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宝華魔術学園  作者: 夜知
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第5話 銀色の少女

 

「んー……今何時……?」

 珠梨が目を覚ますと、カーテンの隙間から白い光がもれていた。朝のようだ。

 そしてぼんやりした頭で、今日から授業が始まることを思いだして、焦って持ってきた時計をひったくると針は6時をさしていた。

「6時か。今日から授業始まるけど、どうすればいいんだっけ?」

 考えてみれば珠梨は今日の動きを全く知らない。集会があるようだけど、柴村先生が上手く誘導してくれるだろうか。

(でも頼りすぎちゃだめだよね? 相手はここの学校の先生なんだし)

 珠梨は急に頭が冴えてベッドから跳ね起きた。ふと自分の服を見てみると、昨日外から来た格好のままだった。せっかくの余所行きの服がしわしわになってしまった。おまけにシャワーも浴びていない。

 この部屋はホテルのようにトイレとバスタブが一緒についている。人間界から持ってきたキャリーバッグに着替えなどを詰めてあるし、出来れば集会前にシャワーを浴びたい。時間に余裕はあるだろうか?

 一人思案していると部屋のドアをノックする音がした。慌ててドアを開けるとそこには見慣れた長身の男がいた。

「おはよう。……あれ、パジャマ着て寝なかったんだね」

 早速ばれてしまい赤面する。

「眠くてすぐ寝ちゃったんです」

 くすくす笑われてしまう。男のくせにくすくす笑わないでほしい。

「まあそれはいいんだ、はい着替え」

 そう言って手渡されたのは、ブラウス、焦げ茶のベストに赤いリボン、紺のプリーツスカート、白のソックス、それに校章のバッジだった。つまり制服一式である。

「着替えたら外に出てきて。食堂に案内するから」

「わかりました」

 シャワーを浴びるのは断念した。

 

 

 ドアをパタンと閉めると、早速久しぶりの制服を着始める。前の学校はブレザーだったが、この制服は初めての種類だ。

 手早く着替えて、備え付けの縦長の鏡を見ると、今まで見たことのない自分がいた。本当に魔術学園の生徒になってしまったんだと実感した。

 一応昨日もらった杖をポケットにいれて外に出ると、考え事をしている様子の先生が壁にもたれかかっていた。横顔も相変わらず整っていて、この人には一瞬でも崩れることがあるのだろうかと珠梨は思った。

 先生が珠梨に気付く。

「着替えたね。うん、似合ってる」

「いえ……」

 なんとなく恥ずかしい。お世辞でも褒められることに慣れていないのだ。二人は人気のない広い廊下を歩いて食堂へと向かった。

「この時間って生徒はまだ寝てるんですか」

「いや。6時半起床だから今頃は起きて集会に行っているよ」

「あたし集会行かなくていいんですか」

 先生は頷く。

「君のこと学園長先生が説明するんだけど、みんな君に注目すると思うし。そういうの困るだろうと思ってさ」

 確かにみんなじろじろ見てくるかもしれない。注目を浴びるのは苦手だ。頼りすぎてはいけないと思っても、やはりそういう配慮は嬉しい。

「ありがとうございます。でも、あたし先生に頼りすぎてて、なんか……あの、今日から自分で頑張ります」

 内容が滅茶苦茶になってしまった。先生はきょとんとして、また笑い出した。今度はくすくす笑いじゃない。

「そうか。授業頑張ってね」

「はい」

 

 

 やがて食堂、と彫られた札が掛けられている大きな入り口にたどり着いた。

「ここが食堂。おおきいだろ?」

 そう先生が言うとおり全校生徒が使うだけあって広い。教室4個分はありそうだ。すでにカウンターにはエプロン姿のおばさんがたくさんいて、これから来るであろう生徒たちの朝ご飯を作るために動き回っていた。こんなに広い食堂だと人手がいるのだろう。

 

 珠梨を見るなりカウンターに立ったおばちゃんがいたので、そちらへ向かった。

「おはようございます」

 おばちゃんはにこにこして珠梨をまじまじと見た。

「見慣れない子だね。噂の転入生かな?」

 おばちゃんはふくよかで、髪の毛がちぢれている優しそうな人だ。

「はい。宮野珠梨といいます。これからよろしくお願いします」

「しゅりちゃん? あたしは洋子っていうの。よろしくね。さ、いっぱい食べて」

「ありがとうございます」

 おかずが山盛りのトレイを受け取って適当な席に着いた。優しそうな人でよかった、と珠梨は思った。この調子で学園の生徒達と仲良くなれるように頑張ろう。

 

 すると柴村先生は思い出したように腕時計を見ながら、

「じゃあ、僕も集会に行って来る。30分あれば終わると思うから、待ってて」

 そう言って返事を聞かずに早足で出ていってしまった。こんなに広い所に一人でいるのは心細い。おばちゃん達は忙しく動き回っているので話しかけられないし。

(早く友達欲しいな……)

 そんなことを思いながら朝ごはんに箸をつける。

 半分食べた頃、食堂に誰か入ってくる気配がした。柴村先生だろうか。

 しかし入ってきた人物は制服を着た綺麗な女の子だった。ふわふわした銀色の髪は背中まであって、まるで人形のようだ。この世界の住人は魔力のために髪色が人それぞれ違うが、銀色は初めて見た。しかも顔や雰囲気に銀色がよく似合っている。

 

 

 それにしてもこちらを見て少し微笑んでいるのは気のせいだろうか。

 そんなことを考えてまじまじ見ていると向こうから珠梨の方へやって来た。

(どうしよう。じろじろ見すぎたよね)

 しかし少女は怒る様子もなく、微笑みながら落ち着いた声で話しかけてきた。

「あなたが人間界から来た人ね? 私は宝生(ほうしょう)(しおり)、桔梗寮の高等部1年生。あなたは私と同じ寮よ。学園長先生が言ってたの」

 珠梨は突然のことで頭がうまく働かなかった。とりあえず挨拶しなければと焦る。

「あたし、宮野珠梨です。よ、よろしくお願いします」

 するとふふ、と優しく微笑んだ。

「珠梨ね。よろしく。まだ学園について分からないことたくさんあるでしょう? 私でよかったら色々教えるから」

 少し緊張がとけてきた。きっとこの栞って人は悪い人じゃない。

「ありがとう……でも、今って集会中なんじゃ?」

 すると栞は小首を傾げて、いたずらが見つかった子供のような顔をした。顔立ちは大人っぽいのにそういう顔をするのは以外だった。

「そうね。実は抜け出してきたの。多分怒られるわ……だってあなたの話が終わるとあとは大したこと話さないし、退屈で」

 やはり自分の話が出たか、と思った。

「あの、なんて言ってた? あたしのこと……」

 そうねえ、と栞は思い出すように言った。

「あなたと仲良くするように、って。色々不安だろうから、助けてあげなさいと言われたわ」

 ああ、だから優しくしてくれるのかもしれない。そんなことを思っていると栞は口を尖らせた。

「待って、私があなたに優しくしているのは学園長先生に言われたからじゃないの。あなたと友達になりたかっただけ」

 そう言う栞の表情は真剣そのものだった。くるくる表情が変わる人だ。魔法界での初めての友達がこの人でよかった、と思う。色々不安だったけど、栞がいれば大丈夫な気がしてきた。

「ありがとう。あたし慣れないこといっぱいあるの。よろしくね」

 栞はさっきの表情はどこへやら、満面の笑みを浮かべた。珠梨もつられて笑った。

 

 

 

 


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