老樹の精
〈薔薇咲いて棘の事など忘れ去り 涙次〉
【ⅰ】
カンテラ一燈齋事務所付開發センター管理者。閑職かと思ひきや實は結構忙しい。先日も安保さんが來てアンドロイド製作してゐたし(伊達剣先の件)、昨日もカンテラが來て方丈を使つてゐた(「小さガミ」の件。エンディングの念を煙にして吹き掛ける、その煙の「仕込み」をしてゐた)。その度に、お茶を出したりとか、雜用は兎も角として、火元の管理をしなくては(機械造りには火は付き物であるし、カンテラの「修法」は護摩壇でいつも火を焚いてゐる)ならない。事が終はつたら後片付けもしなくてはならない。牧野である。
【ⅱ】
「おーい、麻之介~!」と、そんな忙中を縫ひ、庭の樹の世話。今日は茂り過ぎた枝を伐らうか、と云ふ譯で、これは一人では出來ない。庭男の時軸を呼んで、枝伐りを云ひつけようか、と、そんな景色ではあるが、その風景にそぐはぬ人物像(?)が一人分、紛れ込んでゐるのであつた。【魔】、「翁」である。
彼は樹の根方に坐し、「私が手傳はうか?」と云ふのであるが、管理者・牧野、「なんだ爺さんも食ひつぱぐれかい? こゝはそんな人たちの集ふ慈善團體ぢやあないんだぜ」‐「何を仰る。私はたゞの老木の精ですよ」‐「【魔】かい?」‐「さう呼ぶ人もゐますね」‐「この樹、そんなに齡を取つてゐるやうには見えないが」‐「でも、實際、私は見續けてゐるのですが、かなりの樹齢ですよ。その証拠に私はお爺ぢやないですか!」
【ⅲ】
時軸が來た。「遅くなつて濟みません。、と、『翁』の爺さん(同義叛復である・笑)、何しに來たんだ?」‐牧野「知り合ひかい?」‐「まあ魔界では。この人間界で出逢ふとは...」‐「だうやらこの樹に取り憑いてゐるみたいだね。爺さん、枝を伐るのが不服なのかい?」‐「折角繁つたのに、勿體ないですよ」‐「この人間界にはな、爺さん、『翁』さん? 日照権とかさう云ふやゝこしい決まりがあつてね」‐「ぢやせめて私に伐らせて下さいよ」‐「梯子登れるのかい?」‐「さう舐めなさんな」實際彼は器用にやつてのけた。「あゝ、そんなもんでいゝよ」‐「ぢや失禮して」‐彼はどろんと消えた。老樹と同化したのである。
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〈猿山の可愛と云へば子猿のみ玉蜀黍を手にきよとんとし 平手みき〉
【ⅳ】
「一口に【魔】つて云つても、色んな者がゐるんだなあ」‐時軸「さうですね。彼は人畜無害ですよ。こゝで飼つてやれば?」‐「飯代かゝらないならいゝけど」‐「樹と同化でしてるからその點は大丈夫です」‐「なる程」
と云ふ顛末。老樹の精「翁」を「センター」では飼ふ事に決定。事後報告になるが、カンテラに連絡。カン「なんだ斬らなくていゝの? それならそんなに焦つて報告に來なくていゝのに」‐じろさん「なんかお能にそんな話あつたな。老人の樹の精」なんやかんや云つてをりますが、要は一味メンバーが増えたつて事なんぢやない?
【ⅵ】
「さうねえ。ボタニカルな案件なら、役に立つかも知れないし。」‐と尾崎一蝶齋も云ふのである。特別顧問がいゝと云つたら、決定なのだ。と云ふ譯で「翁」、新キャラです。
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〈蟻地獄蟻の一生喰らうたり 涙次〉
何だか、じろさん、尾崎と安保さん、そして「翁」と爺イの花園化してますが... ま、いゝか。さう云へば、中年は(カンテラを除けば)肝戸平治しかゐない。その叛動か。
「翁」の活躍(そんなシテュエイションあるのか、果たして・笑)を待たう!! そんぢやま。また。