元クラスメイトは桃へ片思い中
いつも通り、協会の支部へと入る。受付へ行く前に、今更ながらふと気になったものがあった。
入口に入って、すぐの右側に、大きなモニターがいくつか設置されており、そこに様々な情報が表示されているのだ。
ギルドの討伐ランキング、冒険者個人のレベルランキング、ワールドマップ、新規ダンジョンの情報、武器・アイテムの販売をする商人ギルドの宣伝、今年現在の死亡者の数……いずれも公式ページを見るなり、調べるなりすれば手に入る情報がほとんどだが、こうしていっぺんに見ると、冒険者業界全体も毎日色々と動いていることが、目で見て確かめられる。
「ユニークスキルの特性上、レアモンスターの出現情報は、こまめにチェックしておきたいね」
「ああ。そうだな」
レアモンスターの目撃情報を映すモニターには、UFOなんて冗談みたいなモンスター(?)がいて、その写真が掲載されている。レアモンスター情報提供は、内容によれば協会から報酬が出たりするので、携帯かカメラは持っていった方が良い。
「UFOって……まあ、いかにもレアって感じだけどさぁ。あの世界でUFOって、シュールすぎだろ」
「まだ、誰も討伐したことがないみたいだね~。すーくん、この子食べたらどんなステータスの上がり方するんだろ?」
「……食えるのか?」
「異世界のモンスターは、みんな食べられることで有名だよ?」
「UFOだぞ?」
2人仲良く、モニターを覗き込みながら、他愛のない話をする。
端から見れば、完全にカップルのそれだ。
そんな2人の元へ――とある青年が、声をかけた。
「やあやあ、偶然だねぇ。桃ちゃんじゃないか。久しぶり、今日も可愛いね~」
「――さ、いこっか、すーくん」
五十嵐は見事なまでのスルーっぷりで、武宮の右腕に抱きついて、受付の方へ移動しようとする。
しかし実際、武宮としてもスルーしたい相手ではあった。
オシャレ意識なのか、肩まで伸びているであろう長髪を後ろで結んでまとめた、ロン毛スタイル。黒のタートルネックに、青のジーンズ。身長は180でスタイルは良く、そこそこのイケメンだ。
――長谷川 蓮。かつてのクラスメイトで、桃に片思い中の青年だ。高校時代から、よく五十嵐を口説いては、五十嵐に睨まれていた。
「武宮 昴、か。やれやれ、まだそんな男と付き合っているんだね。偶然、研修が一緒だったから知っているよ。彼のステータスは平凡だ、この業界で上へ上がれる器じゃない」
長谷川がいかにも見下したような声を上げる。
ギロリ、と五十嵐が彼をものすごい剣幕で睨みつける。
長谷川はパーティーを4人引き連れていて、3人が男性、1人が女性であった。4人とも武宮達が知っている人物で、同じ学校の生徒だった。
そんな彼らが「ひぃ」「こわっ……」「殺されないよな……」と戦慄するほどの、五十嵐の表情は怖かったのだが、ハートが強いのか、それとも鈍いだけなのか、長谷川は気にもかけない。
「すーくんをバカにしないで。大体、そこまで大口を叩けるほど、あなたは強いの?」
五十嵐もわかりやすいもので、武宮を侮辱されると反応する。
長谷川もそれがわかって、武宮へ矛先を向けたのだ。武宮は内心で、べつに無視すればいいのに、と思った。半面、怒ってくれる五十嵐の優しさにも感謝した。やはり彼女はとっても大切な幼馴染なのだ。
「ふふふ、よくぞ聞いてくれた。これが僕のステータスさ! レベルも、もう5になった!」
長谷川がステータスを提示する。
長谷川 蓮 18歳 男
レベル5
HP 291
MP 45
攻撃力 66
防御力 61
俊敏 51
魔力 15
精神力 46
スキル 剣術LV1
参考までに、武宮と五十嵐がレベル5であった時のステータスがこちらである。
武宮 昴 18歳 五十嵐 桃 18歳
レベル5 レベル5
HP 270 HP 300
MP 6 MP 80
攻撃力 85 攻撃力 77
防御力 60 防御力 75
俊敏 25 俊敏 61
魔力 6 魔力 81
精神力 36 精神力 70
つまり。結論を出すと……。
(普通だなぁ)
武宮はシンプルに、そう思った。スキルも剣術LV1のみ。可もなく不可もなく。ステータスの数値も上振れているわけでもない。
現状は「普通」。それ以外の表現が見つからなかった。
五十嵐はため息をついて、長谷川へ告げる。
「私達、レベル6だし。意気揚々と見せてきたわりには、普通のステータスに見えるけど」
ふふふ、と長谷川は笑みを浮かべた。
「レベル6か! さすがは、桃ちゃんだ」
「気安く桃ちゃんって呼ぶな」
五十嵐が低い声を上げて抗議するも、長谷川は構わず続ける。自分が喋りたいことを、喋りたいだけの様子だ。
「これは普通のステータスではない。僕にはわかる。そう、これは――この業界で、いずれトップに立てる人間のステータスだ!!!」
「は?」
「このパーティーは、そういう人間の集まりなのさ。有能は、有能同士で集まるからね」
何故か長谷川のパーティー連中も、誇らしげな表情を浮かべていた。
ただ、1人だけは違った。明るく活発そうな、赤髪の短い髪の青年で、あはは、と愛想笑いを浮かべている。心なしか、その青年だけ少し浮いていて、パーティーと距離があるように見えた。
「現実、見えてないのかな……」
一周回って気の毒に思ったのか、五十嵐がそんなことをぼそりと呟く。
武宮はこくりと頷く。
(でも、気持ちはわかるな……俺も前世ではあったよ、そういうの)
前世で武宮は、根拠もなく自分が特別な人間になれると思っていた時期があった。
黒歴史なのだが、大学時代に有名な自己啓発本の影響を受けたことがあるのだ。
会社に所属しないで己のスキル・人脈によって大金を稼ぐ、今はそういう時代で、その生き方こそが正しく成功への道なのだ……と、信じていた。
(思い出してしまう……ビジョンの薄い目標のくせに、絶対成功するっていう、なんの根拠もない自信をもっていた自分が……ああああ、痛い、痛い! 当時の自分が痛い!)
