ちいさな犯罪者、転田ころんの特訓
転田ころんは小学校五年生の女の子。
彼女の将来の夢は犯罪者!
犯罪者になるためには体術を極め、メカにも精通することが必要だとネットで聞きかじり、今日も自主的な特訓に励んでいた。
「博物館から秘宝を盗み出したら、川を潜って逃げるの。だから、水泳のスキルが必要っ!」
ころんは近所のドブ川に飛び込み、泳ぎを鍛えることにした。
自分がカナヅチだということなど、その時の興奮のあまり、忘れていた……。
「毒を盛られてもすぐに見抜き、いかにそれがうまそうでもけっして口にしない、不屈の精神力が必要よ!」
ころんは生クリームたっぷりのプリンに自ら下剤を仕込み、それを目の前にしても口にしない修行を己に課した。
ものの数秒で耐えきれなくなり、プリンを一瞬で食べきると、その後一日じゅうゲリダ豪雨に見舞われた。
「高いところから飛び降りても骨折とかしない、華麗な体捌きを身につけなきゃ!」
ころんは小学校の二階から飛び降りた。
足をクッションのように柔軟に使い、華麗な着地に成功した。
調子に乗って五階から飛び降りようとして、先生に止められ、捕まりそうになったのを振り切り、二階の窓から「とうっ!」と飛び降りたものの、今度は着地に失敗して足首を捻挫し、三日間学校を休んだ。
「ターゲットのおじさまをハニートラップにかけるわ!」
ころんは色気を磨いた。
ママの化粧品を勝手に使い、ネットで色気のある動き方も研究した。
身体じゅうからハートを飛び散らせる技も習得した。
しかしいざ実際に大好きな同級生の諫山くんの前に出ると、テレテレとなってしまって何もできなかった。
「武器の使い方も極めておかなくちゃ!」
ころんの髪型はお団子ヘアーだ。
ころんはお団子に武器を仕込んだ。
軽い身のこなしで転がりながら、それを投げつけた。蚊取り線香だ!
投げつけられても蚊はダメージひとつ負うことなく、プ〜ンと飛んでいった。
「やっぱり蚊取り線香には火をつけなきゃダメか……」
すべての特訓は将来、犯罪者になるためであった。
絶対にキャッツアイみたいになって、レオタード姿で世界じゅうのものというものを盗んでみせる!
カトラリーとか、鹿の角とか、青白の豆皿とか、そういうものというものをすべて自分のものにしてみせる! お金を払ってもいい!
彼女がそんな野望をちいさなその胸に抱いているのは、大好きな諫山くんが刑事の息子だからであった。
「大泥棒になって、諫山くんに追いかけてもらうの。世界じゅうが二人の舞台だわ!」
転田ころんは今日もどこかで特訓をしている。
転んでも、転んでも、立ち上がる!
イラストはコロンさまhttps://mypage.syosetu.com/2124503/よりいただきました