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第17話 解答編1-1 Who Killed Mukunoki ?

「まずはお集まりいただいてありがとうございます」


 凪沙がそう言って深く頭を下げた。そうするのは、いつもの事だった。凪沙の普段の傍若無人な態度からすればなかなか素直に頭を下げることなどしないのだが、探偵業のことになるとプライドなどはかなぐり捨てて最善手を選ぶのはプロという感じがする。いや、俗にいう解答編の探偵に憧れているだけなのかもしれないけれども。


「それで、どうされたんですか。急に全員を呼び集めるなど」


 中道さんは不思議そうに尋ねる。先ほどまで外にいたせいか、寒そうに手をこすり合わせている。いくら慣れているとは言えども、人が生活するのに適した温度とはとても言えないから仕方がないだろう。ただ、いざというときには働いてもらわないといけない。仮に犯人が逆上して中道さんに襲い掛かるなら、他の人で抑えこむしかない。私でも覆いかぶさって動きの邪魔をするくらいの事はできるはずだ。


 各々が好き勝手に話す中で、凪沙がすうっと息を吸ってからその透き通った声を発した。冬の空気は、冷たくて空中のゴミや塵が少ない。雪にからめとられていくからだ。その声が一山を越えていくほどにストレートに全員の胸を刺す。


「この一連の事件。増吉、修一、英二を殺害した犯人がわかりました」


 凪沙がそう言った瞬間、全員が言葉を止める。強い吹雪が窓をがんがんと打ち鳴らす音だけが響いた。誰もがお互いの顔色を窺いながら、次の行動を、言葉を探している。中道さんが恐る恐る、聞いてきた。


「それはどなたですか?」


 そう言いながら、凪沙から遠ざかろうとした。しかし、凪沙はそれを手で制する。


「まず、順番に殺害方法を説明していきます。犯人はまず、増吉を殺害しました。それによって、こうして他の殺害対象である三兄弟がこの館に集まることを想定していたんでしょう。犯人の思い通りに、椋木の一族は全員がこの館に集合しています」


「そこから犯人の計画だったんですね」


 犯人の目的はほぼ間違いなく椋木家への復讐。そして、増吉が殺害されたとなれば三兄弟も含めて全員がこの館に集合して今後のことを話し合うというのはごく自然な流れだった。事実として跡取りがいない椋木グループを誰かが手に入れたとしても他の兄弟の力なしにはスムーズに運営はできないからそうなるだろう。


「ええ、そうです。犯人はおそらく椋木一族に恨みを持っている人物でしょう」


 凪沙が言うと、四葉さんは自らの体を抱くようにして私の後ろへと隠れた。だが、凪沙の見立てでは四葉さんは殺されるわけじゃない。犯人が四葉さんまで殺害してしまうのならば、もうすでに殺害されているだろう。


「大丈夫ですよ。今から、探偵さんが解決してくれますからね」


 私は優しくて暖かい声を意識しながら、振り向いて四葉さんの肩に両手を置いた。この危険な状況でも四葉さんは私と凪沙には全幅の信頼を置いてくれるらしく、優しい微笑みがこぼれた。本人が過去にした選択を疑うことはあまりない。また、凪沙と私はあくまで部外者だ。


「まず、増吉がなぜ殺害されたのかですがここで働いている皆さんもご存じの通り、一代で椋木グループを築き上げた増吉はその巧みな経営手腕の裏でかなり黒いことをやってきました。軽く調べただけでも政治家や警察への贈賄行為。暴力団との繋がりもあることは全てわかっています。なので恨みを買うことも多かったと思いますが、その中でも離婚された幸代さん。彼女はおそらく父と叔父を増吉の手によって殺害され、父が経営していた会社の権利をすべて奪い取られて最終的には増吉から家を追い出されました。その恨みは想像もできないほど大きなものだったでしょう」


