プロローグ
石造りの大広間に、静寂が落ちていた。
十八歳を迎えた者に、神より魔法が授けられる。それはこの国の絶対の理だった。
貴族アルンもまた、その日を迎えた一人だった。
天井から差し込む光の中。神官から、与えられた魔法の名が告げられる。
それは───
「...収納魔法、だ」
ざわめきが広がる。
収納魔法とは、物を異空間に出し入れする魔法。
しかし、この世界には既に、高性能な収納魔道具が存在している。
つまり、「いらない魔法」。
ただ“収納する”だけの魔法。
「なんということだっ...!」
父の声は低く、鋭く、冷たかった。
「我が家に、このような無価値の魔法が現れるとは...」
アルンは言葉を失う。
確かに派手ではない。
だが、本当に無価値なのか?
そう問い返す前に、判決は下された。
「アルン。お前は今日限りで家を出ろ」
その一言は、あまりにもあっさりしていた。
家名も、地位も、財産も。
すべてを剥奪され、彼は門の外へと放り出される。
夜風が頬を撫でる。
───これで、終わりなのか?
いや。
アルンは静かに掌を見つめた。
試しに、小石を一つ拾う。
意識を向けると、それは吸い込まれるように異空間へ消えた。
次の瞬間、彼の背後に現れる。
「...なるほど」
武器を瞬時に取り出せる。
罠を“しまえる”。
敵そのものを、閉じ込めることも...?
自分の口元が、わずかに歪んでいる気がする。
追放された。
だが、縛るものもなくなった。
「だったら、証明してやる」
この魔法が、“使えない”のではないと。
静まり返った夜の街道を、少年は歩き出す。
後に世界が知ることになる。
“収納”とは、ただ物をしまうだけの力ではないということを。
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