも金髪の少女は微笑んだ。しかしその微笑みは安心を与えるものではなく、かえって人を不安にさせる恐ろしさを帯びていた。

「私、(あざみ)寮の榊流華(さかき るか)。よろしく。あなたの強い魔力がどう使われるか楽しみよ」

 そう言い残すと友人達がいるテーブルへと向かっていった。

 栞ははっ、と短くため息をついた。

「朝から嫌な女と会っちゃったわ。あの人の言うことは気にしないでね」

「うん……」

 それでいい、という風に栞は頷く。

 きっとあの流華という人は自分を嫌っているのだろうと珠梨は思った。あの恐ろしい微笑みがそれを物語っていた。

「ところで、今日の1時限目は……」

 栞はぽりぽりと鼻を掻いて思いだそうとする。

「あ、“攻撃魔法実技”だったわ。珠梨はたぶん違うことをやるだろうけど。基本魔法の使い方とかね」

 そう聞いてほっとする。“攻撃魔法実技”なんていきなりできるわけない。

「それならいいんだけど……」

 珠梨の不安そうな表情を見て栞は背中をぽんと叩いた。

「大丈夫よ。桔梗寮の人たちが珠梨をちゃんとカバーするわ。みんなは明るくて優しいし……」

「うん、爆発しても上手く消火するから安心しろよ」

 

 二人の背後から少年の声がした。珠梨は驚いてびくりとしたが、栞は笑って振り向いた。

「蓮。立ち聞きはひどくない?」

 少年の髪は暗い青色で、短くさっぱりとした髪型だった。蓮と呼ばれた少年は口の端でにやっと笑う。

「ごめん。お前またあいつと喧嘩してたから、気になってさー」

 栞はふうとため息をつく。

「喧嘩、ねえ。あっちが勝手にけしかけてくるだけなんだけど。……あ、珠梨。この人は鳴瀬蓮っていうの。同い年で桔梗寮の生徒」

 珠梨は興味深そうに蓮にじっと見られて恥ずかしくなった。慌てて挨拶する。

「あ、えっと、これからよろしくお願いします……」

 蓮はさっきよりもにかっとわらった。いたずらっ子みたいな笑顔だな、と珠梨は思った。

「あんまり緊張すんなよ。よろしく。それにしても髪の毛まだ黒いままか」

 

 そういえば通り過ぎていく生徒達は皆鮮やかな髪色をしているのに、珠梨は未だ黒いままだ。栞は首を傾げて考えるように言った。

 

「魔法を使うようになったらもしかしたら変わるかもね。ああ、早く珠梨に魔法使わせたいわ!授業が楽しみね」

 蓮も楽しそうに笑う。

「こんなことって滅多にないしな。珠梨、頑張れよ!」

「う、うん……」

 

 珠梨も少しだけ笑ってみるが、やっぱり魔法を使えるか不安だった。蓮と栞とは対照的だ。

 

 

 あと1時間ほどで授業が始まる。

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