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解放  作者: 爆竹
第一章-壊れていく日常
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ふたつの沈黙

夕食の準備をしていると、香梨奈がぽつりと声をかけてきた。


「今日は……仕事、大変だった?」


私は包丁を止め、少しだけ間を置いてから「まあまあ」と答えた。


会話はそれきりだった。


香梨奈はそれ以上、何も言わなかった。

私も、何も聞き返さなかった。


それはたった数秒のやりとりだった。


けれど、その沈黙の中に、すべてが詰まっているような気がした。


私たちは、同じ部屋で、同じ空気を吸っていた。


同じ食卓に並び、同じ時間を過ごしていた。


でも、心は遠かった。


壊れてしまった関係を修復するには、

言葉が必要だということはわかっていた。


けれど、いまの私たちには、

言葉を発する勇気も、受け止める覚悟も、どちらもなかった。


香梨奈の沈黙と、私の沈黙。


それはただ静かに、互いの距離を肯定し合っていた。


食卓を囲みながら、

私は何度も、フォークを持つ手に力を込めた。


「どうして?」と問いかけそうになるたび、

その言葉は喉の奥で小さく砕けていった。


子どもたちが笑っている。


食後のデザートにアイスが出て、はしゃいでいる。


私も笑う。香梨奈も笑う。


けれど、その笑顔の裏側では、

互いに声にならない叫びを押し殺していた。


——このまま、話さなければ、すべては静かに続いていく。


それが、いちばん恐ろしかった。



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