表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
解放  作者: 爆竹
序章-終わりと始まり
1/52

理想の輪郭

その日までは、幸せだった。


幸せだと、信じていた。


自分には縁のない話だと思っていた。


――その日は、突然訪れた。



色鮮やかだった世界から、色が消えた。


信じていたものが、音もなく崩れ落ちた。


自分自身さえ、信じられなくなった。



それでも、

私は受け入れた。


足掻いて、もがいて、そして――諦めた。



知らなくてもよかったことを、知ってしまった私。


その瞬間、

私の中に眠っていた欲求と才能が目を覚ました。


抑え込んでいた感情が、静かに、しかし確かに動き出した。



その日、

私の中にあった欲求は、ついに解き放たれた。


その日、私の人生は――終わった。


……いや、正確には「終わり」ではなかった。


想定外の裏切りを受け、それまでとはまったく異なる価値観のもと、

新たな人生が始まった。


これは、その始まりの物語である。


私の名前は松本弘樹まつもと・ひろき、四十歳。

大阪市内で小さな会社を経営している、ごく平凡な男だ。


家族は、妻の香梨奈かりな、長女の夏鈴かりん、長男の蒼空そら

四人で、静かに暮らしている。


見た目は中肉中背。

特別かっこいいわけでもなく、むしろ女性には奥手なほうだった。

よく言えば穏やか、悪く言えば優柔不断。

人に合わせて生きる方が、ずっと楽だった。


恋愛経験は平凡だった。

小中高を通じて、異性にモテた記憶なんてない。

初対面ではよく緊張し、顔が真っ赤になる癖があった。

どこにでもいる、ただの男――それが私だった。


そんな私が三十歳のとき、香梨奈と出会った。

出会いは職場だった。

そして、いわゆるスピード結婚。


当時の私は、人生のどん底にいた。

電気代さえ滞納し、その日暮らしで精一杯。


そんなときに現れた彼女は、まるで運命のように思えた。


交際が始まってすぐ、私はプロポーズした。

勢いだったが、迷いはなかった。


結婚してすぐ、子どもが生まれた。

長女の夏鈴。

そして、長男の蒼空。


子どもができてから、私は大きく変わった。

それまで無計画だった私は、昼夜を問わず働くようになった。

香梨奈が望むものを与えたくて、ただがむしゃらに働いた。


家族の未来のために。


それが、幸せだった。


「これでいい」

「これが、理想の人生だ」


そう信じていた。

心から、満たされていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
物語を第6章まで追ったが更新がまだなので改めて序章を読んでみたが、この静かな序章が持っていた熱量に改めて驚かされる。 初読ではただの穏やかな“始まり”に思えた一夜の食卓が、今では無数の予感と選択の交…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