▽サバイバル ヴァンパイア▽
悠久の時を生きるヴァンパイアの友達が暇を持て余し、最近、同胞達の間で物議を醸し出している、ある質問を僕に投げかけた。
「無邪気な人間がヴァンパイアに質問したらしいのよ。無人島で生き延びるために、3つだけ持って行くなら何がいい? って」
「そんな無茶な。参考までに、その方はなんと答えたんですか?」
「お前を持って行って、無人島にしてやるって返したらしいわよ」
「ははっ……食べてしまえば無人島になるってわけですか。皮肉なジョークですね」
「馬鹿なこと聞くお前はぶちコ○ス」を、遠回しに言いたくなる気持ちもわかる。
人の生き血を啜らねば飢えてしまう我等に、人のいない島で生きろとは。酷な事を言う。
「貴方なら何を持って行くかしら?」
「う〜む……最低限、棺桶は欲しいところです。こういう時、人間なら何を選ぶんですかね」
「その人間は、水と火とナイフを持って行くって答えたそうよ」
「は?」
水は飲むんだろうなとギリギリわかる。
火は料理や灯り、暖を取るためと聞いて、自分にはない発想だなと思った。
夜目が効くし、そもそも体温なんてないヴァンパイアは温まる必要もない。料理はもはや論外だ。
ナイフは色々と使い勝手がいいらしい。
「で、助けが来るのを待つんですって」
「……それは何とも、健気ですね。あんなか弱いのに、仲間が来るまで頑張って生きようとするんですか。ふふっ、同胞が助けに来るって考え方からしてまるで違いますね」
「私も最初聞いた時にイメージ出来なかったわ」
若気の至りで、川を渡れないか試した事がある。まあ、結果はダメだった。
本能的に海も無理だろうなと思っていたので、助けが来るなんて考えがやはりなかった。
「3つもいりません。棺桶さえあれば何とかなりそうだと思いました。貴女なら何を持って行きますか?」
「何も持っていかないつもりだったんだけど、──貴方の口から、銀の弾丸や木の杭とか出ないから、もうちょっと頑張る事にしたわ」
「……そうですか。それは良かったです」
話の流れから、彼女は太陽の光を浴びて灰になろうとしたんだと、容易に想像出来た。
僕みたいに棺桶でスヤスヤ寝ている間に、無人島に人間が移り住んで文明を築けばいいと思えなかったらしい。
年々数を減らしている同胞達。
長すぎる時を生きるのに疲れているヴァンパイアと、そうじゃない者で答えが分かれるのか。
それを抜きにしても色々と考えさせられる、いい暇つぶしになる質問だった。