「なら、幸代様の付執事だった中道さんが?」


 柴崎さんの言葉に、部屋中の視線が一斉に中道さんへと向いた。それに抵抗するように中道さんは目を少し吊り上げる。部屋の緊張が一段と強くなった。


「落ち着いて、中道さんはその表情をやめてください。今から説明するから。増吉たちが殺害されたのは恨みだけではありません」


 そう言ってから凪沙はポケットから四つ折りにされた一枚の紙を取り出した。


「これは、ある病院の出産記録です。日付は三十五年前の七月です。出産をしたのは幸代さんでした。これはきちんと病院と警察に確認してもらっています」


 凪沙はそう言って、紙を開いていく。その病院名や幸代の名前、そして出産した子供の名前がそこに書いてあるのだろう。


「時期で言えば、ちょうど離婚をされてから半年ほど後のことです。幸代さんが出産したのは元気な男の子でした。名前は、幸四郎」


 四の文字。これが何を意味するのかは、この場にいる全員が理解したことだろう。修一、英二、雄三と三人続けて名前に「四」が入っている。


「つまり、増吉様と幸代様にはもう一人、子供がいたと」


 中道さんの驚きようからして、どうやら本気で知らなかったようだ。まあ、妊娠四ヶ月。いや、離婚成立したのが四ヶ月だから中道さんが見たのはもう少し前の幸代だから気が付かないのは当然だろう。


「じゃあ、その息子が幸代様の復讐として増吉様たちを?」


 久米さんが発した言葉を、すぐに凪沙を首を横に振って否定した。


「いいえ、違うわ。幸四郎は今は病気で入院している。そもそも、三十五歳の近辺の男性すらここにはいない。ただ、幸代にはもう一人の子供がいたの」


「もう一人の子供?」


「ええ、増吉と離婚した後に幸代は再婚したの。今はその再婚相手も幸代も既に鬼籍に入っているからもう何もできない。そして、元々は幸代の家族が所有していた会社も全て増吉が手に入れた。ただ、その再婚相手との間に生まれた子供。その子が今回の事件、増吉、修一、英二を殺害した犯人です」


 その瞬間に、全員の視線が柴崎さんと今泉さんに向けられた。幸代の娘という時点で、年齢で中道さんと久米さん、黒崎医師。血のつながりがはっきりとしている雄三と四葉さんは除かれる。その他にこの六花館にいるのは凪沙、私、柴崎さんと今泉さんだけだった。柴崎さんと今泉さんがぎょっとした表情になり、お互いの顔を見ている。もちろん、本人たちの間ではどちらかが犯人かわかっている。


「最後に聞いてあげるわ。自白する気はないの? ここまで聞けば、私がもうすべての謎を解き明かしていることはわかるでしょう?」


 凪沙が最後に問いかけるけれども、誰も答えない。少し寂しそうな顔をしてから、きちんと顔を切り替えて凪沙は話し始めた。


「仕方がないわね。これが答えよ」


 凪沙は、きっぱりと犯人に向かって指さした。そして、大きな声で告げる。


「椋木増吉、修一、英二を殺害した犯人は、今泉由梨。いや、浦宗由梨。あなたよ」


 凪沙がそれを告げると、今泉の近くにいた柴崎さんや雄三はすぐに飛びのいて距離を取った。久米さんや中道さんもそれに続く。一直線上に凪沙と今泉が向き合い、他の人はみんな凪沙か私の後ろにいる。しかし、今泉は冷静だった。


「ちょっと、待ってください。私は犯人? そんなわけないですよ」


 困惑している様子は、いつも通りだった。テキパキと仕事をこなし、真面目な性格ながらも普通の女の子らしい、年齢に合った表情も見せる彼女。


「へぇ、なにか反論があるのかしら」


「だって、英二様が殺害された時に私は小伏さんと渡橋さんと三人で一緒にいたじゃないですか。渡橋さんの髪をなおしながら話をしていたのを覚えていますよ」


「そうです、それにあそこは二重の密室だったんじゃ?


 確かにその通りだ。地下の物置でガラスが割れる音がした時に、確かに私は今泉に髪を直してもらっていた。そして、その場所には凪沙もいる。柴崎さんの言うように、二重の密室だった。だけど、そのトリックは既に解き明かされている。


「今からそれを説明するわ。地下に行きましょ」


 凪沙が歩き出すと、全員がそれに従って動き出した。今泉には、中道がいつでも抑え込めるようにと構えているが、今泉はそれに動じていないように私からは見えた。

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