有料のセミナーへ参加したり、資料を請求したりして熱心に「挑戦するということは、全て成功するということである」「無能な人間を切り捨てろ。有能な人間と付き合え」「やりたいことをやれ。必ずそれは大金と経験へ変わる」などという、薄っぺらいメッセージをありがたそうに勉強した。
後々騙されていたということに気がつき、大人しく就職し運悪く社畜となったわけだ。
目の前の彼らは、騙されていた時代の武宮を彷彿とさせた。
冒険者という明確な活動と収入がある分、まだマシと言えるが……。命の危険のある仕事で、身の丈に合わない自信と目標を持つのはかなり危うい行為だろう。
「まあ、見ていてくれよ。僕達は絶対に、成功する!!!」
五十嵐達の冷たい視線に気づかず、長谷川がそう言う。すると、浮いていた青年を除くパーティーメンバーも「「「絶対に、成功する!!!」」」と、大きな声で復唱した。通りすがりの中年のおっさん冒険者が「ああ……若いっていいなぁ……」と呟いていた。
「ぎゃああああああああああっ!?」
刹那。武宮がフラッシュバックして、絶叫と共にその場で悶えた。
長谷川パーティーは、まんま騙されていた当時の自分である。
周りの大学生へ全く同じことを言って、白い目で見られていた。
桃が心配そうに武宮へ近づく。
「す、すーくん? 突然どうしたの!?」
「寄るな! 記憶が、過去の記憶がぁぁぁぁぁっ!?」
「え。なに、中二病キャラになるの? うーん……でも、いいよ。すーくんなら、受け入れてあげるから」
武宮へなんだこいつ、みたいな視線を送りながら、長谷川はパーティーを引き連れる。
「それじゃあね、桃ちゃん。君なら、この最強チートパーティーへいつでも加入して構わないからね」
「早く目の前から消えて。そして二度と現れないで」
長谷川達が受付へ向かう。が、浮いていた赤髪の青年がこちらへ寄ってきた。人当たりの良さそうな表情を浮かべ、両手を合わせ軽く頭を下げる。
「わりぃ、ウチのリーダーが変に絡んでよ。なんか最近、成功がなんだのって、様子がおかしくってよ」
パーティーで浮いていそうな雰囲気の原因は、ここのようだ。
この赤髪の青年は、普通なのだろう。
「ああ、まあ、あれはそういう時期なんだろ……えっと、工藤 文也、だったか」
同じクラスにはなったことがないので、失礼かなと思いつつ、ぼんやりとした記憶で武宮が確認をとる。工藤は親指ぐっと上げて、人懐っこい笑みを浮かべた。
「おう! 武宮と、五十嵐だろ。同じ冒険者同士、なにかあったらそん時はよろしくな!」
なんだか、陽キャオーラのある青年だ。良い奴なのだろう。こんな普通の人が、あんな普通じゃない連中とパーティーとは、中々に地獄である。
と、ここで長谷川が工藤の行動に気づき、大声を上げた。
「おい、工藤! 勝手な行動をするな! たく、お前はいつもいつも、本当にマンガの主人公気取りの奴だな! 自分が特別な人間だと思うな! そんな都合の良い才能なんて、この現実にはないんだ! 現実を見ろ!!!」
(お前が言うなよ……特大ブーメランじゃねぇか)
武宮はつい、心中で呟く。
工藤は「ごめん! 今戻る! ……お2人さん、じゃあな!」と言って、長谷川パーティーへ合流したのであった。
「なんなの。あいつら」
五十嵐が呟く。
「さぁな……」
武宮は肩をすくめた。




