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愛する君はどこにいる?

作者: 二藍
掲載日:2026/03/21

『君が記憶を失っても、君を愛すよ』

それはなんと残酷な言葉なのだろうか? 僕は映画を見て、笑った。


 イルミネーションが煌めき、ここは夢なのかと錯覚させるくらい綺麗な風景が広がっていた。すっかりクリスマスに呑まれた街並み。浮き足立つそれを、一人で歩くには少し寂しい。でも、誰かと歩くのはもっと違う気がした。

マフラーからでる白い息からは、悲しさが溢れでる。涙は寒さで吹き飛んだし、愛は凍てついてしまった。そうだ、そういうことなんだよ。


でも仕方がないだろう、僕の愛する人は眠っているのだから。それはもう深い深い、眠りの底で。 



 これは僕の独白、僕の自分語りを聞いて欲しいだけで、けして共感して欲しい訳じゃない。

より虚しくなる気がするから、より情けなくなって、君に当たってしまいたくなる。

話すのは、僕の好きだった人について。



 誰よりも冴えた頭を持っていて、よく笑う人だった。そんな君が大好きだった。

紅葉も、夕焼けに焼かれる海も、虹さえも君を前には、ちっぽけな美しさ。全てが霞んで見えるほど、僕は君に酔っていた。


 だからかな、君が記憶喪失になったあの夏、僕は君を愛してるって言えなくなった。

唐突なことで、本当に蝉が煩かった事しか覚えていない。急いで駆けたと思う病室に居たのは、君の筈だった。いや間違いなく、君だった。けれどそれは、僕の事を知らない君だった。

夏の魔力に当てられたのか、病室で人形のようにニコリと笑った君。きっと死んでも忘れられられないだろうね。

 まるで好きな人を、その人形に奪われたようだった。子供が大切にしていたおもちゃを壊してしまって、新品を買ってやったことはあるかい? そのときに、これじゃない!!って叫ばれたことは? そんな感じさ。見た目は同じ、だけど中身が違う。なんか、違う。拭えない違和感だけが、僕を取り巻いた。

 突如子供だけが見ている世界に、放り投げられた感じがした。

 だけど大人になっちゃった僕は、笑って、癇癪を起こさずにすんだ。だけど愛してるっていう、気の効いた一言はまったく出てこなくてね。咄嗟に、友人です。って口走っちゃって。でも心のどこかで安心した自分がいた。うまく行ったように。

とっても怖かった、けど確かにこの人を愛せる自信はないかもしれない。心の奥深くで、そう囁かれた気がしたもんだから、もう笑うしかなかった。

彼女もニコッて笑ってくれて、これで終わり。勝手に別れた気になって、悪いことをしたように逃げた。それから、彼女を一度も見てはない。結局は、友人にもなれなかったみたいだ。



 そんなことを忘れかけていた社会人六年目。仕事も軌道に乗って、楽しいく忙しい真っ只中。友人が少ない僕に、結婚式の招待状が来たんだ。

大学のサークルの、まあまあ話すくらいかなレベルの、陽キャな後輩から。手当たり次第に送ったのだろう。でもそれでも、幸せを分けてくれたみたいで、少し嬉しかった。


封を開けて、それから相手の名前を見たらビックリ。なにせ、僕の元カノだったから。

話してなかったけ? 話したけど別れたから付き合ったのかな? そんなことを考えながら、僕は御を消して出席に丸をした。

生憎、独り身なもんでね。行動に制限はないさ。

少しだけ、本当にちょっとだけ、胸が痛んだことは気付かないふりをした。


 華やかな結婚式。

そこに立った主役は、記憶を取り戻していないだろう元カノ。とっても綺麗な気がする。白いドレスに身を包み、まるで天の使いのようだった。

後輩も嬉しそうだし、彼女も幸せそう。

でも僕には笑顔に満ちたこの空間が、あまりにも居心地が悪かった。僕の愛した人を殺してまで、そこにいる彼女が許せなかった。強く握った拳は、ジンジンと悲鳴を上げる。

 途中からは、まるで全てが他人事のようだった。僕と彼らの間に、水の幕が張ったみたいだ。

分かることは、僕の愛した人はもう帰ってこないということだけ。ただそれだけ。



 僕は家に帰ってから、泣いた。

 それはもう、子供のように。



 あのときの君を愛せていたら、世界は変わっただろうね。子供のように、見放さなければ。

涙が枯れて、愛が凍てついて、僕は思った。結局は、自己満足の愛だったのだろうと。

この寒さのせいじゃない、僕の心が冷えきっていたのだろうと。温かい心を何処かに忘れたのだろう。

僕の愛とは、何だったのだろうか?

 残るのは後悔と、床の冷たさだけ。彼女の全てを愛せば、眠る彼女は僕の腕の中、いつか目を醒まして笑ってくれたのかもしれないと。嗚呼、きみの綺麗な心に僕は似合わなかった……いや自ら手放したのか。痛む喉に眉をひそめ、そう思った。


 でも一つだけ教えて欲しい。僕は間違っていたのだろうか? 上部だけの愛を囁くことが、正しいとでも言うのだろうか。

ーーそれとも彼女は変わっていなかった……そんな可能性もあったのだろうか? 勝手に僕が突き放してしまっただけで。

僕の瞳から、喉から、また悲しみの音が独りでに漏れた。



『君が記憶を失っても、君を愛すよ』

それはなんと慈愛に満ちた言葉なのだろうか? 僕は映画を見て、泣いた。

読んで頂きありがとうございます。

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