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ヤンデレ幼馴染と夜デート

 五十嵐と共にやって来たのは、ちょっとだけお高い焼き肉店であった。黒を基調とした、ウォールライトで控えめに照らされる、落ち着いた雰囲気の店内である。

 普段ならばこういったお店にはいかないが……ツインコカトリスは3万円で取引されたため、少しだけ懐が温かい。それにとある検証もあるので、この焼き肉店を選んだ。

 店員に案内されて、ボックスシートの背もたれの高い黒ソファに対面で座る。店員を呼び、事前に調べたものを注文した。

 待っている間も、武宮のお腹が鳴る。

 他の席からは、肉を焼く音が良い感じに聞こえてくるのが、食欲をそそった。


「あ~。早く食いて~」

「ふふふ、待てしているワンちゃんみたい」

「桃とメシ食う瞬間が、一番幸せなんだよな~」

「わ、私と……うんっ。えへへ。すーくんと一緒にいられるの、幸せ……」

「そういや、同じ部屋に住み始めてもうすぐ1週間だけど。続けられそうか?」

「もちろん! もう絶対に逃がしません! 本当は首輪つけて、それを常に手で掴んでいたいくらいだよ!」

「リードを使わないスタイルなんだな」

(本当のツッコミどころはそこじゃないけど。まあ、桃だしな。首輪ぐらいはつけたがる)


 ディナーで9000円。運ばれてきたのはモンスター「シルバーフォックス」の肉であった。肉の表面がツヤツヤと、ほんのり銀色に輝いている。

 そしてライスと小皿に乗った味付けのり、ピーマンと玉ねぎ、にんじんの乗ったサラダが運び込まれていく。


「美味そう!」

「待っててね~。今、私が焼くから」


 五十嵐がトングでシルバーフォックスの肉を掴み、じゅううう~~~と、焼いていく。


「今の私達のレベルじゃ狩れないシルバーフォックスだけど……私が手を加えれば、初喫食ボーナスの判定になるのか……」

「検証だな。しっかし、美味そうだな……!」

「お高めのお肉だからね~」


 五十嵐が焼き終わった肉を皿に乗せる。


「どうぞ~」

「いただきます!!!」


 タレにつけて、銀色に光る肉を食べる。

 じゅわりと甘い油でとろける肉。旨味たっぷりの肉汁。お米を食べる箸の動きが止まらなくなりそうであった。


「美味い!」


 ごくり、と飲み込む。

 一切れ肉を食べきったが、なにも起こらなかった。武宮が首を横に振ると、うーん、と五十嵐が首を傾げた。


「これを食べきったら、初喫食ボーナスの判定になるのかな?」

「かもしれないな」


 親子丼など、五十嵐の料理の時は食べきってからが判定になる。


「じゃあ、食べよっか。ふふふ、全部焼いてあげるからね~」

「わーい」

「野菜もいっぱい食べるんだよ」

「それは桃もだぞ」

「うんっ!」


 仲睦まじく、食事を進めていく。五十嵐が肉を食べると「おいひぃ~」と幸せそうに笑みを浮かべていた。

 前世では食事は作業になっていたが、今では違う。

 一緒に食べてくれる女の子がいて、美味しいねと言ってくれて、楽しんで笑顔になってくれる。

 これって最高の幸せじゃないか、と武宮は改めて実感した。

 それに狩りをした後の、飢えた空腹が最高のスパイスになっている。

 そして。


「初喫食ボーナスは、なさそうだな」

「え~」


 完食して、しばらく待ってもシステムはなにも告げなかった。まさか会計したら食べた判定になる、なんてことはないだろう。


「自分達で狩ったモンスターじゃないと、ダメなのかもな」


 武宮の仮説に、五十嵐がこくりと頷いた。


「お高い肉買って、それで強いモンスターの初喫食ボーナス獲得! ……っていうのは、無理かもね」

「だな。狩りを地道に頑張るしかない」

「つよつよスキルだけど、ちゃんと制限はあるんだね~」


 さて会計だ、と立ち上がろうとした瞬間であった。


「――全く、あいつと来たらうっとおしい奴だよね」

「本当、本当! 自分が特別だと思っているんだよ!」

「ちょっとレアなスキル持っているくらいで、イキりやがって」

「俺達が有能だからって、嫉妬しているのかもな」


 長谷川パーティーの声がした。武宮達は思わず、立つのを止めて席に座る。

 聞こえるのは、4人の声。長谷川とその連れ……だが、工藤 文也の声はしなかった。ハブられているのだろう。

 彼らは武宮達の一個後ろの席へ座る。

 背丈の高い背もたれのおかげで、こちらの姿はバレていない。長谷川がふんす、と鼻息を荒くした。


「工藤には、少し灸を据える必要があるかもしれないね。僕に策がある……と、その前に注文しようか。ここには成功者の僕達に相応しい、至極の肉がある」

(なんでもう成功者のつもりなんだ……)


