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私のすーくん。私だけのすーくん。

「新たなユニークスキル、か……」


 お風呂上がり。灰色の寝巻姿で、ベッドに腰かけユニークスキル「トレースアーツ」をメニューで開き、技の入ったスロットを確認する。


 トレースアーツ一覧

 ポイズンブレス

 ・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・


 ポイズンブレス 消費MP40

 範囲内の敵に猛毒効果を付与する。


 システムの通知通り、モンスターの技を使えるようになるスキルのようだ。

 火力の高い武宮が、ツインコカトリスの毒付与を戦闘で扱う必要があるのかは微妙であるものの、強いモンスターの強力な技をコピー出来たら、心強い味方になるスキルだろう。


(レアモンスターは初喫食ボーナスの上がり幅が高いし、戦うモンスターは強ければ強いほど、メリットが多いんだな)


 色々と考えていると、コンコン、と扉を叩かれた。


「ん、なんだ?」


 ウサギ耳のフードを被った、ピンク色の寝巻姿の五十嵐が部屋へ入ってきた。

 白いカーペットの上で、ぺたんと女の子座りをする。


「明日から、ダンジョンへ向けて移動してみない? 道中、まだ食べてないモンスター狩りながらで。すーくん、かなりステータス上がったし、私もレベル6になったから、2人でもEランクダンジョンは戦えると思うの」


 先駆者によって作られたワールドマップがあり、ダンジョンもそれぞれランク付けがされている。

 武宮達が活動している近くには、最低ランクのEランクダンジョンがある。

 ダンジョン内では8時間の転送ルールから外れるため、フィールドでレベルを上げてから、ダンジョンへ入ってレベルを上げるという効率重視の冒険者もいる。

 しかしダンジョン内では、また別で制限時間が設けられている。これはダンジョンごとによって異なり、武宮達が向かおうとしているダンジョンは1時間までしかいられない。1時間以上いると、強制的にフィールドへ転送だ。考え方を変えると、1時間で攻略しなくてはいけない、ということだ。また、残り時間はメニューで確認ができる。そしてダンジョン内の宝箱・構造は日夜変化していて、マッピングはあまり意味を成さない。

 また、ボス部屋へ入ると制限時間のカウントは止まる。ボスには基本、討伐の制限時間は設けられていない。


「わかった」

「あと、少し時間をずらして、夜のフィールドで狩りした方がいいかも」

「ゴーストか?」


 夜のみに現れるという、ゴーストというモンスターがいることを、武宮はぼんやりと思い出した。


「うん。レアモンスターじゃないから、トレース出来る対象なのかは、わからないけど……ゴーストは姿を消す技を扱うの。隠密系の技は獲って損はないと思うから、ゴーストを狙ってみたらどうかなって」

「んー……ただ、ゴーストって結構強いんだよな? 俺達でいけるか?」


 ツインコカトリスの反省を踏まえ、携帯を操作し冒険者協会の運営するサイトを調べる。有志によって推薦レベルや、攻撃行動の特徴などが書かれている。ゴーストの推薦レベルは「10」。ユニークスキルで上振れはじめている武宮はやれそうだが、五十嵐に危険性がある、といったところだろう。

 しかし一方で、レベルアップは格下だと効率が下がる傾向にある。安全ばかりだとレベルアップに時間がかかるのだ。安全を確保した上で格上の敵と戦うことが、冒険者にとって強くなる近道だ。


「私はいけると思う」

「そっか。わかった。でも、出来るだけ後ろへ下がるんだぞ。前はどんどん俺に任せてくれ」

「ふふふ、もうすっかり強い冒険者さんだね~」

「まぁ、桃のユニークスキルのおかげなんだけどな……」


 五十嵐は立ち上がり、武宮の隣に座った。お風呂上りの、甘い香りが鼻を刺激し、思わずドキドキした。


(桃ってやっぱり、可愛いよな。でも冷静に考えると、俺は転生者だから、合算すると中身は48歳なんだよな……すごい年の差だ……)

「今日は一緒に寝よっか、すーくん」

「だ、ダメだ」


 めちゃくちゃ動揺する。18歳にタジタジな48歳だ。


「ふふふ、もう、奥手なんだから♥ おやすみなさい」

「お、おやすみ」


 五十嵐は上機嫌そうにベッドから降りて、部屋を出て行った。ばたん、と扉が閉められる。


「ふ、ふぅ……あ、あれかな。これは、男として情けないのだろうか……ダメなのだろうか……。で、でも、仕方ないだろ。前世、素人童貞だったし。いきなりスタイル良い、顔良い、しかも一途な女の子なんて、どうしたらいいか、わからないって……」

(たまにその一途さが怖い時があるけど)


 そんな独り言をこぼしつつ。今日はもう寝ようと、部屋の明かりを消した。





「――すーくん。私だけのすーくん。寝ているかな」


 気配遮断スキルを使い、扉を開ける。

 明かりが消えた部屋の中。

 武宮はすう、すう、と寝息を立てて眠っていた。

 ベッドの近くまでいき、その顔をじっと覗き込む。


「ふふふ、寝ているね。寝苦しそうにしてないね。寝顔、可愛い。食べちゃいたい。ずっとずっと、一緒だよ」


 武宮がちゃんと寝ているか、密かに確認するのが五十嵐の習慣であった。

 こんな大胆な行動に出るなら、いっそ夜這いしてしまった方が清々しい気もするが、武宮が五十嵐の強い好意に戸惑っているのも感じているため、彼の意志を彼女なりに尊重しているのだ。


「……」


 武宮の唇を、じっと見てしまう。

 両手と両足で、体を支える四つん這いになって、ベッドの上へ。

 ギシッ、とベッドが軋む音と共に、触れあってはいないが彼の体の上へ覆いかぶさる形となる。

 顔と顔を、近づける。

 こっそり、キスしてしまおうか。

 そんな誘惑が、脳裏をよぎってしまう。


「っ。お、おやすみ、すーくん。また明日ね……」


 五十嵐は顔を赤くして、慌ててベッドから降りて、すたたた、と扉の方へ向かった。そして早くなる胸の鼓動を感じながら、部屋を出る。


(ど、ドキドキしちゃった……)


 普段はベタベタしている五十嵐だが、いざという時は恥ずかしくて、大胆な行動には出られないでいた。

 根っこは、恋する純情な乙女なのである。

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