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宝華魔術学園  作者: 夜知
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第2話 確信

 

 珠梨と実香が教室に戻ると、既に担任の先生が来ていて、あと3分くらいでHRが始まるところだった。

「結構ぎりぎりだったね、珠梨」

 珠梨は実香の話を聞いていなかった。階段を上るときにあの魔法界の先生と目があったことを思い出して、一人混乱していた。

 

(あの先生は、あたし以上に驚いていたみたいだった。だけどどうして? あたしは何もしていないのに)

 

 実香は珠梨が自分の話を全く聞いていないようなので、少しいじけた。

「ちょっと、聞いてるの珠梨?」

 ようやく珠梨は実香の声に気づいた。

「え、ごめん。なんだっけ?」

 実香は呆れて怒る気も失せてしまった。

「もうっ。大したことじゃないし、いいんだけどさ。それより、珠梨変な顔してるよ。何かあった?」

 何かあったのかと言われると、確かにあったのだが、そう大したことでもない気がするので返事に困った。もしかしたら、自分が誰か他の人と似ていただけかもしれない。

「ううん。何でもない」

「本当に?」

 実香は首を傾げて怪訝そうな顔をした。珠梨たちがまだ席に着かないので先生は少し苛立った。

「そこの二人、早く座りなさいっ」

 実香はどうやら諦めたようだ。二人は慌てて席に着いた。

 チャイムが鳴り、挨拶の号令がかかる。いつも通りの流れでHRが進んでいく。今日も特に大事な連絡がないままHRが終わるとクラスの大半が思っていたが、違った。先生はあらたまって話し始めた。

「えー、この学校に魔法界の先生がいらっしゃっていることはみんな知っていると思います。――そうね、特にあなたたちは嬉しいでしょうね」

 一部の女子のグループが顔を見合わせて笑っていたので、先生は一言つけ加えた。

「それで、今日の5時間目に先生がこのクラスを視察するそうです。もちろん失礼なことをしないように」

 にわかにクラスが騒がしくなった。

「そういうことだからよろしくね。お願いだから変なこと絶対にしないでね!」

 先生は生徒たちが変なことをしないかよほど心配なようだ。無理もない、と珠梨は思った。魔法界から見たこの学校の評価が、今日の視察で決まってしまうかもしれないのだ。学校の面子を守りたいのだろう。

「じゃあこれでHRを終わります……」

 先生は不安そうな表情でHRを終えた。

 クラスのみんなが騒ぐ中、珠梨は一人ぼおっと考えていた。

 

(まさかあの先生がうちのクラスを視察するなんて。偶然だろうけど)

 

 そのとき誰かの手が珠梨の目の前でひらひらと舞った。実香の手だ。

「やっぱり珠梨なんだか変。何かあったんでしょ?」

「うん……」

 珠梨は階段での些細な出来事を話した。実香は相槌をうちながら聞いていたが、今朝のようにわくわくしてはいなかった。いつも能天気なようでも、珠梨が困っていれば真剣に考えてくれる。

「うーん……ま、すれ違う人と目があうことってよくあるしねー」

「そうだよね」

 結局日常的にありがちな話題として終わってしまった。珠梨は、あれはやっぱりただの思い違いだったのだと、これ以上深く考えないようにした。

 

 そうして5時間目が始まった。先生は後ろの窓際に座り、授業を見学していた。

 たまに先生をちらちらと見る生徒が何人かいた。珠梨はというと、特に気にしないで授業を受けていた。

 

 しかし先生の方は珠梨を気にしていたのだ。校長先生に生徒の写真を見せてもらい、珠梨を探し出した。急に視察を行ったのは魔力を確かめるためだった。

 

(やはり魔力の波動が伝わってくる。しかも強力だ。これほどの魔力を使わずにいるのはもったいない)

 

 先生は、あることを計画していた。

 珠梨はこれから自分に起こることなど知る由もない。

 

 授業はいつも通り終わった。先生は自分に数人の生徒たちが寄って来るのがわかったが、今は生徒の相手をしている場合ではない。

 先生は机に肘をついておしゃべりしている、無防備な珠梨の背後に音も無く近づいた。

「宮野さん、ですね」

 教室が静まり返った。

 珠梨が驚いて振り向くと、先生の切れ長の瞳に見下ろされていた。重圧感を感じながらもなんとか返事をしようとする。

「は、はい」

 先生は緊張をほぐすように柔らかく微笑んだ。しかし逆効果だった。あまりにも顔が整っているものだから、余計に珠梨の心臓が跳ねだす。

「いきなり申し訳ない。僕は柴村光といいます。ちょっと話があるので放課後校長室に来てくれますか」

 珠梨は緊張のしすぎでかすれた声しか出なかった。


「わかりました……」

「よし。じゃあまたあとで。待っていますよ」

 そう言うと他の生徒には目もくれず、さっさと教室を出ていった。

 すぐ教室は騒がしくなった。あちこちから珠梨すごいね、あいつ何かしたの、という声が聞こえてくる。しかし周りの声はどうでもよかった。

 珠梨は確信した。

 

 やっぱり今朝のことは気のせいじゃない。

 

 


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