 相変わらず聞いているこちらが痒くなるような、恥ずかしい集団である。

 しかも……。


(工藤って浮いているどころか、嫌われているのか)


 嫌われている者と一緒に命を懸けて狩りをしなくてはいけないだなんて、気の毒な話であった。


「すーくん、行こうよ」

「ああ」


 小声で促してきた五十嵐に、武宮は頷いた。


「デートだしな、これから」

「えへへ……うんっ」





 五十嵐と一緒にゲームセンターへと行った。2階建てのテナントに入ったお店で、1階には複数のクレーンゲームが設置されている。

 店内は若者を中心ににぎわっていた。時折、若い男が五十嵐へ視線をやってジロジロと品定めをしている。ルックス良好、スタイルも良いとわかると、男の武宮へと視線が映った。ふん、とつまらなそうに鼻を鳴らす。

 美少女となると、どうしても視線を集めた。高校時代からそうである。


「すーくん。これ。これ、獲ってほしいの」


 前々から狙っていたらしい、クレーンゲームの台へ案内される。三本爪のクレーンで、景品は紫色の鎌を抱きしめるように持った、全長30センチほどの黒いウサギであった。瞳の色は黄色く、鋭い目つきをしている。


「可愛い~。目つき悪いのがたまんないよ~」

「結構、大きめのぬいぐるみだな」

「難しい?」

「まずは、やってみないとわからないな」


 武宮は百円玉を入れ、レバーを操作する。

 前世で大学生の頃、クレーンゲームにハマっていた時期があった。

 その時代の経験により、今もクレーンゲームの腕はそこそこ立つ。知識もそれなりにあった。

 軽快な音と共に、クレーンが黒いウサギの頭上に止まり下がる。3本爪はしっかりと黒いウサギを捉えたように見えたが、するする、と爪がすり抜けて、クレーンは素手の状態で定位置へ戻る。


「よし、諦めよう」

「なーんーでー! 諦め早すぎ! 黒ウサギちゃんほしいの!」


 ポカポカ、と肩を軽く叩かれる。

 五十嵐の頬が、ぷく~、とお餅みたいに膨れている。


「って、言われてもな。3本爪だし、この挙動は多分だけど確立機だ。プロでも獲得が出来ない台、って言ったら少しは無謀さが伝わるか?」

「え~。本当? ……確率機、ってなに?」

「例えるなら、ガチャの天井だ。いくらか投入したら、レバー設定が自動で変わって、爪の力が強くなり、景品を獲得出来るっていう仕組み。上限の金額は、設定した人の加減だから、やってみないとわからない」

「爪の力が強くならないと、獲れないの?」

「ああ。そういう風に出来ているんだ」

「ズルい」

「クレーンゲームは、中にはそういう台もあるんだ。商売だし仕方ない」

「うぅ~……君はおウチに来てくれないのぉ……?」


 ぺた、とガラスに両手を貼り付けて、五十嵐が切なげな表情で悲しそうな声を上げる。

 まるでショーケースの中を見る子供だ。


「いくらになるかわからないけど、やってみるか?」

「うんっ! 1万円までは大丈夫!」

「怖いこと言わないでくれ……」


 ダメ元で、再挑戦する。

 三本爪がぬいぐるみを捉え――見事に、持ち上がった。


「あ!」


 五十嵐が声を上げる。クレーンは黒いウサギを抱えたまま移動し、落ち口へと景品を投入した。


「すごい! ありがとう、すーくん!」


 景品口から黒いウサギを取り出し、ぎゅっと抱きしめた状態で笑顔になり、武宮へお礼を言った。


「ああ。良かったな。前に誰かが、いっぱいお金導入してたのかも」

「ね~。ラッキー。一緒におウチに帰ろうね、黒ウサギちゃん」


 2人はゲームセンターを出て、一緒に少しだけ街を歩き、家へと帰っていった。ごはんの時と同様、それは楽しい時間であった。

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