不貞の罪
だいぶ昔に書いたものなので、とりあえずUPしますが、手直しをする可能性があります。
世界の残酷な処刑について調べているときに、何となく思いつくままに書きました。
クレーバーン王国の次期王妃になるべく、血の滲むような努力を重ねてきた。
マナーはもちろんの事、隣国の言葉も最低限の会話ができるように学び、恥ずかしくない程度に歴史も頭の中に叩き込んだ。
王立学園に通う年になると、王太子妃の仕事に加えて、生徒会の仕事も増えたから目が回る忙しさ。
王太子妃や生徒会の仕事だけの仕事だけでなく、王太子ブルーノ様がやり残した仕事も補っているもんだからアンネットには休む暇もなかった。それを苦たと思ったことは無い。
仕事はできる人がやればいいし、できない事を無理にする必要はないとアンネットは思っていた。
「最近、王太子の仕事を回さ過ぎではないかしら?」
ふっとした疑問から疑惑へ変わるのはそう時間はかからなかった。一度疑惑を持てば不審な点はいつも出てくる。
王太子の仕事が忙しいと言い生徒会の仕事を押しつけられる事もしばしばあるが、王宮に顔を出してもブルーノ殿下は居ないことが多い。まさか、不貞をしているのでは……? 王族と言え、不貞は大罪にあたる。そんな事も知らない愚か者ではない筈だと思いながらも疑惑は膨らむばっかり。
一夫一妻のクレーバーン王国の我が国では、側妃も認められていない。女神様がお怒りになるからだ。
「これは調べる必要があるわね」
もし、不貞の真実がある場合は言い逃れできない証拠を提示しなくてはならない。相手はなんなって王族だ。一歩間違えれば私が訴えられかねない。ここは慎重に行動をしなければ。
「家族にも相談できる内容でもありませんし、困ったわ」
いつでも不貞の証拠を取れるように小型のカメラが必要ね、映像だけでなく声も録音できような魔道具。
あれと、あれを用意して、あれをこうしてと頭の中で設計図を思い浮かべる。
「善は急げよ」
アンネットは、魔道具工房へ向かう。
アンネットには両親ですらも知らないもうひとつの顔があった。それは、魔道具を造ること。
「アン様、今日はお越しの予定は無かったのでは?」
「ちょっとね、急遽作りたいのがありまして」
何か事情があるのだろうとアルトは思い、深く追求することはなくそのまま己の作業へ入った。
どのくらい時間が過ぎただろうか。
「できたわ」
「これ何ですか?」
「メガネ式の小型カメラよ。ほら、秘密裏の調査にぴったりでしょう?」
アンネットは悪戯に笑う。
「では、こちらは?」
「こっちも可能性は同じだけど、風景に同化するの。このボタンを押すと」
先程まで見えていたその生物型小型カメラ。言っちゃ悪いが、何故、気持ち悪い爬虫類にしたのかが分からない。機能は凄くとは思う。気持ち悪い生き物の存在が消えた。
「持ち上げると戻るの。場所を忘れてしまったときが難だけど、機能は良いはずよ」
何に使うつもりなんだろと疑問に思うが、聞かないのが野暮。
その理由は直ぐに明らかになった。
アンネット様の婚約者のブルーノ殿下が不貞をしているかも知れないと、調べるためのものだと知った。
杞憂に終われば良かったが、不貞の証拠を撮ってしまったのだ。
その相手がタチが悪かった。
相手は、アンネット様の妹君のリリアナ嬢だった。それも、アンネット様の両親は知っていて妹の幸せの為ならば姉は堪えるべきだと、何馬鹿げたことを申しているだと友人として怒りが込み上げた。
それも全て映像として残っていた。
リリアナ嬢のことを溺愛していることは周囲の事実だが、アンネット様がどんなに頑張っていたか知っている筈なのに、リリアナ嬢の幸せの為にアンネット様の幸せは諦めろと、こんな可笑しな話はない。
彼らはこれから罰を受けることになる。
この罰は何百年以上も実行された記憶は無い。
それ程に不貞は恥じるべき行為。
「な、アンネット、許してくれるよな? 俺のこと好きだろ」
「……」
「そうよ。お姉様は妹である私を許すわよね? 二人きりの姉妹だものね」
「………」
「愛しているから、俺の為にいろいろしてくれただろう?」
「……」
「一度の過ちぐらい許すべきだわ」
「……」
「何とか言えよ」
「何か言ってよ」
ブルーノ殿下とリリアナの声が見事にはもった。
「何を許せばいいのでしょうか? 不貞が暴露たとき、私を嘲笑い貶したこと? 何も知らずにせっせと王太子の仕事までも補ったこと? 愛されている、頼られていると思い違いしたこと? 何を許せばいいのでしょうか」
許せるわけない。
謝る事もなく、アンネットを嘲笑い、今の今まで気づかなかったアンネットを馬鹿にし笑った。
「あ――、不貞を国王陛下に密告したことでしょうか? 言っていましたね。国王陛下に不貞を話しても意味はないと、ドーミエ夫妻も知っている事だからリリアナの見方だと。否定するし、逆に王族侮辱罪で訴えいると」
機械のように淡々と語るアンネット。
名前を呼ぶ声が聞こえるが、アンネットは届かない。
「これより、石打ち刑を執行する。――罪人、ブルーノ・クレーバーン。続いてリリアナ・ドーミエ」
着ぐるみ身一つ付けずに十字架の鉄の棒に括り付けられ、はしたないわとアンネットは思う。
アンネットだけで無い。集まっている全ての国民が同じことを思っていた。
石打ちの刑はもっと残酷な刑として知られている。
時間は1時間程度だが、一週間かけて刑を執行し、簡単には天へ逝けない。苦しんで、苦しんで、じわじわと死へと誘う。
初日から3日目は小さな石を使い、4日目から6日目は中くらいの石と決まりがある。最終日の7日で大きい石を使う。
小さな石でも大勢の人に投げらればそれなりの傷になる。そのまま放置されて、持ち越される。
一週間生きながらように無理矢理でも飲食を与えられるが人間としての尊厳は無いに等しい。不貞はこれほどに罪が重い。
妹のリリアナには婚約者は居なかったが、兄弟姉妹の婚約者、或いは配偶者と不貞をした場合は同罪の刑が執行される。
「殺してくれ、――死なせてくれ――‥‥」
「痛いの、――痒い、死なせてよ」
死を願うほどに苦痛らしい。
この刑が残酷と言われる由来である。
私をいつも馬鹿にしていたけど、馬鹿はどちらなのか。
言い忘れておりました。
ドーミエ夫妻――いいえ、元でしたわ。
元ドーミエ夫妻は、不貞幇助罪に問われて貴族籍から除籍され平民に落ちてしまいましたわ。
ドーミエ侯爵は私が女侯爵として引き継ぐことになりました。
※石打ちの刑について―――
不貞をした男女の処刑。
実際の石打ちの刑は、穴を掘り土に埋められます。
男性は首から下、女性は膝から下、土に埋られます。
抜け出すことができれば罪から逃れられるそうです。
抜け出す事は不可能に近いそうですが。